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011 皆で狩れば怖くない


 赤い街道をひたすら歩く。

 遠くに山並みが見えるから、あの峠に街道を封鎖しているエリアボスがいるのだろう。

 大きなイノシシらしいけど、どれぐらい大きいのか楽しみだね。


「どんな作戦で行くのかしらね?」

「前衛がイノシシで後衛が取り巻きらしいよ。でも、数人の魔法使いが必要だと言ってたから、レナお姉ちゃんが行くとシグお姉ちゃんが言ってた」


 ありったけの魔法を使ったところで、後ろに下がるんだろうな。となると私は魔法使い達の移動を援護することでお手伝いができそうだ。でも、その前に1発ぐらいは【火炎弾】をお見舞いしておこう。


 昼食は街道傍にあった大きな広場でいただいて、再び東に向かう。

 それにしても、綺麗に直線を維持している赤い街道は何となく不自然さがあるよね。

 もうちょっと蛇行させるかしたら、自然に見えるんじゃないかと考えてしまう。


 日が傾き始めるころに、右手に小さな集落が見えてきた。

 戸数は数十に満たないから、新たな開拓村ということになるんだろう。


「あの集落を過ぎたところにある広場で野宿するみたい。今夜の見張りは交代になりそうね」


 シグが集落を指差して教えてくれた。


「獣が出てくるの?」

「エリアボスを倒すためならと、低レベルのプレイヤー達が街道を掃除してくれたんだけど、完全とは言えないみたい」


 困った表情で私の問いに答えてくれたけど、それだけでもありがたいと思わないとね。L5以下の連中には野犬ですら危険な獣になるだろう。


「それで、モモの武器はいつもの奴なのかな?」

「一応、弓を使いますよ。レンジャーですからね。矢を使い果たしたらこれで!」


 腰の短剣は伊達じゃない。ネコ族の敏捷性を生かせば、十分に爪の代りにはなるんだよね。


「そんなところが、昔のモモとそっくり。でも経験値を積めないのが残念よね」

「そのうちに、化けるんじゃないかと。でも、これは運営さん任せですからねぇ」


 心配してくれるのはありがたいけど、このイベントの後は別の道を歩くことになりそうだ。

 妹のケーナも心配だけど、シグ達がしっかりとフォローしてくれるに違いない。

 私はプレイヤー達の動きをしばらく見ておかないとね。


 他のパーティメンバーとも昔からの知り合いのようにこの世界を語り合う。私がNPCであることをあまり知らないみたい。

 くだらない話をしていると、隊列が横に逸れる。

 どうやら、今夜の野宿場所に到着したようだ。


「「綺麗ね!」」


 前方には夕焼けに染まる峰が赤紫に染まっている。距離は数kmもないんじゃないかな。明日の昼前にはいよいよエリアボス戦に突入することになる。

 あちこちで焚き火が作られ夕食の準備が始まった。私達はスープだけを作って、私の持ってきたお弁当の残りを焚き火で炙って頂くことにする。


「このお弁当は花屋の食堂のものでしょう? しばらくは食べられないわね」

「町と町を結ぶ【転移】が、テストが終われば使えると聞いてる。だけどその前に使えるようになるんじゃないか? でないと先行テストの意味がないでしょう」

 

 シグ達の話は、トラペット町の話題だ。すでに過去の町を懐かしむ口調だけど、エリアボス討伐に失敗したらトラペット町に死に戻りなんだけどね。

 だけど、【転移】が使えるならかなり便利だ。今回のテストでは3つの王国の3つの町にプレイヤーが送られたみたいだけど、それらを繋ぐイベントが封鎖解除のイベントに違いない。

 他の町の方はだいじょうぶなんだろうか?


 食事が終わったら、焚き火を囲んでお茶を飲む。ワインでも良いんだけど、明日を考えるとねぇ。


「シグさん! シグさんはいませんか!」

「誰か呼んでるみたい。たぶん、明日の作戦会議ね。出掛けて来るけど、先に寝ようなんてしないでね」


 シグの言葉に、とりあえず頷いておく。

 誰か1人でも起きて入れば、シグが怒ることも無いんじゃないかな。


 私達が女性だけのパーティだからか、他のパーティの女性達も集まってくる。

 男達は男達だけで集まってワインを飲んだり、パイプを楽しんでいるようだ。


「ええ! 本当にNPCなの?」

「誘われたので参加しました。レンジャーですから接近戦はできませんよ」

「弓ってことね。それでも弓レベルが高ければ、外れることがないんでしょう?」


 私よりずっと年上のお姉さんは戦士のようだ。鎖帷子に金属製のヘルメット。背中にごつい長剣を背負っている。

 この先はどんな職種に転向するのかな? 騎士、サムライ、バイキングと言うのもありそうだ。

 

「決まったよ。大イノシシの相手は戦士8人だ……」


 リーダーの集まりから帰って来たシグの言葉に、女性達が自分達の仲間の元に帰っていく。興味はあるよね。誰がその8人に選ばれたか。

 シグが焚き火の傍に腰を下ろすと、もったいぶった口調で明日の作戦を話してくれた。

 戦士の補助に3人が付いて、戦士に群がる取り巻きを何とかする。問題は魔法で戦う魔法使い達なんだけど、3人1組で大イノシシの取り巻きを相手にすることになる。


「大イノシシは私が挑むけど、レナ達は取り巻きを頼んだよ。ケーナがいるからね」

「お姉さん達の前で良いのね?」

「まだスキルが揃わないからね。本当なら私と一緒になるんだけど……」


 シグがケーナの頭を撫でている。本当のお姉さんはここにいるんだけどなぁ。

 ケーナがちゃんと頷いているところをみると、納得してるということなんだろう。まだまだサムライには程遠いんだよね。レベルが上がるまではシグの後ろで頑張ってほしいな。


「私は適当でいいんだよね?」

「補助魔法が使えるんだろう? 後は任せるよ」


 ニコリと笑みを浮かべたのが問題かも。

 【火炎弾】を一発お見舞いして、後ろで支援しようと思ってたけど、そうもいかないみたい。


 翌日。朝食を終えた私達は、赤い街道を山麓に向かって歩き出した。

 先頭は、8人の戦士が務め。少し間をおいて私達が歩いている。取り巻きの出現は大イノシシが現れてからということだ。

 たぶん前回の討伐隊も同じような情報を得たところで挑んだはずだから、今回は少し人数が多いだけにも思えるんだけどねぇ。

 とはいえ、戦士の中にはSTR(攻撃力)にボーナスを全部つぎ込む人もいるらしいからね。昨夜の女性戦士なんてトラ族の戦士だから、案外そうなのかもしれないな。

 先を歩くトラ族戦士の太い尻尾が嬉しそうに揺れてるんだよね。

 ひょっとして、バトルドランカーってことなのかな? それなら確実に【狂戦士】のスキルが取れそうだけど……。


 街道が緩い坂道になってきた。

 この先は九十九折りの道が続くのだろう。だんだんと周囲のプレイヤーが無口になって来た。少し緊張してきたのかな?


「ケーナはサムライになるの?」

「そうだよ。その後は武者になって、将軍を目指すんだ!」

 

 途中に、浪人とか介錯人なんて職業もあったんじゃなかったかな? でも、最後は将軍なら一応サムライ職の頂点を目指すことになるのかな。どんな鎧武者のなるんだかちょっと楽しみだ。


「その前に、重要な選択があるんだけどね」

「二刀流でしょう? シグも考えてるみたい」

 

 リーダが私の呟きを聞いていたみたい。

 ケーナは、首を傾げているところをみると、まだその重要性に気が付かないのかな?


「最後の選択はケーナに任せるそうよ。でもきちんと情報は伝えるとシグが言ってたわ」

「剣聖だからねぇ……。大鎧は着れなくなるみたい」


 レナもちゃんと考えてくれていたみたいだけど、五月人形を愛でてみたいという誘惑に悩んでいるというのが本音みたいだ。

 でも、そんな自由度があるというのが、この『レムリア』の良いところかもしれない。

 いろいろと悩んで、たくさんの出会いを経験することはケーナにとっても良いことだろう。頼れるお姉さん達がいるんだからね。


 そんな話で盛り上がっていると、周囲の景色がだいぶ変わって来た。

 赤い街道の石畳は以前と変わらないけど、九十九折の両側が崖のようになってきた。

 誰が切り開いたかは分からないけど、岸壁にはノミやツルハシの跡まであった。単なるゲームの背景なんだけど、ここまで凝るとはねぇ。


 そんな風景描写に感心していると、突然私達の歩みが止まった。

 前方を歩いていた戦士達が身を屈め、何人かが私達の方に振り返って、前方を指差したり人差し指で口を押さえている。


 いるってことだよね?

 ケーナの肩をポンポンと叩いたところで、戦士達に向かって身を屈めながら進んでいく。


「いたの?」

「ああ、あれだ。大きいなぁ。ところで、L10のレンジャー職なら持ってるんだろう?」


 シグの問いに小さく頷く。【拘束】スキルを持つ職種は案外少ない。レンジャーに魔物使いぐらいのものだ。上級職になればそれなりに増えるんだけど、それはレベルがもっと上がってのことになる。


「【拘束】を掛けたら、下がれば良いのね」

「昨夜の集まりで伝えてある。モモがNPCだと知って驚いてたけど、レンジャーの参戦は皆がありがたがってたよ」


 シグの笑みに小さく頷いたけど、これで私の存在が更に広がったということになるのかな? 


「それじゃあ、期待に応えなくちゃね。初めて良いんでしょう?」

「ちょっと待って!……始めるぞ。用意はいいね」

 

 私の言葉に、慌てて周囲の戦士達に伝えている。後続の連中にも長剣を上げて伝えているようだ。


「頼んだよ!」

「でも、倒すのはシグ達だからね?」


 念を押しておかないと、私に依存されても困ってしまう。私はわき役NPCなんだからね。


 戦士達が街道を塞いでいる間から1人抜け出して大イノシシに近づいていく。収納バッグから弓と矢筒は出してあるから、直ぐに戦闘に入れるだろう。

 それにしても、大きいねぇ。お父さんの自動車よりも大きいんじゃないかな?

 私達をなめてるのか、近づく私をジッと見ているだけだ。それだけ自分の強さに酔ってるのだろうか?


「【拘束】! 続けて【火炎弾】!」


 【拘束】の発動で、大イノシシがビシ! と固まった。続けてはなった【火炎弾】が大イノシシの鼻面に直撃する。

「「ウオオォォ!!」」

 蛮声を上げて8人の戦士が一斉に大イノシシに向かっていった。

 さて、取り巻きの連中は直ぐにやって来るんだろうか?


 隘路の崖際に移動して矢をくるくる回しながら状況を眺める。

 直ぐに大イノシシの向こう側から十数頭のイノシシがやって来たけど、魔法使いの放ついくつもの【火炎弾】でかなり傷ついている。

 ケーナ達2線の戦士達が上手い具合に倒しているから、魔導士のMPが枯れるまでは問題ないだろう。

 問題があるとすれば大イノシシの方だ。

 シグ達の斬撃で満身創痍に見えるんだけど、HPゲージは余り減っていないようだ。【拘束】が利いている間にどれぐらいHPを削れるかが勝敗を分けるんじゃないかな。


「モモ、見てるんだったら矢を放ってよ!」

「えぇ? 大イノシシはシグ達の獲物じゃないの!」

「倒せとは言えないけど、弱らせるのを手伝ってくれるかな?」


 イケメンの戦士のお願いなら、聞いても良いかな?

 慎重に狙いを定めて……、矢を放った!


 大イノシシの目に吸い込まれるように矢が突き刺さると、大きな叫びが隘路に響き渡る。

 その結果を見て、シグ達の動きが一瞬止まってしまった。

 L10のレンジャーが放つ矢が、ヤジリ部分だけ食い込んだだけだったのだ。

 とんでもなく固いぞ。

 戦士達の斬撃があまり有効でなかったのも頷けてしまう。


「左だ。奴の左目は見えねぇからな!」

 

 戦士達の新たな戦いが始まったようだ。それに……、そろそろ【結束】が切れるんじゃないかな?

 ケーナ達も、いつの間にか野犬を相手にしてるし、この後はオオカミと言ってたから、私は後衛の援護に徹しよう。

 でも、その前に。

 私はもう1度、大イノシシに【火炎弾】を放った。


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