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112 手練れのPK犯

 

 木こりさん達と途中まで一緒に行こうかと迷ったんだけど、結局は自分達だけでということになった。

 元々ニネバは港町だから、少し歩けばすぐに渚だ。

 北に向かう轍のある道をしばらく歩いて、左手に見えてきた小高い丘へと足を進める。

 丘に上から西に目を向けるとニネバの町を少し過ぎた辺りから北に向かって渚が続いていた。


「かなり北に延びているけど、奥行きは余り無いみたいだね」

「精々300mというところかしら。水棲生物は余り長くは陸上にいられないんだけど、この世界ではねぇ……」


 チコさんとエアリーさんが、どうしたものかと渚を見ながら話している。

 この丘から渚までの距離はおよそ1km程度だろう。渚から少し離れた場所を動いているのはヤドカニかもしれない。ヤドカニは陸上で暮らせるようだけど、渚からそれほど離れて生活するわけではないようだ。

 

「ヤドカニがたくさんいる。でも、アネモネルはいないよ」


 タマモちゃんが双眼鏡を取り出して報告してくれた。

 双眼鏡を持ってることにチコさん達が驚いていたけど、警邏の仕事を手伝っていると話していたからだろうか。納得した表情で頷いている。


「依頼書の報酬はトランバーと同じだった。ウサギとヤドカニを交互に狩れば、ニネバで装備を更新できるわ」

「そうするしかなさそうね。次の町に行っても、武器屋を眺めるだけではつまらないし」


 お金を貯めるってことかな? そういう意味では、ヤドカニは狙い目なんだよね。


「たくさんいるけど、狩るのは手前から行きましょう。先ずは、あの茶色の奴!」

「茶色の縞がある貝を背負ってるカニね。いつものフォーメーションで行くわ!」


 チコさんが狙いを付けたヤドカニに向かって行ったのはアンデルさんだ。

 弓を手にしてたんだけど、ヤドカニに有効なのは打撃なんだけどなぁ。


「アンデルは周囲の警戒に向かったの。後方の警戒はイネスが担当するから、狩るのはマイヤーとエアリーになるわ」

「チコさんは狩りの指揮ってことですね」


 私の言葉に苦笑いをしている。指揮と言えば聞こえは良いけど、実際は囮ということになる。レンジャーのアンデルさんの方が適任ではあるけど、前方で周囲の警戒をしているから、レンジャーに次いで身軽なチコさんに囮役が回ってきたということだろう。


「見ていて、危なくなったら介入して欲しいな」

「了解です!」


 私達に手を振って一足先に丘を下りていく。

 レベル8のパーティだし、武器の質も上がっているから介入することは無いんだろうけど、タマモちゃんがいつの間にか一球入魂を取り出して杖代わりにしている。あれって重くないんだろうか?


「モモさん達もヤドカニを狩る時があるんでしょう? どうやって狩るの」

「タマモちゃんがあれで殴りつけるんです。被っている貝の強度がそれなりですから短剣では刃が立ちませんし、弓で狙う箇所が少ないですから」


 私の話を聞きながら、自分の杖とタマモちゃんの金属バットを見比べている。今まで行ったことのある武器屋には、金属バットは置いてなかったんだよね。どうしても欲しい時には職人さんに作って貰うことになりそうだけど、それなら杖の先に鉄球でも付けた方が良いんじゃないかな。


「それじゃあ、タマモちゃん。イネスさんをお願いね」

「お姉ちゃん1人でだいじょうぶなの?」


「先に向かえずにニネバにいる冒険者なら精々レベル7というところよ。早くレベルを上げたいんでしょうけどねぇ……」

「PK!」


 イネスさんが驚いているけど、タマモちゃんに手を引かれて私に顔を向けながら丘を下りて行った。

 これで、憂いが無くなったから存分に体を動かせる。

 ゆっくりと体の向きを変えて、北に向かう街道に目を向けた。

 

 PKは狩りと同じだ。というより狩りよりも高度な技量が必要になる。

 相手に気付かれることなく葬れば、自分達にPKのペナルティが着くことが無い。死に戻りしてもそれが魔獣による攻撃かPKかをやられた本人が確認できなければ申請することも不可能だ。

 だけど、まだまだそんな技量を持つPK犯はいないようだから、しっかりと個人データに記録が残ってしまうそうだ。

 背の高い草むらに隠れて私に近づいてきたのは4人のパーティだ。私1人ならと考えているのかな?


 私が丘の上にいるから、後方に回ることができないようだ。

 ジッと彼らの近づくのを見ていることに気が付いたんだろう。前方から接近してくるパーティの1人が草むらから立ち上がった。


「さすがはネコ族だね。俺達の接近が分かるんだから」

「あら、どうも。それで? パーティ参加は無理だよ。私達のパーティは狩りの最中だから」

「俺達に気が付いたなら、自分達のパーティに向かうのが普通じゃないの?」


 軽戦士の装備をしているのはイヌ族の男性だ。ネコ族と違ってかなり犬に近い顔だからリアルでの年代は分からないけど、せいぜい大学生というところじゃないかな。


「普通ならね。それでどうするの? 今ならまだPKにならないから、ペナルティも無いでしょうけど」

「そうだけど、僕達も経験値が欲しいからねぇ。1人残ったということは、他の連中よりレベルが高いはずだ。レベルが高ければ、倒した時にボーナス補正も入るからね」


 ん? それって魔獣を狩る時の補正なんじゃないかな。

 PKで補正が掛かることがあるんだろうか? それよりも私が死に戻りした時にPKを申請することを考えていないのかな?

 いや、考えているはずだ。となれば、何らかの手段でそれを阻止できる手段があるのか、それを持っているということになる。


 いきなり左手から飛んできた火炎弾を避けるように前方に向かって一回転する。

 私が体勢を整えるわずかな隙を狙って、先ほどまで話していた男性が居合抜きに近い抜刀を放ってきた。

 水平に斬りこんできたから体を仰け反らしてかわしたけど、すれすれだったから胸が大きかったらちょっと問題だったかもしれない。


「PKってことね。これで全員倒しても文句はないと思うけど?」

「倒せるのかい? レベル7が4人なんだけどなぁ。ジッとしていてくれれば痛みもなく終わらせられるんだけど」

「お生憎様。それと、警邏さん達がやってくるはずよ。逃げなくても良いのかしら?」


「無理だね。申請は届かない!」


 長剣を構えたまま、ゆっくりと近付いてくる。

 残りの3人が気になるけど1人は魔導士だから直接攻撃はしてこないはず……。

 大きな殺気に後ろに跳び去ると次の殺気が襲ってくる。私の立った場所から少し離れた場所に矢が突き立ったから、1人はレンジャーということになる。

 

「時間差攻撃なら当たると思ったんだけどなぁ……」

「生憎と勘が良いのよ。でも良いパーティ編成ね。もう1人は重戦士辺りかな?」


 たぶん動きの悪い職種ということなんだろう。私を誘導しているのが分かる。PKなんてしないでも、それなりに先に進める連中じゃないかな。


 じりじりと長剣を振りかざしてくる男性と矢を射かけてくる男性は視認できた。火炎弾を放つ者は、矢を放つタイミングに合わせて来るから、中々存在が分からなかったけど、小柄な女性であることがようやく見て取れた。

 最後はどんな人物なんだろう?

 ジッと殺気を殺して待つのはネコ族の特徴なんだけど、ネコ族ということは無いはずだ。重戦士にネコ族を使ったなら、軽快な動きを削ぐことになってしまう。

 となれば……、トラ族ということに違いない。

 瞬発力はネコ族並みだ。待ち伏せには適してるということになる。


 たまに襲ってくる剣戟を避けながら周囲を探る。既に3人の位置関係は分かっているから、それ以外に動かずに殺気を殺して潜んでいるのは……。

 左手だけを動かして、バッグからクナイを取り出す。

 前方のイヌ族の男性の長剣を後方に一回転して避けながら後方の藪に向かってクナイを投げつけた。


 カン! という甲高い音が周囲に広がる。

 ガサガサと物音を立てながら立ち上がったのは、やはりトラ族の男性だった。革の鎧には、鉄の胸部装甲が後付けされている。長剣を片手に持って左手に大きな丸い盾を持っているから、クナイをあの盾で弾いたんだろう。


「おもしろい。あの動きで俺にクナイを投げつけたところを見ると、レベルは10に近いんだろうな」

「別に教えないけど、それに近いかもよ。あまり長く付き合ってられないから、今なら見逃してあげるけど?」


 私の言葉に笑みを浮かべてるんだけど、かなりのすごみがあるから小さい子なら泣き出すんじゃないかな?

 

「負けたわけではない。それに、多勢に無勢とも言うんじゃないか?」

「これだから、おもしろいんです。リアル世界では自分の腕を試せませんからね」


 イヌ族の男性の言葉に、トラ族の男が頷いている。

 ひょっとして、リアル世界で道場なんか開いてるんじゃないかな?

 それならイヌ族の男性の剣筋が良いのも理解できる。となると、この4人を早めに倒しておかないと犠牲者が増えてしまいそうだ。


「リアル世界の不満を持ち込むのは構わないけど、魔獣相手にしてほしいわ。私達を狙うことはないんじゃない?」

「魔獣ではなぁ……。同じような武器を持った相手を倒すことが、自分の技量を示すことになる」


 そういうことか。最初からPK目的という奴だ。

 その内にPKギルド辺りを作るのかもしれない。それも必要悪の1つではあるし、VRMMOにはなくてはならない存在でもある。

 だけど、この状況下ではやって欲しくないな。


「どうしてもこの場で私を殺ると?」

「力を示すには良い相手だと思うが?」


 側転を繰り返して間合いを取り、停まると同時に短剣を構える。

 先ずは遠距離攻撃を何とかしなくちゃ。

 極端に身を低くしてほとんど4つ足状態で荒れ地を駆け抜け、魔導士の女の子の首を刎ねる。

 立ち止まることなく場所を移動し、身を伏せた。


「一瞬か! まるでニンジャだな。あれほど動けるなら我等に余裕を持って話ができたわけだ」

「隠れてしまいましたね……」

「見事だな。完全に気配を消してはいるが……。そこだ!」


 私に向かって短剣が飛んできた。その場で跳び上がって避けたけど、どうしてわかったのかな?


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