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119 シドンの町


 警邏事務所の扉を開けると、警邏さん達が一斉に私達に視線を向ける。

 タマモちゃんが吃驚したようで、私の腰にしがみ付いている。


「こら、こら! 脅かしたらダメでしょう。……ところで、どんな御用なのかしら?」


 少し離れた場所にいたお姉さんが、ホールの警邏さんに厳しい声で注意している。その後で私達に声を掛けてきた時には、うっすらと笑みを浮かべている。

 凄い表情の変わりようだ。


「あのう……。モモと言います。この子はタマモちゃんですが、行く先々の警邏事務所を訪ねるように、トラペット町のダンさんに言われてましたので……」

「ダン?」


「あの連絡か! フランソワ、僕達に協力してくれるNPC冒険者の話を聞いただろう?」

「この子達? 確かにNPCだけど……」

「こっちに来て、話を聞かせて欲しいな。この町にやってきた初めての冒険者であることは確かだし、途中の危機を切り抜けて来てるんだからね」


 フランソワさんの頭に、疑問符がぷかぷかと浮かんで見える。

 ダンさんの連絡を知っている男性が、暖炉傍でたむろしている連中を追い飛ばして、私達を座らせてくれた。

 近くのお姉さんにコーヒーを頼んでいるから、ここで飲ませてくれるのかな?


「……確かに、連絡が来てたわ。それもダンばかりじゃないわね」

「だろう。どんな冒険者なのか興味深々だったんだけど、かなり想像してた姿とことなるんだよねぇ」


 男性の隣に座ったフランソワさんは、仮想スクリーンを開いて何やら読んでいるようだ。警邏さん達専用の掲示板があると言ってたから、たぶんそれを読んでいるのかもしれない。


「僕はジョーだ。隣のフランソワとシドンの町の警邏をしている。話は色々と聞いてるけれど、やはりプレイヤーのシドン到着は問題がありそうかい?」

「ニネバの港町に到着するプレイヤーのレベルはレベル6です。途中で遭遇したクマはどう見てもレベル12以上でしょうね。ディオコーンに至っては、レベル15ぐらいあるんじゃないですか?」


 お姉さんが私とタマモちゃんの前にカップを置いてくれた。私はコーヒーだし、タマモちゃんは紅茶のようだ。フランソワさん達は2人ともコーヒーだからタマモちゃんの為にわざわざ紅茶を入れてくれたみたいだ。

 軽く頭を下げると、笑みを浮かべてテーブルを去っていく。


「元はそれほど高くなかったんだ。前足4本のクマはレベル8だし、ディオコーンはレベル10の設定にしてあるはずなんだが……」

「何者かが書き換えたか、それとも何者かの影響か……、と言うところでしょうね」


「私達は後者を疑ってるわ。獣達の見掛けの強さが上がっても、経験値が上がらないの。それに、何とか狩った獲物を調べると初期のレベルに戻ってるのよ」

「実は……」


 バッグの中からバンダナで包んだヒビの入った魔石を取り出した。


「ディオコーンを狩った際に出てきた魔石です。魔獣ではないんですから魔石を持つのもおかしいし、これ以外は何も残らなかったのも不思議です。獣なら毛皮か肉のブロックを残すはずですよね」

「これって! 預からせてくれないかしら?」

「良いですよ。ギルドでは引き取って貰えませんからね」


 私の意図を知ったフランソワさんが笑みを浮かべる。提供された報酬は宿の無料提供だった。

 

「ニネバで手に入れた魔石のかけらを調査しているんだが、これなら調査が捗るに違いないよ。だけど、そうなるとどれが魔石を持った個体なのか分からないというのも問題じゃないかな?」

「地道に【鑑定】を使うしかなさそうです。少なくとも魔石を持つ獣と、その影響を受けている獣に差があるかを明日から調べてみようと思っていますけど」


「そうしてくれるかい? なら、2人程手助けさせるよ。ツバキ! ちょっと来てくれないか」


 呼ばれてやってきたのは、ダンさんよりも若い男性だ。大学生なのかな?


「お呼びですか?」

「まあ、座ってくれ。アヤメは?」

「今日は休んでます。明日から出てくると言ってましたよ」


 ジョーさんがツバキさんに、私の同行を指示しているところをみると、この事務所の上の方にいるんだろうな。


「気になってたところですから、俺達の方はだいじょうぶです。でも、お嬢さんの方はレベル15ですよね」

「今は15です。相手によってレベルを何段階か上げられますよ。上位職に2度変えられます」


 ジョーさん達まであんぐりと口を開けている。

 やはり驚くよねぇ……。私だって、いまだに驚いてる1人だもの。


「なら安心して付いていくよ。俺がレベル18のツバキでレンジャーだ。バディのアヤメは僧侶だけど短槍が使える」


 足手まといにはならないだろう。危険な獣が出てきたなら、後ろに下がって貰えば良い。調査は多人数でやった方が、都合が良いに決まっている。

 

 警邏事務所で宿を紹介してもらい。タマモちゃんと宿に向かった。明日の朝にツバキさん達が迎えに来てくれると言っていたけど、あんまり朝早くは願い下げだな。


「ここだね。『スズメのお宿』って書いてあるよ」

「タマモちゃん。つづらは小さい方だからね!」


 そんな話をしながら宿に入ると、夕食を取る人達が何組かテーブルに着いていた。

 カウンターのお姉さんに宿を頼むと、「ガラガラなの!」とぼやきながら手続きをしてくれる。宿代は2人で50デジット。もちろん朝夕の食事込みの値段だ。

 お弁当は3デジットで提供してくれるらしいから、明日のお弁当の代金を一緒に払っておく。


「数日は滞在してくれるのかしら?」

「警邏さんと狩場の調査を行いますから、野宿することもあるんじゃないかと……。でもシドンの町に来た時には必ず寄りますよ」

「そうしてくれると助かるわ。満室の時には、宿を紹介してあげるわね」


 しばらくは閑古鳥が鳴く宿に違いない。宿の名前を鳥の名にしたのが間違いの元かもしれないね。

 空いているテーブルにタマモちゃんと座ると、直ぐに夕食が運ばれてきた。

 ハンバーグに丸いパンと野菜スープ。食べてみると、牛肉ハンバーグのようだ。あのディオコーンの肉じゃないよね?


「この料理もおいしいね。パパがこんなお肉をパンに挟んであったのを狩ってきてくれたことがあるの」


 嬉しそうにタマモちゃんが話してくれたのは、マ〇ドのハンバーグかな?

 カリカリポテトが一緒だったらしいから、間違いなさそうだ。


「町が違うと夕食の料理も違うみたいね。そうなると、いろんな町に行ってみたい気がしてきたな」

「この島の夕食を全て食べたら、また西に向かってみようよ。きっと美味しいものがたくさんあると思うの!」


 タマモちゃんの提案に、うんうんと頷く私だ。

 私達は魔王を倒そうなんて考えは無いから、プレイヤーの人達がどんな冒険をしているのかを見ているのが一番なんだろう。現状は、たまたまということなんだろうな。

 

 食事が終わると、小さなカップにワインが出てきた。もちろんタマモちゃんにはジュースなんだけど、ゆっくりと味わいながら明日の調査について考える。


「あの角が問題よねぇ。黒鉄くろがねの胴体をブスリだったもの」

「たぶん、次は刺さらないと思う。黒鉄は強敵に出会うたびに強くなる」


 ん? そんな機能があるんだ。

 それって、かなりチートなんじゃないかな。最初はずんぐりした胴体に、蛇腹の手足だったけど、今ではシューケースに飾るような姿に変わっている。

 あれよりもスタイルが良くなるんだろうか? まさか武装が増えたりしないよね。


「あのディオコーンに【鑑定】をしなかったのは失敗だったかも……。ディオコーンはたくさんいるはずだから、魔石を持ったディオコーンがどれか分からないのよね」

「私が使ってみた。『ディオコーン(?)』と出てたよ」


 ん? 思わずタマモちゃんに顔を向けてしまった。

「ほんとだよ!」と私の顔を見てタマモちゃんが呟いている。厳しい顔をしてたんだろうか? 笑みを浮かべてタマモちゃんの頭を「えらい、えらい」と撫でてあげると、目を細めてくすぐったそうにしている。


 かなりの朗報に違いない。

 要するに、ディオコーンを見付けたら【鑑定】を使って、表示名が『ディオコーン(?)』と出れば、積極的に狩れば良いということになる。


「それなら、離れていても分かるよね。私が黒鉄に誘導して、黒鉄がディオコーン(❓)を確保、タマモちゃんが首を落とす……、で良いかな?」

「今日と同じだね。分かり易いからそれで良いよ」


 良い妹分を得た感じだ。ケーナではぶつくさと文句が飛んでくるんだよね。

 今頃は、シグ達が苦労してるんじゃないかな?

 いや、ケーナは外面が良いから大人しくしているのかもしれない。でも、ストレスが溜まってきたらバーサーカーになりそうな気もする。


 作戦が出来たところで、2階に上がり部屋に入った。

 どこの宿も、同じような作りだから迷うことがない。少し変化があるとすれば、部屋の配置ぐらいなものだ。

 

 互いに【クリーネ】を掛けて体と衣服の汚れを落としてベッドに入る。

 そういえば、季節の変化が無いように思えるんだけど、これはゲームを始めてまだ間が無いからなんだろうか?

 ある程度プレイヤーがレムリアの暮らしに慣れたところで、四季の変化を起こすことも考えられる。

 まあ、それはかなり後になってからに違いない。

 まだまだ、新規参入のプレイヤーが多いみたいだ。


 翌朝。着替えを終えると、タマモちゃんと宿の裏庭に出掛けて顔を洗う。

【クリーネ】で一発なんだけど、眠気を覚ますには冷たい井戸水で顔を洗うのが一番だ。


 タオルで顔をふき取ると、朝食を取りに宿の食堂に向かう。

 朝は客がいないのかと思ってたんだけど、テーブルの1つに2人が座っていた。


「おはよう。まだ寝てると思ってたんだけどなぁ」

「これから朝食なんですけど、ツバキさん達は早いんですね」

「まあ、それなりだね。ゆっくりと食べてくれ。俺達はここでコーヒーを飲んでいるからね」


 ここには、コーヒーがあるんだ!

 朝食のパンとスープにコーヒーを追加してもらうことにした。

 タマモちゃんはお茶で良いと言ってるけど、コーヒーは苦いものと思い込んでるんじゃないかな?

 タマモちゃんが、コーヒーを美味しいと思うには時間が掛かりそうだ。


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