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109 練習で作った鋼の剣


 港町ニネバを出てすぐに始めた狩りは、今まであまり狩る人もいなかったようで大猟だった。あの大きさの野ウサギを11匹は誇れるんじゃないかな?

 肉屋に持って行ったら、1匹12デジットで買い取ってくれた。全部で132デジットだから、1人当たり18デジットずつに分けて、残った6デジットは2つのパーティで3デジットずつ分けることにした。

 私の方が多くなるんだけど、ダイアナの連中はそれで十分と言ってくれた。


「野ウサギの買取値が3倍とはね……。もっともあの大きさに納得しますけど」

「でも何とか倒せるよね。これが野犬になると問題よ」


「しばらくは町の近くが良いでしょうね。野ウサギ以外の獣だっているでしょうし。それで、明日も一緒で良いですよね?」

「こっちこそお願いするわ。他の冒険者も気になるし、ギルドの依頼も少し見ておくね。集合場所は、東門で良いかしら?」


 チコさんの話に「了解です」と頷くと、タマモちゃんと手を繋いで宿に向かう。

 まだ夕暮れには早いから、宿には人がいないようだ。

 小母さんが、窓際に座るように言ってくれたので、タマモちゃんと並んで座っているとお茶を出してくれた。


「無事で何よりだよ。何組か死に戻りしたと聞いたんで、ちょっと心配してたんだ」

「町のすぐ外で狩りをしてたんですけど、大きな野ウサギでした」


 私の言葉に大きな声で笑い始めた。

「ハハハ……。たぶんそれが原因なんだろうね。群れで現れたらレベル10は欲しいところさね。群れは町から離れないと合わないだろうから、しばらくは町が見えるところで狩りをするんだよ」


 先を急いだ連中がいるってことかな?

 だけど、レベル7になったところで野ウサギ相手に死に戻りとはねぇ……。掲示板が賑わってるんじゃないかな。


「あら、もう戻っていたの?」

 入り口扉の方から聞きなれた声がした。顔を向けると、フィアナさんとキリカさんが私達のテーブルに向かって歩いている。

 テーブル越しの席に座ると、ネコ族のお姉さんを呼んで飲み物を注文してるけど、ワインを頼んだんだよね。まだ勤務時間じゃないのかな?


「様子見はどうだった?」

「最初の大陸では簡単な狩りでも、ここでは苦労しますね。できればレベル10以上を条件とすべきだったのでは?」


 私の言葉にキリカさんが頷き、フィアナさんは笑みを浮かべた。タマモちゃんはフィアナさんが頼んだワインと一緒に運ばれてきたジュースに目を輝かせている。

 

「でしょう? 今日の死に戻りの数は16人よ。パーティ単位で2つも死に戻りが出たわ。ちょっと考えてしまうところね」

「ギルドで説明はしたようなんだが、野ウサギと聞けば初心者向けと思うだろう。売値と経験値が稼げると町を離れたに違いない」


 まだまだ冒険者の数が少ないんだから、町の近場で十分に稼げるはずだ。早く次の町に行きたいのは理解できるけど、それはもっとレベルを上げてからになるんだろうね。


「町が見えるところで狩りをしてたんですが、それでも数匹の群れはいましたよ。気になったのは、私達2組のパーティ以外の冒険者を見掛けたのが1度だけだったことです。

 我先にと街道を東に向ったとすれば、死に戻りもするでしょうね。

 規制を考えてはどうですか? 『レベル10までは2パーティで狩りをすること』ぐらいなら冒険者からのクレームも少ないと思うんですが?」


「なるほど……。モモちゃん達も、2組で狩りをしてたのね。野ウサギの報酬は3倍なんだから、2組で得物を分けてもこの町で十分に暮らせるわ」


 野ウサギ狩りで1日20デジット近いんだからね。宿代は高くても15デジットには届かない。もっと先に行けば高くはなるんだろうけど、冒険者の収入を考えているようだ。

 

 ちらりとフィアナさんがキリカさんに視線を向けると、小さく頷いたキリカさんが何もない空間に指先を躍らせている。

 仮想スクリーンを開いて、どこかに情報を伝えているようだ。


「そうなるとモモちゃん達は、しばらくはこの町にいることになるだろうのかな?」

「船で知り合ったパーティのメンバーのレベル上げを手伝うつもりです。明日にはレベル8になるでしょうから、10日程を目標に近場で狩りを続けるつもりです」


「そうそう、渚も良い狩場よ。ヤドカリやトビウオが狙い目ね。野ウサギのように極端にハイスペックじゃなくて、強さは2割増し程度かな。もっとも、売値はほとんど変わらないんだけど」


 それも貴重な情報には違いない。死に戻りするような連中のお助けとなる獲物となるのだろう。

 

「是非ともギルドで冒険者に知らせるベきだと思います。経験値は余り稼げないでしょうけど、宿代を稼ぐには絶好の獲物ですからね」


 夕暮れが近づくと、町の住民が集まってくる。私達もそんな住民の話に耳を傾けながら食事を始めた。

 私達の席の近くで酒を飲み始めた親父さん達は、武器屋と道具屋の主人らしい。

 ついつい聞き耳を立ててしまうのは仕方がない。そんな私達にフィアナさん達は笑みを浮かべている。


「……すると、積み荷には鋼の武器が積まれてるということかい? そうなると俺のところにも頼んだ品が入って来るかもしれないな」

「ああ、冒険者達が渡ってきたからなぁ。帝国からの商船もやってきたんだろうよ」


 鋼の剣が、こんな場所で手に入るということなんだろうか? レベル的には20以上で手に入るところではあるのだろうけど、この町では精々がレベル10というところだろう。

 

「気が付いた? 現状への対処手段として運営が修正したみたいね。でも、本来の鋼シリーズにはならないんじゃないかしら? 弟子が練習で作ったとか言って仕様と値段を抑えるはずよ」

「それでも、鉄シリーズから比べれば上になります。剣を3回振るところが2回で済むなら、狩りがだいぶ楽になりますからね」


 ダイアナの連中に教えてあげよう。男性と違って女性達は無駄遣いをしないから、案外、購入できるかもしれないし、狩りにやる気も出るんじゃないかな。


「モモちゃん達の武器は、現状で良いの?」

「レベルに応じて変化しますから、問題はありません。それに、ラグランジュ王国でナナイさんから人形を頂きました。たぶんそれでレムリアの深淵まで行けるのではと……」


「ラグランジュにも行ったの? あそこは治外法権的なところがあるけど、ナナイが気に入ったということかしら。元々レムリア世界には【人形使い】のスキルが無いの。それをモモちゃんが使えるとなれば、冒険者達もラグランジュに向かうことになるのかな?」

「必ずしも、ということだ。ラグランジュの入国審査はかなり厳しいぞ。入国できても、帝国への足掛かりということになるんじゃないか? 【人形使い】のスキルをどのようにして入手するか、その人形をどこで手に入れるのかは俺達にも分からん。

 それに【魔獣使い】のスキルの方が応用が利く」


 珍しくキリカさんが長い話をしてくれた。

 【魔獣使い】はタマモちゃんが持ってるんだよね。黒鉄くろがねやロブネスを使役できるんだから凄いとしか言いようがないんだけど。

 

 食後のワインを頂いたところで、フィアナさん達にジュースのお礼を言って部屋へ引き上げた。


「鋼の剣を買えれば良いね」

「でも高いんじゃないかしら? 明日教えてあげましょう」


 本来のゲームバランスが崩れているから緊急措置的な対応なんだろう。それなら廉価になると思うんだけどね。


 翌日。朝食を急いで取って、ネコ族のお姉さんからお弁当を受け取ると直ぐに東のもんに向かった。

 時計があると良いんだけど、生憎とこの世界には無いんだよね。それに1人だけ持っていても、待ち合わせには使えない。

 門の内側にある広場にいくつか設けられたベンチに座って、ダイアナの連中がやって来るのを待つことにした。


「あれ? 2人だけなのかい。俺達のパーティと同行しても良いぞ!」

「ここで待ち合わせなんです。獲物が大きいですから気を付けてくださいね」

「ありがとう! そうなんだよ。危うく死に戻りしそうになったから、今日は他のパーティと一緒なのさ。君達も頑張れよ!」


 私と同じ年代なのかな? 一緒のパーティは10人以上の大所帯だ。あれなら数匹程度群れても難なく狩ることができるだろう。

 親切な申し出をしてくれた男性に手を振ってあげると、向こうで成り行きを見守っていた人達も手を振ってくれる。

 こんな人ばかりだと、ゲームもおもしろいんだけどなぁ。


 しばらく待っていると、チコさんが駆けてきた。


「ごめん。待たせちゃったかな?」

 息を切らせながら謝ってくれたけど、別に気にしてないからね。


「こっちが早く来てるだけです。それより……」


 チコさんに昨夜聞いた情報を教えてあげると、段々と驚きの表情に変わっていった。


「本当なの? それなら少し待ってて貰えない。買えるかどうかは微妙だけど、出来れば予約しておきたいわ」

「近場の狩りですからね。押さえておきたいのは私達も理解できます」


 広場に現れた仲間のところに走っていくと、すぐさま仲間を引き連れて通りを走って行った。

 買えるかなぁ? タマモちゃんに顔を向けると、反対側の屋台に視線を伸ばしている。

 あれって、焼き鳥屋さんなのかな? 冒険者が数人集まっているようだけど。


「1本で良いかな?」

 私の言葉に、タマモちゃんが嬉しそうな顔を見せてくれた。

 タマモちゃんを連れて、屋台に向かう。どうやら魚の串焼きらしい。火鉢のような場所に、いくつもの魚を刺した串が並んでいた。


 2つ買うと、ベンチに座って頂く。

 トランバーで食べた屋台と同じ味がする。魚の串焼きはどこも同じなのかな


 タマモちゃんがなごり惜しそうに、食べ終わった串を眺めていると、チコさん達が広場に速足で戻ってきた。

 少し嬉しそうな顔をしているから、手に入れることができたのかな?


「半分以上売れていたみたいだ。モモさんに教えて貰わなかったら手に入れられなかったかもしれない」

「買えたんですか?」

「半額だったの。弟子が練習で作ったとか言ってたけど、鉄の剣よりは遥かに優れてる。生憎と魔導士用は無かったけど、次の町ではあるかもしれないね」


 チコさんの長剣、エアリーさんの片手剣と盾、それにアンデルさんの短剣が鋼シリーズになったらしい。

 さて、狩りが少しは容易になるんだろうか?

 

「出掛けましょう。昨日と同じで近場で良いよね」

「渚も狙い目だそうですよ。トランバーと同じような獲物がいるそうです。大きさは同じぐらいだと聞きました」

「なら、町の南に回ってみましょう!」


 門番のお爺さんに手を振って町を出る。直ぐに町を取り囲んだ石垣沿いに南へと足を向けた。

 遠くに、野ウサギと格闘している冒険者の姿が見えた。

 人数が多いから、タコ殴りにしてるみたい。あんな感じに狩るなら比較的安全な狩りができるんじゃないかな。


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