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111 北の渚に行ってみよう


 町に戻ると、ギルドに獲物を届けて報酬を頂く。

 町の周辺で得た獲物だし7人での頭割だから、1人当たりの分配はそれほど多くにはならない。とはいえ、38デジットを受け取ってにんまりするのは、庶民感情が抜けてないのかも。

 

「やはり、だいぶ死に戻りがあったみたい」


 ギルドのカウンターで報酬額を受け取って来たチコさんが、テーブルで待っていた私達に教えてくれた。


「近くで地道に稼いだ方が、長い目で見れば良いように思えるんだけど?」

「人様々ということかな? 確かに、皆より先に行こうとする冒険者は多いよね」


「お前等は、死に戻りしてねえってことか?」


 近づいてきた男性が、チコさん達の話に興味を持ったのか、近くの椅子を引いてきて腰を下ろした。

 年の頃は、チコさん達と同じ年代に見える。顔は作ったのかな? ちょっと不自然な感じもするんだけど、まあまあのイケメンに見える。


「無理をしないのが、私達の狩りの仕方よ。この大陸に渡って3日目だけど、今のところは無地に狩をしてるわ」

「やはり地道が一番ってことか……。俺のところは2回も死に戻りしてるからなぁ。街道の先は危険だぞ」


「相手は?」


 ん? という目で、男性が私とタマモちゃんに顔を向けた。

 お姉さん達に連れられた妹という感じで見てるのが分かるんだけど、急に作ったような笑みを浮かべた。


「イノシシと狼だ。野犬かもしれない。とにかく大きいぞ。西の大陸で出会った連中と比べて数倍はある。いくらレベル8の重戦士でも弾き飛ばされたからな。狼の方は大きい上に群れで襲ってくる。

 街道を東に向って、最初の休憩所を拠点にするつもりだったが、休憩所を見ることも出来ない始末だ。東に進むならレベル10を超える必要があるんじゃないか?」


 結論は私と同じ考えみたい。

 チコさん達としばらく話していたが、仲間を見つけたのかカウンターに向かって手を振ると、私達から離れて行った。


「まったくとんでもない大陸ってことなんでしょうね。レベル8ですら、町から離れられないというんだから」

「そうなると、少し高めの経験値が得られる相手を見つけないと……」


 やはりレベルを上げるのが急務ということになる。

 経験値を上げるだけなら、何も魔獣を狩る必要もない。同じレベルの冒険者を狩れば良いのだ。

 そんな結論を出す輩も出て来るんじゃないかな。タマモちゃんに掲示板に注意するようお願いしておこう。


「モモちゃん達はしばらく付き合ってくれるんでしょう?」

「2人というのも問題のようです。東のシドンの町で分かれるということで……」


 次の町に行けるほどの実力が付くなら、この大陸で冒険者として暮らすことはそれほど難しくないんじゃないかな。


「助かるわ。ここでポイされたら、ちょっと自信が無かった」

 

 イネスさんが大きな胸に手を当てて胸をなでおろしている。ちっとも羨ましくないぞ。私だってここで暮らしてる内に発展する可能性だってあるんだから。


「そうなると、明日は海辺で狩りをした方が良さそうね」

「南の渚はかなりの人出らしい。何故か北は人気が無い」

「それなら、北で狩りをする? 人気が無いのはあまりヤドカニがいないんじゃないかしら」


 チコさんの疑問にアンデルさんが考えられる答えを披露してくれた。それもあるんだろうけど、もっと違う答えもあるんじゃないかな? 西の大陸では遭遇したことが無い水棲魔獣が出てくることもあり得る話だ。

 たぶんチコさんも気が付いてはいるんだろうけど、あまり取り越し苦労をするのもこのゲームを楽しむことにはならないと思っているのだろうか?


「モモちゃん達も、それで良いかい。となると、集合は北門の広場になる」

「朝食後に北門ですね。自分達のお弁当を持参で向かいます」


 明日の予定が分かったところで、チコさん達と別れて宿に向かう。

 まだ外は明るいけど、直ぐに暗くなるんじゃないかな?

 宿は酒場を兼ねてるから、早めに夕食を取って休息した方が良さそうだ。


 宿の扉を開けると、食堂はがらりとしている。窓際の席でフィアナさん達がこっちに手を振っているから、今日の状況を教えてということかな?


「まだ外が明るいけど、一緒のパーティで死に戻りでも起きたの?」

「無理をしないパーティですから、安心して狩りをしてますよ。ギルドで話を聞きましたが死に戻りはまだまだ多い気がします」


 私の言葉を聞いてキリカさんが頭を抱えている。やはり警邏の方でも問題視しているのだろう。


「運営に上程した方が良さそうだぞ」

「そうなると……、レベル10を条件にすることになりそうね。トランバー周辺でレベル上げは難しいかもしれないわ」


 ゲームバランスが崩れてしまうということのようだ。

 トラペットからの旅立ちがレベル5以上、トランバーからの旅立ちがレベル7という設定で、魔獣を配置しているのだろう。

 

「安易に経験値を稼げる魔獣をトランバーに配置するというのもなぁ……」

「あまり考える余地はないのかもしれませんよ。このままで行けば、続々とトランバーからニネバに冒険者が流れてきます。ニネバから東のシドンへの冒険者の流れが停まると、PKが始まりかねません」


 私の言葉に、フィアナさんが溜息を吐く。

 キリカさんは頷いてくれたから、危惧として頭の片隅に置いていたのだろう。


「PKが始まってからでは、私達の対応能力が問われそうね。私から運営に掛け合ってくるわ」


 タマモちゃんが目を丸くしている。私もちょっと引いてしまった。フィアナさんの口調では、どう考えても喧嘩しに行く感じがするんだもの。


「そうだ! ちょっと教えて貰って良いですか。北の渚に冒険者があまり出掛けないのは、何か理由があるんでしょうか?」


 私の言葉に、フィアナさん達が笑みを浮かべる。理由を知ってるということかな?


「大きなイソギンチャクがいるんだ。胴体の大きさがドラム缶ほどあるし、移動もできる。頭の触手は5mほどに延びるし、毒を持っているんだ。致死性ではなく、痺れるくらいだけど、動きは格段に鈍くなる」

「獲物を見る感覚器官はあるんでしょうか?」


「良い質問ね。イソギンチャク……、『アネモネル』は触手の一部に熱を感知する器官があるの。イソギンチャクは海の中にいるけどアネモネルは陸上よ。小動物を狩るんだけど、人間も狩るみたい」


 野ウサギだって数倍大きかったからね。

 初日で何人かやられたに違いない。だけど……、近付けないし、こっちを知るすべがあり、かつ動けるとなればかなり厄介には違いない。


「胴体内に魔石を持つわ。1体倒せば銀貨2枚以上にはなるわよ。それに、イノシシ以上の経験値が入るのも魅力ではあるんだけど」


 なるほど、良いことを聞いた。

 今晩ゆっくりと狩りを考えてみよう。


「だけど、あれほどイノシシにやられるとは思わなかったな」

「レベル7程度ではねぇ。盾役が跳ね飛ばされるんだから困った話ね」


 本来なら、あれほど大きくは無かったそうだ。レベル7の重戦士が突進を止められる想定だったらしい。


「モモちゃん達が緊急介入したようだけど、どうやって止めたの?」

「タマモちゃんのお友達を出したんです。鋼鉄のゴーレムですから、あの程度ならビクともしません」


「そうなるよなぁ……。やはり獣魔使いがこの世界では一番なんじゃないか?」

「何言ってるの。魔導士が一番よ!」


 2人でそんな話を始めた。キリカさんが獣魔使いで、フィアナさんが魔導士ということなんだろう。

 皆が、憧れの職種になれるんだから、思い込みもあるんだろうね。


「でも、誘いこみならイノシシを倒すのはそれほど難しいとは思えません。落とし穴に落とせば、後はタコ殴りが可能です」

「落とし穴か……。土属性魔法の【ホール】で良いのかな?」

「だから言ったでしょう? 魔導士が一番なのよ」


 まだ言い合っている。

 きっと仲が良いんだろうな。タマモちゃんと一緒に、お姉さんが運んできてくれた夕食を頂きながら、2人の会話を楽しむことにした。


「でも、あちこちに作られたら、それも問題よね」

「一応、開けたら基に戻すのが礼儀なのでは?」


 案外忘れてしまいかねない。その辺りはギルドと警邏さん達に任せよう。

 食事を終えた私達は、だんだん騒がしくなってきた食堂から引き上げることにした。


 私達の部屋に入ってベッドに腰を下ろす。

 まだ寝るのは早いけど、タマモちゃんは服を脱ぎ始めた。バックスキンの丈の長い上着を着ているから少し重いのかもしれない。

 私も上着を脱いでいつでもベッドに入れるだけの姿になる。


「穴を掘って、誘えば良いんだよね」

「その後は、魔法で攻撃ってことかな? でも、その後が面倒よ」


 魔石の大きさは大きくとも直径5cmを越えることはない。多くは緒系3cm程度だからドラム缶の胴体を隅々まで探すことになるんじゃないかな。


「魔石を探すのが大変じゃないかな」

「そうでもない。【探索】の上位スキル【感知】が使えるもの。魔石は魔力が漏れるでしょう? それを見付けるの」

 

 エヘン! とタマモちゃんが胸を張っているから、任せてみようかな?

 w他紙のスキルは戦闘特化になってるみたいだから、【探索】は上位種になってもそのままだ。探索範囲が300mほどに広がり、精度が上がった感じもするんだけど、基本は変わらないから、魔力の漏れなんてわからないんだよね。


 翌朝。朝食を終えると、お弁当を持って通りを北に向かう。

 ニネバの北地区は大きな邸宅が並んでいる。貴族街というわけでもないんだろうけど、町の有力者や教会、それに駐屯する騎士団の屯所があるらしい。


「小さな門だね」

「北にある森から、薪や木材を運ぶ木こりさん達が利用するだけみたい。ん? そうなると、木こりさん達だって危ないんじゃないかな?」


 ちょっと疑問が浮かんできたけど、広場の片隅に勢ぞろいした騎士達を見て納得した。

 騎士が護衛して運んでいるに違いない。町を維持するうえでも薪は必要だし、騎士のレベル上げにもなるということなんだろうな。

 誰の発案か分からないけど、騎士が同行しないと薪すら手に入らないってことは、早急に魔獣の配置を見直すべきだと思うな。



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