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110 大イノシシは車並


 午前中に野ウサギを5匹狩ることができた。

 チコさん曰く、「さすがは鋼の剣」ということなんだけど、そんなに攻撃力が上がったんだろうか?

 

「鉄の剣と比べて攻撃力が3つも上がるんだから、かなり違いを感じられるわ」

「チコはレベル7だからSTR(攻撃力)が9なの。鉄の剣による上昇は7だけど、この鋼の剣は10も上がるのよ」


 アンデルさんが解説してくれた。攻撃力16と19の違いってことかな。全体として見れば、鉄の剣を装備していた時よりも、攻撃力が2割弱上がったということなんだけど、その違いは明らかに感じられるということかな。


「運営も粋な計らいをしてくれるのね」

「それだけ、当初の状況と違っているとも言えますよ」


 マイヤーさんは嬉しそうに言ってるけど、イネスさんはちょっと違和感を感じているみたい。

 実際の状況はイネスさんの言う通りなんだけど、とりあえずはエアリーさんが入れてくれたお茶を皆で頂いている。


「何組か死に戻りをしたらしいよ。町の近くで狩りをしたと宿で言ったら、皆がうなずいていたもの」

「モモさんの言う様に町が見える範囲では正解だったようですね。死に戻りした人達は街道を東に向ったようです」


 アンデルさんの話しをエアリーさんが頷いて、補足してくれた。

 町を出て1日も経たずに死に戻りとはねぇ。それだけ強力な魔獣が近くまで来ているということになるのだろうか?

 そもそも、東のシドンの町への到達レベルをどれぐらいに想定しているのか、フィアナさんに確認しといた方が良いのかもしれないな。


「ゲーム参加が遅れたから攻略組に加わることは無いけど、ルート攻略も結構難度が高いよね」

「攻略組は一直線だからね。こんなサブルートは見向きもしないはずよ。私達の掲示板も閲覧数が増えたんじゃない?」


 専用の掲示板?


「あのう……、私達の事はアップしてないですよね?」

「親切なNPC冒険者と一緒に行動してることはアップしたけど、名前や装備は一切書いてないから安心して」


 思わずタマモちゃんと顔を見合わせてしまった。

 まあ、それぐらいは良いのかもしれないけど、あまり私達の存在を知られたくはないんだよね。


「特定できなければ問題ないと思ってたんだけど……」

「それぐらいにしといてください。別な理由から私達の存在は不明にしときたいんです」


 私の話を首を傾げて聞いていたイネスさんがポンと手を打った。


「ひょっとして、PKKってこと? 冒険者に紛れて行動するとなればPKにとって厄介な存在になるわね。どう見ても高校生と小学生の姉妹にしか見えないんだもの」

「そりゃ存在を知られたくはないよね。申し訳ない。削除しとく」


 PKKってことで納得してしまった。まあ、PKKをしたこともあるし、やってることは似かよったところもあるから、ここは小さく頷いておこう。


 休憩を終えて、さらに2匹の野ウサギを追加したところで昼食を取る。

 タマモちゃんと私が素早く動いて野ウサギの退路を断つから、攻撃力の上がったダイアナの5人が的確な動きで狩りをしてくれる。

 たぶん、今日にはレベル8になれるんじゃないかな? そうしたらさらに狩りが容易くなるに違いない。


「……1人消えた」


 モシャモシャと野菜サンドを食べていたタマモちゃんが呟いた。

 全員がタマモちゃんの視線の方向に顔を向ける。


「あれって、野ウサギじゃないですよね?」

「大きさが問題だが、イノシシじゃない。でも、お父さんの自動車ぐらいありそうね」


 素早く後ろを振り返る。

 私達がいる場所からは、まだ町の石垣が見えるけど、あの距離なら全く見えないんじゃないかな?


「タマモちゃん行くよ!」

「うん。GTOを出すね」


 運営サイドがあらかじめ想定した区域レベルに5を足したレベルが私達のレベルだ。最低は10なんだけど、この町ならレベル15になるはずだ。さらにレベルを上げることは可能だけど、周囲の目があるから軽々しく行うことではない。


 光と共に現れたGTOに飛び乗って、遠くに見えるパーティの救援に向かう。

 時速60km以上の速度を出せるから2分も掛からずに現場に到着したのだが、5人パーティの男性達は重戦士を盾にイノシシの突撃に耐えようとしていた。

 十分にレベルがあるならそれも可能なんだろう。だけど……、やはり3人程跳ね飛ばされてしまった。


「助太刀します!」

 一声かけて、GTOをイノシシに向ける。

 すれ違いざまに短剣で切り払おうとしたけど、まるで石を切りつけたみたいに跳ね返されてしまった。


「堅いねぇ……。タマモちゃん、冒険者の前に黒鉄くろがねを出せない? 黒鉄なら跳ね返すのはあのイノシシにも出来ないでしょう」

「分かった。一旦戻るね。お姉ちゃんは?」

「黒鉄の後ろから矢を放つわ。矢じりならあの毛皮を射通すことができるかもしれない」


 かなり強い魔獣に分類されるんじゃないかな? 動きが速いのが問題だ。

 冒険者達の近くで私がGTOから飛び降りると、すぐ側に黒鉄が出現した。

 ゆっくりと冒険者達のところに歩いていく。


「だいじょうぶですか?」

「1人やられたけど、まだまだやれるさ。ところで隣は?」

「一応ゴーレムなんですけど、黒鉄と呼んでるんです。見ての通り、壁としては最高ですよ。突進してきたら黒鉄の後ろに移動してください」


 私の言葉にほっとした表情に変わったけど、まだまだ狩りは途中なんだよね。

 バッグから弓矢を取り出して、イノシシに視線を向ける。タマモちゃんの乗るGTOと追いかけっこをしてるけど、そろそろこっちに向かってきそうだ。


 GTOがこちらに進路を向けた。イノシシが追い掛けて来るけど、まだかなり体力があるんじゃないかな。最初の頃とまったく駆ける速さが変わらない。

 200mほどに近付いた時、一気にGTOが速度を上げて私達の後方に向かう。


「来ますよ!」

「おう! 奴がゴーレムに当たった時がチャンスだな」


 分かってるじゃない。その時にできる限りの攻撃を叩きつける。

 私の後ろで魔導士が2人立っている。魔法は有効かな? それも確かめられるに違いない。


 ぐんぐんイノシシが近づいてくる。弓に矢をつがえ満月に引き絞った時、まるで交通事故が起きたような衝突音がした。

 素早く黒鉄の後ろから飛び出して矢を放つ。至近距離で放った矢なんだけど、あまり深く刺さらない。

 次の矢を放つ僅かな時間に男性達が長剣や槍を胴に突き差す。頭には魔導士放った火炎弾が炸裂した。


 黒鉄のかいなががっちりとイノシシの首をホールドしている。イノシシが暴れるから頃が寝の体が揺さぶられるんだけど、黒鉄を揺さぶる存在なんて初めてなんじゃないかな。


「オリャ~!」

 上空から一球入魂を振りかざしたタマモちゃんが降って来た。

 ドン! としたたかに背中を打ったところで直ぐにGTOがタマモちゃんを回収しにやって来る。


「まだまだだ! 根性を見せろ!」

 重戦士の鼓舞に男性達の攻撃が続く。

 3本目の矢がイノシシに突き立った時には、黒鉄を揺さぶる動きが緩慢になってきた。


「どけどけ、これで最後だ!」

 重戦士が手槍を両手に持って深々とイノシシの胴に突き差す。えぐるように槍を引き抜くと、再度突き差した。


 黒鉄がイノシシのホールドを解くと、イノシシがドサリと地面に倒れ込む。

 後は彼等に任せれば良い。素早く矢を引き抜いてタマモちゃんに手を振る。


「ありがとう。何とかなったよ」

「町の郊外は危険ですよ。レベルが低い間は町が見える距離で狩りをした方が安全です」


 男性がなおも話しかけようとしてくるのを見て、片手を振ってやってきたGTOに飛び乗る。

 あまり長くいると面倒なことになりそうだからね。


 チコさん達のところに戻ると、お茶のカップを渡された。

 ありがたく頂いて、喉を潤す。


「驚きながら見てたわ。冒険者達の中に紛れて行動するNPCということに興味深々だったけど、私達を助けてくれる存在ということね」

「一緒に行動して、困った人達を見付けた時だけですけど……。助けられない人達だっていますから」


 イネスさんの話しに答えると、皆がうんうんと頷いている。

 どんな感じに納得したか聞いてみたいところだけど、ここは我慢しよう。


「それが存在を明かしたくない理由なんでしょうね。助けて貰えなかった人達から恨みをかうこともあるでしょう。それにしても、圧倒的よね」

「タマモちゃんの使役獣がいますから、そう見えるだけですよ。あのイノシシを狩るなら、落とし穴を掘って誘導すべきでしょうね」


 私の話を聞いて、チコさん達がマイヤーさんに視線を向けた。


「落とし穴? ……土魔法の【ホール】って、こんな時の為にあったのね」

「そういえば、【ホール】を使った時は、ゴミを埋めた時だけだった」

「掲示板に書いたら、非難ごうごうだったね。ゴミは埋めるんじゃなくて【クリーネ】で消しなさいと教えて貰ったんだよね」


 掲示板はそんな行動を是正するためにも使えるようだ。きっと毎日の冒険を記載してるんじゃないかな。それによって、今後の行動を教えて貰えるし、後輩達もこの世界で暮らすための道標として使えるんじゃないかな。


 男性達はイノシシを収納して町に戻るみたいだ。

 どれぐらいの稼ぎになって経験値がどれだけ増えるか確認したいところだけど、このままダイアナと行動していれば、いずれはイノシシを狩ることになるんじゃないかな。

 でもそれは、もう少しチコさん達のレベルを上げてからにしたいね。


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