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012 東への街道が開いた


 オオカミの群れに向かって矢を放つ。

 最初の矢筒は空になってしまったから、これは2個目の矢筒だ。もっと用意しておけば良かったと思っても、今ではもう遅い。


 最後の矢は大イノシシに向かって放つ。

 【拘束】が切れた大イノシシは戦士相手に突進を繰り返しているけど、片目を潰されているので微妙に方向が逸れている。

 あれなら、シグ達で何とかなりそうだ。

 何とかならないのは取り巻きのオオカミの方で、群れを潰したら次の群れがやって来た。

 MPが枯渇した魔法使いは杖で応戦してるんだけど、かなりの人数が傷を負って神官たちの【治療】魔法のお世話になっている。

 ケーナも衣服が血まみれだけど、返り血だけでは無さそうだよね。

 

 急いで弓をしまうと、短剣を引き抜いてケーナの援護に向かう。

 ネコ族の短剣はかなり使えるんだよね。


 ザシュ! ケーナに飛び掛かって来たオオカミの喉を切り裂きながら腕を振り上げる。

 隣に崩れ落ちたオオカミを見て、ケーナが私に気が付いたみたいだ。


「周囲をよく見るのよ。あっちは相手が1体だけど、こっちはたくさんいるんだからね」

「だいじょうぶよ。でも、ありがとう」


 ケーナの悪い癖が出ていた。剣道の試合は1対1で行うから、周囲を囲まれた状態でも1対1に持って行こうとするんだよね。

 その点、私はそんなクラブに入ってないからね。友人達と囲まれてもちゃんと話ができるんだから、多数を相手に出来るんだろうな。

 何匹かを葬ったところで、少し下がり魔法使い達の援護に徹する。

 

「これで、最後!」

 

 ケーナが叫ぶように長剣を振るって、オオカミの群れの最後を倒したんだけど、またオオカミの群れがこちらに走ってきた。


「また来たの!」

「大イノシシを倒さないとダメなのかしら?」

 

 後ろからの話し声は、案外当たってるかもしれないな。

 大イノシシの全身が血まみれになっているけど、HPの表示が黄色の状態だからまだまだ倒すには時間が掛かりそうだ。

 とはいえ、黄色状態はHPが三分の一になったということでもある。

 何とかなりそうだね。


 数匹のオオカミを血祭りにあげた時だ。

 残ったオオカミ達が尻尾を下げて走り去っていく。

 もしかして……、私達は一斉に大イノシシに視線を向けると、大イノシシの背中に乗って勝どきを上げているシグ達の姿が見えた。


「「やったー!!」」

 

 皆が一斉に喜びの声を上げながら、ハグし合ったり、肩を叩き合ったりしている。私もケーナやレナ達とはしゃぎまわってしまったのは仕方のないことだろう。

喜びが一段落したところで、大イノシシを見ようと、皆で戦士達のところに向かったのだが、大イノシシが金色の光の粉をあたりに振りまいて消えてしまった。

イベントボスだからねぇ。イノシシの肉が手に入るわけではなかったようだ。


「モモ、ご苦労さん。皆も頑張ってくれたね。たっぷりと経験値を稼いだはずだからレベルが上がったはずよ」


 シグの言葉に、皆が一斉にチュートリアルを開いて確認しているようだ。レベルだけではなく、取り巻きを散々倒してるからドロップアイテムも手に入ったんじゃないかな?


「それで、大イノシシのドロップアイテムは?」

「無いみたい。元々がベータテストでしょう? あまりレアアイテムを渡すことはできないってことなんでしょうね。でも、参加プレイヤー全員に経験値が300と1千デジット(D)だから、何人かはL9になれたはずよ。次の冒険の資金には十分ね」


 他の連中も、不満はないみたいだ。早くこの峠を越えて東の港町に向かいたいと、目が言ってる。


「東の街道の封鎖が解けたことをトラペットに伝えるね。私のお手伝いはここまでになるのかな」

「また会えるんでしょう?」

「ケーナ達が冒険を続ける限り、またどこかで会えるんじゃないかな。シグ、頼んだからね」

「任せとけ。モモも元気で暮らすんだよ!」


 ケーナとハグしていると、戦士の1人が私の矢を渡してくれた。弓を使ったのは私だけじゃないから、皆で分けたんだろう。ありがたく受け取って街道を西に向かって歩き始める。

 最初の曲がり角で後ろを振り返ったら、皆が手を振ってくれた。NPCでも一緒に戦った仲間ということなんだろう。私も手を振り返して先を急ぐ。

                 ・

                 ・

                 ・

「無事だったんですね!」

「討伐隊は、そのまま東に向かったよ。峠道にはオオカミが出るから、東に向かうパーティはそれなりのレベルが必要でしょうね。それと1つのパーティでは不足かもしれない」


「それは俺達で布告するからだいじょうぶだ。そうか、東は解放したか」

「西の方は?」

「1千人を越える人員だ。明日には知らせが入るんじゃないか」


 ギルドの1室で、ギルドマスターに報告する。

 これで私の役目は一段落だから、私も東に向ってみよう。

 大イノシシと戦ってから、すでに2日が過ぎているからね。シグ達は港町に着いたんじゃないかな。

 食料を買い込んで、私も後を追いかけてみよう。

 

 いまさら、花屋の食堂に顔も出せないよね。せめて一か月も過ぎていればいいんだけど。


 歓迎の広場近くにあるお店で、矢を補充して携帯食料を買い込んだ。

 まだ昼近くだから、歓迎の広場に次々とプレイヤーが現れてくる。どうやら、今日が第3陣のプレイヤー達の参加当日だったみたい。

 しばらくは、いつもの場所にいた方が良いのかな? 案内の必要なプレイヤーもいるかもしれないよね。


 問われるままに、何人かのプレイヤーを相手にして行先を教えてあげる。

 やはり生産職を希望するプレイヤーは多いみたいだ。農業がしたいと言っていたプレイヤーには、とりあえずギルドのカウンターのお姉さんに相談しなさいと教えたんだけど、私もそれほどレムリア世界を知らないんだよね。


「リオンお姉ちゃんだよね?」

 

 小さな女の子の呟くような声に、思わず顔を上げて相手を確かめた。

 私と同じような衣服をまとっているけど、獣人族に違いない。ピンと伸びたブラウンの耳と大きなモフモフ尻尾。尻尾と耳の先は私とは反対に白くなっている。

 キツネ族ということなんだろうか?

 

「誰から聞いたのかな? ここではモモという名前なんだよ」

「女神様からだよ。イザ何とか言ってたけど、難しい名前だから忘れちゃった」


 『イザナミ』さんということなんだろう。この子の前では神々しい姿で現れたということなんだろう。でもそれだとしたら、ひょっとして、まさかと思うけど……。


「この世界で暮らしなさいと言われたの?」

「お姉ちゃんが一緒だから、安心だよって言われたの」


 私と同じで、リアル世界での命を終えたということなんだろうね。

 私と一緒にお母さんの昔話を聞いていた仲だから、『イザナミ』さんもメルちゃんの存在と、その病状を知っていたんだろう。

 同じ境遇となれば一緒にいてあげたいけど、私と一緒に行動できるんだろうか?


「メルちゃん。お姉さんにメルちゃんのパラメータデータを見せてくれない?」

「女神様が見せてあげなさいと言ってたものだよね。これなんだけど……」


 え~と、名前がタマモで、種族はキツネ族。現在の職業は従魔使い?

 レベルは私と同じでL10とL25の2つが用意されているようだ。

 L25の職業は枢機卿になってる。そんな職業聞いたことも無いから、レア職種になるんだろうな。どんなスキルが使えるんだろう? 神官の上位職種のようにも思えるけどちょっと分からないよね。

 私と同じで、さらに上位があるんだろうけど、このメニューでは分からないんだよね。

 パラメータは、L10とL25でこんな感じだ。

 STR(攻撃力)=12(15)

 VIT(体力) =12(18)

 AGI(素早さ)=16(25)

 INT(知力) =22(35)

 括弧内の数字がL25の値だから、かなり魔法の能力があるということに違いない。

種族補正を込みでこの数字なら、戦士とだって戦えそうだ。

 確認できるスキルは、【調教】、【探索】、【鑑定】に【4属性魔法】と【調合】がある。その他にもあるようだけど、表示には現れないようだ。


「それで、革のムチを持ってるのね。ムチレベルが3もあるから、戦いもできるってことか」

「食べ物もたっぷり持ってるから、いつでも出掛けられるよ」


 一緒に行動できると思って嬉しそうな顔を見せてくれるんだけど、どう考えても小学生低学年の姿なんだよね。

 少し一緒に行動して無理があるようなら、花屋の食堂に預かってもらおうかな? ライムちゃんも妹ができたと喜んでくれるに違いない。


「このまま出掛けると、野宿になりそうだからお弁当を買っていきましょう。メルちゃんは食器を持ってるのかしら?」

「バッグに入ってる。それと、この世界ではタマモになるみたい。お姉さんのこともモモ姉さんと呼ぶね」


 タマモちゃんを見たら、シグ達がどんな反応を示すんだろう。しばらくは港町から動かないでいよう。

 広場の周囲に店を出した食べ物屋さんからお弁当を2つ買い取ると、タマモちゃんと手を繋いで東門へと歩き出す。


 大勢のプレイヤー達が、私達と同じく東門に向かって進んでいるのは、東の尾根を越えて港町に向かうのかしら?

 出来れば単独パーティは避けてほしいんだけどね。


「冒険者が多いね?」

「皆で行けば、怖くないってことかしら。これだけ多いんだったら獣も寄ってこないんでしょうけど」


 東門を出て驚いた。赤い海道に沿って東に人の列ができている。まるでアリの行列みたい。

 最初のパーティの半数以上が目指しているのかな? 残りの連中は西を目指すのかもしれない。

 ベータテストの参加者はこれで終わりになる。10日もすれば3つの王国のそれぞれ3つの町に次々とプレイヤーがやって来るらしいのだが、私達のいる王国はブラス王国というらしい。

 大陸の南岸に3つ並んだ王国の一番東にあるのがブラス王国だし、王都は地図を見る限りずっと西にあるようだ。

 トラペット町はある意味東の辺境に近いのかもしれない。

 その最東端にある港町はトランバーという名前らしいけど、港町から北に向かう街道や、海を越えた先にある大陸へ渡るための船もあるらしい。

 陸も良いけど、この世界の海を早く見てみたい気持ちを押さえられないんだよね。


「遅いね?」

「数珠繋ぎだからかなぁ。これだと、尾根のふもとにある集落を見ないうちに、日がくれそうだよ」

「それなら、魔獣に乗っていく?」


 思わぬ提案がタマモちゃんから出てきた。

 だらだらと進んでいるから、歩く調子が狂ってしまう。私としては嬉しい提案なんだけど、「それじゃあ、出すね!」と言ってムチを一振りする。

 

「ボン!」という弾けるような音とちょっとした光と煙は、いわゆる『お約束』というものなんだろうけど……。


「さあ乗って!」

「これで行くの?」


 笑顔で私に乗るように勧めてくれたタマモちゃんだけど、思わず確認してしまった。

 だって! 現れたのは亀さんだったんだよ。



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