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121 3本角のディオコーン


「あら! 珍しいわね。緊急メールが届いたわ」

「また魔獣が町に接近したのか? それなら騎士団がいるはずなんだが」


 仮想スクリーンを開いたアヤメさんの表情が、だんだんと硬くなっていく。

 もっと大きな事ってことらしい。


「今朝早く発った騎士団が襲われてるみたい。場所は……、街道のセーフティ・エリア内よ!」

「急ごう!」


 お茶のカップを片付け、焚き火はツバキさんが残ったお茶を掛けて消している。私達はGTOに乗って、2人の準備が終わるのを待った。


「モモちゃん、行けるか?」

「こっちはだいじょうぶです。ツバキさんの後を追いますけど、相手は?」

「ディオコーンらしいが、角が3つだと言ってたぞ!」


 駆けだしたスレイプニル~教えてくれたんだけど、まだ何か言っているようだ。

 ディオコーンの角は2つで、黒鉄くろがねの胴を突き通すほどの威力があったんだよね。その角が3本だとすれば、トリコーンになるんじゃないかな?


「角が3つは図鑑にも載ってない」

「キメラなんだろうね。角が2本のキメラもいたから、それ以上の魔物だと思うよ。ヤバそうなら、最初から形態を上げるよ!」


 うんうんとタマモちゃんが頷いている。

 ニンジャが上忍になっても、攻撃の威力はそれほど大きく変わらないのが難点だな。

 素早さと攻撃の多様さは魅力ではあるんだけどね。

 やはり、キュブレムを使おうかな?

 その時の私の能力がそのまま人形に反映されるから、攻撃力が格段に上がるに違いない。

 武装が変わらないのが難点だけど……。

 

 先行するツバキさん達が森の木々を回避しながら進んでいく。後を追う私達はGTOが力任せに進むから立木をへし折っている。

 ちょっとした道が出来てしまうのは、この際諦めて貰おう。


「アヤメさんからメールが来た。30分は掛からないみたい」

「到着と同時に黒鉄を出した方が良いかもしれない。準備はだいじょうぶ?」

「問題ないけど……、ロブネスも出した方が良いかな?」

「向こうの状況次第ってことかな」


 キング〇ドラなんて出したら、周辺一帯が焼け野原になりかねない。

 レムリア世界の景観担当は……、農林水産省だっけ? 元に戻すためにスパコンにかなり負荷を掛けてしまいそうだ。

 

 相変わらず森の中を疾走している。

 仮想スクリーンを作って周囲を見てはいるんだけど、あまり大型の獣はいないようだ。

 たぶんこれが本来のこの森の姿なんだろうね。


「遠くで戦闘しているみたい。かなり劣勢だよ」

「追い抜いちゃおうか!」


 いきなりGTOが速度を上げる。立ちふさがる木々はへし折るというより吹き飛んでいる。

 これも問題になるんじゃないかなぁ? とは言え、現状では仕方がない。

 姿をニンジャに変え、バッグから人形を取り出して握りしめた。

 

 突然森が消えて私達を乗せたGTOが広場に飛びだした。

 GTOから飛び下りながら人形を起動して、キュブレムの中に入る。

 広場に降り立ったキュブレムを、騎士団の人達が立ち止まって眺めてるんだけど、今は戦闘中だからね。


「助太刀します!」

 

 大声を上げて、前方のディオコーンに肉薄し長剣を一閃する。素早くジャンプして距離を開けると、私の目の前に黒鉄が出現した。

 また形が変わっている。

 少しスレンダーに変わっているし、大きなマサカリを持ってるんだよね。

 突進してきたディオコーンにマサカリが振り下ろされると、大きな音がしてディコーンの姿が消えてしまった。


 一撃だね。力比べだけではなくなったのは嬉しく思えるけど、やはりどっかで見た姿なんだよなぁ……。


「姉様。小物は黒鉄に任せて、我等はあれを……」

 

 上から声がしたので見上げたら、アダルトタマモちゃんが9つの尾を広げて滞空していた。薙刀の先にいたのは、3倍ほどの大きさのディオコーン……、いや、トリコーンだった。


 何時もの手で行こう。私が翻弄してタマモちゃんが止めを差す。

 キュブレムのお尻の装甲を上げると、ボルトを射出する。私の人格を分離して1人にボルトの操作を任せれば、勝手にボルトが動いてくれる。

 光属性魔法で作るレイガンの一撃は各ボルト共に3発だけど、魔物には効果がありそうだ。

 

 右手に移動しながら、素早く接近すると斬撃を浴びせて後退する。いつも通りのヒットエンドランを繰り返せば、私に注意が向くはずだ。

 追いかけようとするトリコーンにレイガンが命中する。たじろぐ姿を見ると光属性魔法が弱点のようだ。

 とは言え、もう少しレイガンが強力だと良いんだけどねぇ……。


 たじろぐというよりも、怒ってるのかもしれない。速度を上げて私に迫ってくる。

 左に旋回するよな形でトリコーンの突進を回避した。気分は闘牛士だ。

 次の突進はカウンターを入れようかと考えてると、上空から一条の光線がトリコーンに降り注ぎ、トリコーンが爆炎で包まれる。

 レイガンは数cmの細い光なんだけど、あれもその一種なんだろうか?

 上空のタマモちゃんが笑みを浮かべているのを見ると、発生源は間違いなくタマモちゃんに違いない。


「おや、まだ死なぬか……。姉様、下がって欲しいぞ。次は連続で食らわせてやる!」


 よろよろと私に向かって歩き出す姿は、かなりの重傷だと思うんだけどねぇ。

 とりあえずジャンプして後方へと着地した。

 直ぐに、あの爆発が前方で起こる。

 あれでは助からないんじゃないかな。3発がほとんど同時に着弾したみたいだ。


 爆炎が晴れた後に残ったのは直径15m程のクレーターだった。

 トリコーンの姿はどこにもない。

 

「あれでおしまい! この姿になっちゃった」


 GTOの甲羅の上に、何時ものタマモちゃんが乗っていた。

 魔力切れってことかな。さすがに2段階上げた上位職で長時間戦うのは現状では無理があるようだ。

 

「ご苦労様。何とかなったみたい。ツバキさんの方はどうなってるんだろう?」

「まだ頑張ってるよ。黒鉄に誘導しているから向こうもそろそろ終わるんじゃないかな」


 黒鉄がいなかったら、どうなってたか分からない。

 ツバキさん達だって、怪我では済まなかったかも。騎士団でさえ被害が出てたんだから。


「終わったみたい。アヤメさんが騎士団の治療を始めてる」

「なら、手伝わないといけないね」


 キュブレムから下りて、ディオコーンとの闘いの跡に向かうと、周囲の森がかなり破壊されていた。

 こっちの戦いもし烈だったようだ。


「あれを何とかしてくれたのかい。こっちも何とかだ。魔石を回収したけど、モモちゃん達の方は?」

「ちょっと大威力の魔法を使ったので、跡形もなく吹き飛んでしまったようです。回収できませんでした」


 私の言葉にちょっと残念そうな表情をしたツバキさんだけど、直ぐに元の顔に戻った。

 キメラを倒すことが目的であって、その魔石を回収するのが目的ではないと気が付いたんだろうね。


「とりあえず無事で良かったよ。俺達もあのロボットがいなければ危なかったからね」

「ゴーレムらしいんですけど、確かにロボットですよねぇ。皆にどこかで見たことがあると言われるんです」


「そうなんだよなぁ……。消える前に、撮影しておこう。後でオタク連中に自慢できそうだ」


 タマモちゃんに、「ちょっと待ってくれ!」なんて言いながら撮影をしてるから、タマモちゃんが黒鉄に寄り添ってサービスしている。

 写真集なんて作られないよね? 後で確認しとかないと……。


「助太刀感謝する。だが、あれをよくも倒したものだ」

「お茶を作りました。少しお話をしたいのですが……」


 大柄の騎士と、小柄な女性騎士。女性は副官みたいだな。自衛隊の人達なんだろうけど、普段はどんな仕事をしているんだろう?


 案内されるまま、焚き火の傍に腰を下ろす。

 GTOと黒鉄は戻したみたいだ。目立つ存在だから、早めに戻しといた方が良いからね。


 お茶を入れたカップを受け取り、少し冷めるまで近くに置いておく。

 タマモちゃんは一緒に頂いたお菓子を早速食べ始めた。

 副官のお姉さんに頭を撫でられて目を細めている。


「とりあえず助かった。感謝する。やはり相手は例の奴か?」

「それについては、こちらのお嬢さんの方が詳しいでしょう。私も聞きたいところです」


 2人の顔が私に向けられた。

 レムリア世界を守ってくれてるんだから、ここは正直に話しておいた方が良さそうだ。


「モモと言います。隣のタマモちゃんとパーティを組んで冒険をしています。

 隊長の言われる通り、この世界の侵入者の残した残滓と考えてます。

 西の大陸にかなりの数が侵入しました。この世界に影響が出る前に騎士団と警邏さん達が倒していますが、完全ではありません。

 その1つが、ツバキさんが回収した魔石です。回収次第、警邏に届けていますが、どうやら何らかのプログラムがその正体らしいです。

 その魔石を魔獣や冒険者が取り込むことで、あのような形態、私達がキメラと呼んでいる姿に変わるようです。

 恐ろしいのは、その魔獣に率いられる魔獣もレベルが上がってしまうところですね。冒険者の被害で、その存在が分かる時もありました」


「そう言うことか。西の連中も状況報告を他の部隊にしてくれると良いのだが……」

「あちらは、所属する方面軍が違いますから、でも統合本部には情報は上がってるでしょうね。情報局の怠慢では?」


「あり得る話だ。全く、事なかれ主義には困ったものだな。最後に1つ聞きたい。あのロボットは量産できるのか?」

「無理ではないかと。タマモちゃんのイニシャル装備ですし、私達はプレイヤーではありません」


「何だと! ……本当だ。NPCになってるぞ。だが、NPCなら地域固定ではないのか?」

「どうやらその設定は無いようです。レムリア世界をプレイヤーの方々と共に冒険をするような設定なのでしょうが、私達には詳細設定を見ることはできません」


 残念そうな表情を隊長さんがしている。

 隣の副官さんは苦笑いしていた。

 分からなくもない。黒鉄は強力な盾として機能する。

 今回は縦だけではなく、近接戦闘能力まで手にしているからね。魔獣との闘いで数体を出せるなら、かなり上位の魔獣でさえも倒すことが出来るに違いない。


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