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114 イソギンチャクは燃えるみたい


 さほど奥行きの無い渚で、タマモちゃん達がヤドカニ相手に戦っている。

 トランバーの周辺にいたヤドカニより二回りほど大きいから、皆で協力しないと倒せないようだ。タマモちゃんもGTOを使わずに一球入魂を振り回している。

 でも、あれが最初じゃないみたい。6人の連携が上手く取れている。

 最後の仕上げに入ったのかな?

 長剣と一球入魂が同時に、ヤドカニの背中の大きな貝殻もろとも本体を粉砕したみたいだ。女の子ばかりなんだけど、皆で得物を掲げて雄叫びを上げている。

 そんな彼女達の下に手を振りながら丘を下りていく。


「えらく時間が掛かったようね」

「人数が多かったんです。とりあえずPKKは成功しましたから、今頃はニネバの教会で復活して警邏さんへという流れだと思いますよ。それで、まさか最初のヤドカニじゃないですよね?」

「さっきので3匹目。タマモちゃんのバットの威力は凄いね。エアリーがハンマーが欲しいといってたわ」


 傍にやって来たタマモちゃんの頭を撫でながらチコさんが話してくれた。

 他の人達も頷いているから、タマモちゃんは大活躍してたんだろうな。


「それにしても……、1人でPKKとはねぇ。PKのメリットは聞いたことがあるけど、PKKされた連中のその後はどうなるの?」


 3匹目を倒したということで、チコさん達がお茶の準備を始めた。

 休憩は大事なことだ。

 冒険者の中には休憩も取らずに頑張る連中もいるんだけど、VIT値である体力が時間と共に微妙に減少してくる。HPはそのままだから、変化に気が付かない人達がたくさんいるんじゃないかな。

 VIT値が減ると、攻撃を受けた時のHP値の減りが増えるし、AGI値である敏捷性も減少する。

 冒険を始めた当初はVIT値やAGI値はそれほど大きくはないから気が付かないのかな? だけど中級の冒険者になった時に初期の頃と同じような狩りをしてると、とんでもないことになるんじゃないかな。

 その点、ダイアナの女性達は理想的な狩りをしているんだよね。


「程度に寄ると思います。トラペットで遭遇したPK犯はレムリア世界へのアクセスを何日か制限されたようですが、PK犯のレベルも低かったですからねぇ。捕獲冴えたPK犯は、過去のレムリア世界での動向を調査された上で審査されるみたいですよ」


「初期でもアクセス制限なの? だとしたら、複数のPKを行ったりしたら……」

「それでもゲームのアクセス権は残るみたいですね。とはいえ、警邏さん達の監視下でのゲームでは楽しくないとは思いますけど……」


 レムリア世界よりも、リアル世界の方が問題かもしれない。危険人物としてリスト化され、日本全国の考案の監視カメラで監視が続けられるのだ。それが嫌で外国に移住すれば国際警察にリストが渡される。

 テロを未然に防ぐ目的で、レムリア世界を利用しなくても良いと思うんだけどね。

 だけど、交番組織は公安当局が運営してるし、騎士団は自衛隊だ。彼らの厄介になる前に警邏の人達がいるんだけど、言っても聞く耳を持たない連中には、何を言っても無駄らしい。


「他のVRMMOではPKギルドがあったらしいけど?」

「レムリア世界でもPKは禁止されていません。PKの罰則を開示することでPKを防ぐのが目的見たいです。私も何度かPKKをしましたけど、今のところは組織立った動きにはなっていないようです」


「その内にできるんでしょうね。でも、モモちゃんみたいな冒険者もたくさんいるんでしょう?」

「たぶん……、そうだと思います。案外、PKギルド待ちになってるのかもしれませんね」


 その場の雰囲気で口に出してしまったけど、案外当たっているんじゃないかな?

 PKもゲームの必要悪のようなものだし、これだけの参加者がいるんだから、協調性のない人だっているに違いない。

 ソロや生産職なら他のプレイヤーの迷惑にはならないだろうけど、似た者同士というのはなぜか引き合うんだよね。


「ちょっと待って! あれって……」

 

 イネスさんが腕を伸ばして教えてくれた先にいたのは、イソギンチャクみたいなモンスターだった。


「アネモネルだろうね。どう見てもイソギンチャクそのものだけど、結構触手が延びるみたいよ」

「あの胴体もトカゲの背中に見えるわ。かなり固いかもしれないわ」


 チコさんとエアリーさんが状況監察を行っている。先ずは相手を知ること。それを忘れるような冒険者は長生きできないと言われてるぐらいだから。

 

「歩くみたい。足があるのかな?」


 タマモちゃんの言葉にチコさん達が頷いている。

 タマモちゃんは双眼鏡で覗いているから、さらに詳細な観測ができたんだろうね。


「とはいっても、動きは鈍いようね。カタツムリのような脚かもしれない。足元は余り気にしなくとも良いんじゃないかな。やはり気を付けるのはあの触手だと思うわ」

「警邏のフィアナさんが触手に感覚器官があるって教えてくれました。熱を感じるらしいです」


 えぇ~! とチコさんが私の言葉に振り返る。


「肉食ってこと? それも哺乳類となると、やはり容易に近付けないわ」

「火炎弾を浴びせれば感覚器官が一時的に使えなくなるんじゃないかしら? レベル10にも達しない場所にいるんだから、強力なモンスターなんでしょうけど、弱点をつけば案外簡単かもしれないよ」


 弱気なチコさんに、イネスさんが助言をしてるけど、確かに良い方法だと思う。

 魔導士のマイヤーさんに、タマモちゃんが火属性魔法を使えるし、私だって威力は低いけど火遁を使えるんだからね。


「それなら、何時も通りということね。アンデルが翻弄して、その隙をついてマイヤーが火炎弾で攻撃。怯んだところを私とエアリーが攻撃ということにしましょう。イネスは状況監視をお願い。モモさん達は……」


 チコさんの言葉が途切れた。

「私はアンデルさんと一緒で、タマモちゃんはイネスさんの傍で援助をお願い。他の魔物が近づいてきても、タマモちゃんがいれば安心でしょう? ヤバい相手なら鉄人くろがねも使えるんだし」

「後ろは任せて、お姉ちゃん!」


 重要な役割と理解したみたいだけど、イネスさんにハグされてるんだよね。

 イネスさんも前衛だってこなせるタマモちゃんが傍にいれば心強いに違いない。


「他の魔物までは考えなかったわ。確かにあり得る話だけど……。イネス、タマモちゃんを頼むわ」

「任せなさい。だいじょうぶよ。貴方達を見ないで後ろを見てるから」


 それも、問題じゃないかな?

 そんな役割分担を決めたところで、ゆっくりとアネモネルに近づいていく。

 小動物でも追い掛けているのかな。渚からはなれた方向へと移動している。そんな姉モラルに50mほどまで近付いた時だった。

 職種の一部が私達の方にゆらゆらと揺れながら移動してきた。


「この距離で気が付いたの?」

「かなり感覚器官の性能が良いようね。でも、それならなおの事、イネスの案が使えるわ」


 チコさんの言葉に全員が頷くのが分かる。

 さて、そろそろ仕掛けてみようかな?


「これを使ってみます?」

「ん? これって火矢なの!」


 矢を3本、アンデルさんに手渡した。ヤジリを長くして伸びた柄に包帯状の布が巻き付けてある。

 その布にたっぷりと魚油を浸みこませると、火遁で火を点けた。


「これを射れば、少しは見えて来るかもしれません」

「おもしろそうね。短弓だけどあの大きさだから20mなら外さないわよ」


「始めるの! イネス。後ろを頼んだわ」

「たっぷりと火炎弾を当ててあげましょう!」


 私達が駆けだした後ろでは、タマモちゃんが手を振ってくれてるに違いない。

 アンデルさんと顔を見合わせ互いに頷いた。そのまま左右に速駆けしたところで、火矢を放ったタイミングはほとんど同時だったんじゃないかな?


 胴体に火矢が突き刺さった瞬間、触手が狂ったように辺りに振りおらされる。

 数秒で火矢は胴体から叩き落とされたけど、やはり火が弱点ということなんだろう。


「行くよ!」

 マイヤーさんの声と同時に、アネモネルの真横に火炎弾が炸裂する。今度は触手がマイヤーさんの方に向けられたけど、いくつかは柄あたしに向けられている。


 次の火矢が私の反対側に放たれたようだ。私を指差すように向いていた触手がぐるりと後ろを向く。

 ちらりとチコさん達を見ると、斬りこむタイミングを計っているようだ。

 それなら……。


 火遁で作った火炎弾をアネモネルに放つ。少し遅れてマイヤーさんが火炎弾を放ったから、先ほどよりも大きく火の粉が爆ぜている。


「「トリャ!」」

 エアリーさんが触手を盾で弾きながら、チコさんが身軽に触手をかいくぐりながらアネモネルに肉薄して斬撃を放つ。

 素早く後退した2人を掩護する様に、火矢が放たれた。

 中々連携が出来てるんだよね。普段から一緒に遊んでいるのかもしれないな。


 笑みを浮かべて3人を眺めていた時だ。

 アネモネルの胴体に火が付いているのが見えた。

 先ほどの斬撃は余り深く決まらなかったようだけど、それでも体液が流れだしている。その体液に火が付いたように見えるんだよね。


「アネモネルは燃えるの?」

「そんな感じに見えるね。かなり激しく触手が叩いて消そうとしてるようだけど」

「反対側なら、隙だらけってこと?」


 チコさん達と作戦を練り直す。

 まだそれほど激しく燃えてるわけではないんだけど、触手で叩くような消火方法ならまだしばらくは掛かるんじゃないかな?

 そっとマイヤーさんを連れてチコさん達が反対側に移動する。

 その間の時間稼ぎは私の役目だ。

 まだ火遁が使えるから、間を置きながら火炎弾で攻撃を繰り返す。

 傷口に命中したのか、少し火勢が強まっている。


「これが最後! 今度は触手で払う気もないみたい」

「こっちの傷口が大きくなったからかな。もう少しでリコさん達の攻撃よ!」


 突然後方から火の粉が飛び散った。

 チコさん達は既に攻撃を終えたらしく、アネモネルから遠ざかっている。


「お姉ちゃん、手伝う?」


 振り返ると、一球入魂を手に持ったタマモちゃんが私を見上げている。

 周囲に危険なものがいないということかな? イネスさんも丘から下りてきたようだ。


「あの傷口に放って頂戴。どうやら体液が燃えるみたいなの」

「なら簡単!」


 ドドーン! と大きな爆発音がアネモネルから聞こえてきた。表皮が大きくえぐれて、炎が噴き出している。


「落とし穴はいらないよね?」

「あれだけ燃えてるんだから、狩りは終わったね。でもしばらくは様子を見ないと……」


 アネモネルの後ろから、チコさん達がこちらに向かってくる。最初はかなり厄介だと思ったけど、燃えるとなれば狩るのは容易じゃないかな。


「狩るのはそれほど難しくなさそうね。でも、魔石を取るのに時間が掛かりそう」


 胴体のどこかにあるらしいけど、魔石は燃えないよね? ちょっと心配になって来た。


「1日2体が目安でしょうね。でも狩場が渚付近ですから」

「そうだね。でも上手く狩れれば、美味しいことは確かね」


 チコさんが美味しいと言ったのは、食べておいしいという訳ではないと思うな。

 ともあれ、今の内にお弁当を頂くことにしよう。

 その後にお茶を頂いた後なら、魔石を取り出せるんじゃないかな。

 


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