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120 ポニー姿のスレイプニル


 スズメのお宿で朝食を頂いているのは、私とタマモちゃんの2人だけだった。

 宿泊客が私達だけだから仕方がないとは思うんだけど、ちょっと寂しく感じてしまう。


「はい、水筒よ。お茶が入ってるわ」

「ありがとうございます!」


 温めるだけで、お茶が飲める。少し大きな袋に入ったお弁当も期待してしまうんだよね。


「おはよう! と言っても、今朝食なのか? 少し遅い気がするなぁ」

「こらこら! あんただって私が起こさないとまだ寝てるじゃない。……コーヒーを2つお願い」


 挨拶しているお姉さんに、アヤメさんが頼んでいる。

 テーブル越しにタマモちゃんの隣に腰を下ろしたツバキさんがばつが悪そうな表情をしていた。

 私の隣にはアヤメさんが腰を下ろした。手槍のようだけど、穂先近くに2つの魔石が埋め込まれているところを見ると、魔導士の杖として使えるのかもしれない。

 レンジャーのツバキさんは短剣と弓を持っている。私と同じような装備だけど、こうなると前衛は黒鉄クロガネが頼りということになるのかな?


「モモちゃんはレンジャーでしょう? タマモちゃんは魔獣使いと聞いたけど、ディオコーンを狩ることができるの?」


 お姉さんが運んできてくれたコーヒーを飲みながら、私に問い掛けてくる。

 コーヒーポットで私のカップにも注いでくれたから、砂糖を1つ追加して頂いていたんだけど、アヤメさんの問いにタマモちゃんと素早く顔を見合わせる。

 小さくタマモちゃんが頷いてくれたから、昨夜の作戦を説明することにした。


「召喚獣で突進を食い止めたところで首を取るだって! できるのかい?」

「タマモちゃんの召喚獣は金属製のゴーレムです。昨日は胸に穴を開けられましたが、それ以外に方法は無さそうです」


 キュブレムやさらに階梯を上げるということで対応も可能だろうけど、出来ればあまりやりたくないところだ。


「相手が1体なら、何とかなりそうだが……」

「群れがいたら、問題よねぇ。なるべく翻弄して群れをバラバラにするのは私達で出来そうね」


 狩ることはできないが、群れを散らすことはできるということか……。

 それなら、手伝って貰いたいところだ。

 なるべく相手は1頭ずつにしたい。もっとも、ディオコーン(?)が2体以上いたなら、ためらわずにキュブレムを使うつもりだ。


 椿さん達のお弁当が運ばれて来た時には、私達の朝食も終わっていた。

 4人で宿を出ると、西門へと向かう。


「ところで、ツバキさん達は馬に乗るんですか?」

「狩場の移動ってことかい? 一応、馬になるのかな?」


『?』が気になるけど、馬ならGTOと遜色がない速さで走れるかもしれない。

 西の広場に繋げてあると言ってたから、早速宿を出ると通りを西に向かって歩いて行く。


「騎士団の人達はどうしたのかな?」

「この町の守備兵の交代だから、今朝早くに戻ったはずだよ。朝早くだから魔獣の動きも鈍いんだ」


 ツバキさんがタマモちゃんの疑問に丁寧に答えている。ふ~んという感じで首を傾げているタマモちゃんにアヤメさんが笑みを浮かべていた。

 それほど歩くことも無く西の広場に付いたんだけど、向かった先の柵に繋がれた馬はどう見てもポニーにしか見えない。

 あれで移動するんだろうか? 背負った方が早く移動できるように思えてしまう。


「凄い! 足が8本ある」


 タマモちゃんの驚いた声に、「え?」と声を上げて、再度ポニーを眺めてみた。

 なるほど、足が8本だ。

 確か、北欧神話にそんな馬の話があったはずなんだけど……、それって大きな馬じゃなかったかなぁ?


「あれが俺達の移動手段である『スレイプニル』だ。小さくて小回りがきくし、何と言っても速いんだぞ!」

「ポニーに見えてしまうんですが……」

「リアル世界で乗馬なんてしないでしょう? それで、乗り易そうなポニーにしたみたいなの。名前と形が合わないと不平いっぱいなんだけど、それなりに使えるのよ」


 可愛らしい大きな目で私達を見ている。

 トコトコとタマモちゃんが走り寄って、首を撫でている。

 入院暮らしが長かったらしいから、犬や猫を撫でることはしなかったんじゃないかな?

 タマモちゃんのしもべは大きいからねぇ……。1匹ぐらい、モフモフの小さなマスコットがいても良かったかもしれない。


「さて、出掛けようか! モモちゃん達の移動用魔獣も出してくれないかな」

「そうですね。 タマモちゃん!」

 

 タマモちゃんを呼んで、門の外にGTOを出して貰う。

 今度はツバキさん達が驚いている。


「カメなんだ!」

「GTOっていうの。速いんだよ!」


 タマモちゃんが2人を見上げて主張しているんだけど、2人ともあまり信じていないようだ。カメは遅いという先入観があるんじゃないかな。

 見る人みんながGTOの機動に驚いているんだから。


 スレイプニルに跨った2人は、遊園地の広場の100円を入れて動く動物に乗っているように見えてしまう。

 何となくユーモラスなんだけど、タマモちゃんが乗りたそうな表情をしているのがおかしくなってしまった。


「タモちゃん。GTOがかわいそうだよ」

「うん。私にはGTOがいるんだからね!」


 タモちゃんの元気な声に、GTOが首を回して甲羅の上に乗った私達を見ている。やはりGTOだって気になるよね。


 GTOに近寄ってきた椿さん達は、頭の位置がはるか下に見える。

 背中に弓を背負って、短槍を片手に構えた姿は勇ましく見える。隣のアヤメさんも短槍を握っているし、背中にはフレイルが斜めに差してあった。

 タマモちゃんみたいにあのフレイルで殴りつけるのだろうか?

 神官職を、ゲーム初心者は勘違いしているように思えるんだよね。


「それじゃあ、出掛けようか! 俺達のスレイプニルはかなり速いぞ」

「GTOはもっと速いよ!」


 タマモちゃんにはツバキさんの言葉が挑戦と感じたのかな?

 まぁ、素早く巡回するには都合が良い。【鑑定】と【探索】が起動していることを確認したところで、ツバキさんに頷いた。


「OKってことだな。じゃあ、付いてきてくれ!」


 2頭が駆けだした。確かに速い!

 直ぐにタマモちゃんがGTOで後を追う。

 かなり飛ばしているから、帽子のツバの裏に付いているバイザーを下した。そういえば、タマモちゃんはゴーグル姿だったんだよね。休憩に時には私も出しておこう。

 街道を一路西に向かい、森に入ると獣道に分け入っていく。


 【探索】のスキルで、周囲300mの生物反応が目の前に作られた仮想スクリーンに表示される。何となくレーダーみたいな機能だけど、これに【鑑定】を加えると生物の概要まで知ることができるのだ。

 だけど、詳細を知っても現状では意味を持たないから、魔獣と獣、概略の大きさ、草食か肉食かの区別に限定して使っている。


「かなり豊かな森みたいね。これだと見分けがつかないよ」

「人間以上の大きさにすればいい。かなり減るし、小さいのは危険がない」


 そう断言するのはどうかと思うけど、それも1つの方法だろう。大きさを中級以上、肉食と雑食に限定すると仮想スクリーンの輝点が5分の1程度に減った。

 これなら煩わしくなさそうだ。

 ついでに【鑑定】の仕様をいじって『ディオコーン(?)』にフラグを立てる。これで【探索】の範囲に目的のディオコーン(?)が見つかれば、アラームが鳴って輝点が点滅するはずだ。


 森の中を時速50kmほどの速さで走るのは、かなり注意が必要だ。

 前をよく見ていないと木の枝がぶつかるし、大木を避けてかなりの頻度で方向を変える。乗り物酔いになりそうだけど、『亀に乗って酔いました』何てことになったら、シグ達に大笑いされそうだ。

 タマモちゃんとケーナがメールを交換してるから、直ぐに私の醜態が知られてしまう。

 と言って、メール交換をやめろとも言えないし、文章を検閲できないからねぇ……。


 1時間程、森の中を進んだところで、前方を駆けるスレイプニルが歩みを緩めた。

 私が歩く程度の速度で向った先は、どうやらセーフティ・エリアのようだ。


「ここは安全だ。俺達専用のエリアだから、少し強化してある」

「その強化を全てのセーフティ・エリアに設けるわけにはいかないんですか?」

「上に具申したんだが……」


 直径20mに満たないエリアで、使う者が限定されているから2つの木箱が置かれていた。

 片方の木箱を開けて、焚き火用の焚き木を取り出すと火を点ける。

 ここで休憩ということなんだろう。まだ昼には時間があるからお茶を飲むのかな?


 焚き火の傍に小さなベンチを持ち出して座ると、ツバキさんがこのエリアを一般に開放しない理由を教えてくれた。

 最大の理由は、エリアを大きくできないらしい。その上、その区域に現れる魔獣等のレベルを数段越えた防御が可能ということだ。


「侵入を図る者の5レベル上の防衛能力を持つらしい。ディオコーン(?)についてもレベルが付けられているはずだ」

「タマモちゃん。レベルが分かった?」

「分からない。でも私達はやっつけられた」


 タマモちゃんは九尾に姿を変えて、私はニンジャで何とかなった。それを考えると、レベル20以上50以下となるんだけど、かなり曖昧だよね。

 そんな相手のレベルを計算して防壁を作るんだから、面倒な事には違いない。


「魔獣や獣の配置を検討した時に、各地のセーフティ・エリアの防衛強度を決めたらしい。それを見直す作業を始めたらしいが、実装にはしばらく掛かるんじゃないかな」

「西の大陸の方は、それほど問題になってないですよ。この大陸だけの問題では?」


「そうなると、北の魔族の治める大陸も問題じゃないかしら? 帝国だって魔族と長年戦ってるんだから、魔獣のレベルが上がるのは問題よ」


 プレイヤーが押し寄せる前に何とかしないといけない。

 シグ達も帝国に入ったんだろうけど、無茶してないか心配になってきた。


「とりあえず、ここまでの調査では発見できなかったね。個体数が少ないのかもしれないな」


 アヤメさんが淹れてくれたお茶のカップを持ちながら、ツバキさんが呟いた。

 たぶんそれもあるんだろう。あれだけ騎士団が躍起になってレムリアに侵入してきた連中を狩ったんだからね。


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