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113 PK犯がキメラに


「ちょろちょろと素早さだけは一人前だな。だが俺の前では隠れることはできないぞ」

「兄貴、こいつはレベル10はありそうですよ。狩ればたんまりと経験値を頂けますね」


 ずっと、PKを続けてたんだろうか?

 特殊なスキルを身に着けたに違いない。【探索】の上位スキルなのかな?

 

「それなら、隠れずに倒すことに専念しようかしら」


 早めに片付けた方が良いだろうな。レベルを20にあげてニンジャに職業を変えたから、藪から姿を現した私を見て、3人が驚いている。


「職種を変えられるだと!」

「これでも結構レベルは上なのよ。このまま警邏に向かえば少しは罪が軽くなるんじゃないかしら」


「ふん。職種の変更は早い者なら15で変えられるそうだ。たった一人で神の祝福を受けた俺達に立ち向かう勇気だけは認めてやるよ」

「こっちも変身しましょうや。ズタズタに引き裂いてやりましょう」


 3人が一所に集まると、彼等の周囲に陽炎が現れる。にたにた笑いながら私を見ているんだけど、その姿がゆっくりと1つになっていく。

 まさか! ……融合してるの?


 陽炎が去った後に現れたのは3面6腕の上半身にサイのような胴体を持つキメラだった。

 レムリア世界以外からの脅威は去ったようだけど、その残滓は残っているということなんだろう。

 この世界を混乱させるためのアイテムをあちこちに残して行ったのかもしれない。


「化け物になったということね」

「いや、神になったというべきだろうな。中々に使い良い体だぞ。それにレベルは合算だからな!」


 言葉が終わろうとする間際に、一気に私との距離を詰めて長剣を横に払った。

 咄嗟に跳び上がらなければ、私の胴体は上下に分かれていたに違いない。レベルだけじゃなくてパラメータまで合算されてるんじゃないかな?


 この体でどうにか避けることができる。攻撃は無理かもしれないな。

 キメラの目の前に火遁で作った火炎弾を炸裂させたけど、ちょっとした隙を作れるだけに違いない。

 わずかな時間を利用して、さらに職種の階梯を上げる。

 

「ん? 衣装を変えたのか」

「少しばかりパラメータを上げても無意味なんだけどなぁ……。だけど、その忍び装束はレアものなんじゃないか?」

「レンジャーのお前なら装備できるだろうよ。さて、狩りを続けるか!」


 そういうのを、取らぬタヌキというんだろうな。

 レベルは50を超えてるんだけどねぇ。貴方達では3人を合算しても届かないパラメータになってるはずよ。


 得物を掲げて突進してくる。長剣に槍と片手剣が2本。腕が多いけどそれぞれ別の人間が動かしているから、隙は無いんだろうな。

 背負っている忍刀を抜いて、ぶつかる寸前に再び火炎弾を炸裂させる。先ほどよりも威力が上がっているけど、サイのような鎧を付けた胴体には通用しないだろうし、上半身はチェーンメイルを纏っている。


 だけど!

 相手の得物をかいくぐりながら接近して、素早く忍刀を一閃して前方に飛ぶ。

 くるりと一回転して着地したところでゆっくりと後ろを振り返ると、かなり遠くで反転したキメラが見えた。

 

 怒ってるみたいだ。陽炎がキメラから上がっている。

 さて、どうなったかな?

 ゆっくりと歩いて、先ほどの場所に向かった。草むらが動いている。

 そっと覗いてみると、片手剣を持った腕が寝返りを打つような動きでもがいている。

 やはり、何らかのアイテムを使っているんだろうな。欠損した部位まで動くんだもの。

 しばらく動いていたけど、やがて切断面から泡を噴き出しながら消え去った。


 それにしても、面倒なキメラだな。

 この姿での魔法は忍術ということになるんだろうけど、何らかの制約があるようで魔導士の使う魔法よりも威力が無いんだよね。

 やはり、忍刀で削るしかないのかな……。


「よくもやってくれたな!」

 風のような速さで突っ込んできたキメラが槍を突き出してきた。横に逃れようとしたところに長剣が振り下ろされる。

 バク転をしながら長剣をかわして距離を取るのが精一杯だ。

 

 早いところ倒したいけど、決定的に火力が足りない。

 やはり、私1人ではキツイな。いつもタマモちゃんに助けて貰ってるから、甘えが出てたのかもしれない。


「どうした? やはり我等の力が上のようだな。それにしても、その刀、かなりの業物に違いない」

「あれは俺に貰えませんか? 長剣ではありませんから俺に丁度良さそうです」

「そうするしかないだろうな。たぶんムラマサ辺りだろうよ」


 あの一閃で見抜いたんだろうか?

 でも、これはPKしても無くならない筈なんだけどなぁ。


 さて、向こうもやる気みたいだし、こっちも次は胴を狙ってみよう。

 両者ともに走り出して、交差する瞬間に得物を振るう。

 AGIは私の方が遥かに上らしい。槍の繰り出しは目に見えたけど、長剣の一閃は本当に光が走ったような錯覚を覚えた。

 リアル世界では剣の達人じゃないのかな?

 だけど、剣を持つなら邪な心はダメなんじゃない。しっかりと胴に忍刀を突き差し、両腕で持って行かれそうになる勢いに耐えた。


 100mほどの距離を取って私達が睨み合う。

 胴から血潮だけでなく臓物も顔を出している。ビクビクと脈打つように動いているのが何ともグロい。


「やはりムラマサに違いない。傷を受けたが、これぐらいならまだまだやれそうだ」

「ミカミの仇を討たないと後でウダウダと文句を言われそうですからね」

「今度は同時攻撃で行きましょう……」


 色々と聞こえて来るけど、フェイクということもありそうだ。

 次は、これを使ってみようかな。

 懐から、直径3cmほどの煙玉を取り出した。

 煙も出るんだけど、これ自体が火薬の塊だ。

 

 次にすれ違った時に顔面にぶつけてみた。

 顔に手が行ったから、側面ががら空きだ。片腕を断ち切り、そのまま胴に忍刀を前と同じように突き差してえぐるように引き抜いた。


 両腕の6本が左側だけ1本になっている。

 このままもう1本を斬り落とせば少しは楽になるかも……。


「まったく、良く動く。片手1本ではバランスが取れんな……」

 

 再びキメラを陽炎が包みこんだ。

 また姿を変えるんだろうか? 次に現れたのは上半身が1つに統合された姿だった。長剣を右手に持ち、盾を左手に持っているけど、少し重そうに見える。やはり2本の腕を失ったからなんだろうね。


 人形を使ってみようかな。

 あれなら、光属性魔法の【光線】を使えるはずだ。キメラ相手には案外有効かもしれない。


『動け!』

 私の思念を受けたキュブレムが腰のバッグから飛び出して目の前に具現化する。

 私を光に分解して体内に取り込むと、私の体はキュブレムと一体化した。


 新たな変化に向こうも驚いているようだ。というよりこのキュブレムをジッと見ているんだよね。欲しいのかな?


 さて、攻撃再開だ。背中の羽のような部分に収容された長剣を引き抜く。お尻を上げるようにして後部装甲板に取り付けられたビットを打ち出す。

 ビット4本が私の頭の上に後光のような軌跡をひきながら【光線】を打ち出すタイミングを見ているのが分かる。

 

 今度も互いに交差しながらの一撃だ。

 顔面に右手から火炎弾を続けざまに放ち、長剣で上半身を薙ぐ。後ろに離れていくキメラ上半身ごと振り返ると、4本の光の矢がキメラの背中に命中しているのが見えた。


 それにしても、傷が塞がらないようだ。

 もう1人いた魔導士がいないせいなんだろうか? 胴体の傷だけでなく、上半身の腹からも血が噴き出している。

 顔面も血まみれだから、周りが良く見えないんじゃないかな?

 そろそろ終盤戦みたいだ。

 

 今度は走り込んでこない。私が近づいてくるのを待っているんだろう。

 ボルトの攻撃もまだ残っている。全弾を叩き込んで早めに終わらせよう。


 荒れ地を滑るようにキュブレムが高速でキメラに接近する。

 至近距離で、顔面に4本の光の矢が命中した。

 それでも長剣を振り上げたままで私の接近を待っている。右腕から火炎弾を3発長剣を握っている腕に命中させたところで、全体重を乗せた長剣がキメラの首を薙いだ。


 首の無いキメラがその場でしばらく立っていたが、やがてドサリと音を立てて地に伏せた。

 得物を持たず、首もないキメラに攻撃手段があるとも思われないけど、さらに火炎弾を放つと、着弾するたびに胴が痙攣している。

 まだまだ生命の糸は切れてはいないようだ。


 しぶといからキメラなのかな?

 そんなことを考えながら胴体を長剣で何度も突き差す。

 そのたびにビクンと痙攣を起こすから、ちょっとグロいかもしれない。

 何度目かに長剣を刺した時だ。カチリと何かに当たった。

 剣を捻るようにして体の中から異物を取り出してみると、直径5cmほどのガラスでできたような球体が紫色の光を放ちながら脈動している。

 たぶんこれが原因に違いない。

 手に持ったりしたら、私も取り込まれかねない。

 地面に転がして、転がっていた大きな石を持ち上げて叩きつけた。


 ガラスの砕けるような音がしたから、壊れたに違いない。石を除けてみると、ガラスの球体が3つに割れていた。光も失っているから、アイテムとしては使えない物になったはずだ。

 バッグからハンカチを取り出して壊れたアイテムを包み込んだ。警邏さん達なら詳しく調べてくれるだろう。


 そういえば、タマモちゃん達の狩りはどうなったかな?

 キュブレムを戻して、装備をレンジャー仕様に戻すと丘に向かって歩き出した。

 あの丘に登ればタマモちゃん達の狩りの様子が少しは分かるに違いない。


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