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107 狩りに出掛けよう


 港から東に続く大通りを歩いていく。

 夕暮れ時は、町が一番活気にあふれる時刻なんだけど、ニネバの町はまだ冒険者がそれほどいないから、少し静かなくらいに落ち着いた感じがする。


 フィアナさんに教えて貰った警邏事務所の位置は、大通りを東に向って最初の十字路との事だった。歩いて左手、十字路を渡った角にあるらしい。通りを挟んだ反対側には冒険者ギルドがあるし、その手前には交番があると教えてくれた。


 大通りの途中にはいくつかの路地が北に続いているんだけど、十字路にはなっていないようだ。通りの反対側に見える路地とは、1軒ほどずれているんだよね。


「お姉ちゃん。あれみたいだよ」

 

 タマモちゃんが指さした先には、荷車が調度十字路を横切っているところだった。すると、向こうに見える石造りの3階建てが警邏事務所ということになるのだろう。

 反対側にも立派な建物が見えるから、ニネバの中心ぐらいに考えとけば良いのかもしれない。


 警邏事務所を通り過ぎると、軒先にランプに照らされた看板が見える。ここが宿みたいだな。

 扉を開けて中に足を踏み入れると、そこは食堂だった。


「いらっしゃい。お食事かね?」

「できれば、宿もお願いします。フィアナさんがここなら泊めてくれると教えてくれましたので」


「フィアナ嬢ちゃんの紹介かい。こっちに来ておくれな。宿帳に名前が必要なんだよ」


 ちょっと男勝りの恰幅の良い小母さんの後ろを歩いて小さなカウンターに向かった。

 小母さんが広げてくれた宿帳は真っ白だったのにはちょっと驚いたけど、ニネバの町に冒険者が入って来るのは今日が初めてだからだろう。

 羽ペンで、私とタマモちゃんの名前を書くと、小母さんがその右手の余白に、フィアナさんの名前を書いている。

 紹介者の控えということなんだろうか?


「一晩10デジットで、朝と夕食が付くんだよ。昼食は1人2デジットなんだけどね」

「しばらくはニネバで狩りをして過ごそうかと思っています。これで5日に昼食ということで……」

 100デジット銀貨と10デジット銅貨を2枚、カウンターに並べた。


「確かに受け取ったよ。これが鍵だよ。2階の階段を上って最初の部屋さ。食事はテーブルに座ってカギをテーブルに置けば運んでいくからね」

「分かりました。先ずは夕食にします!」


 うんうんと頷く小母さんから鍵を受け取って、近くのテーブルに腰を下ろした。鍵をテーブルの上に置くと、しばらくしてネコ族のお姉さんが食事を運んできてくれた。

 シチューと丸いパン、それに小さなカップに入ったワインが付いている。タマモちゃんにはジュースみたいだな。

 味はどうかな?


「「美味しいね」」


 思わずタマモちゃんと顔を見合わせてしまった。これなら、しばらく滞在しても良いかもしれないと思う味だ。フィアナさんに感謝だね。


「「ご馳走様」」と食堂のカウンターに声を掛けて、2階へ上がる。

 さて、部屋はどうなのかな?


 扉の鍵を開けて部屋に入ると、ツインベッドと窓際にテーブルと椅子が2つ。ガラス窓には花柄のカーテンが掛かっていた。部屋の明かりはテーブルの上にあるランプだけだけど、明るさは十分だ。

 ベッドの硬さも調度良い。これならぐっすりと眠れそうだ。


 目が覚めると、通りの雑踏が聞こえてくる。

 早起きしたタマモちゃんが、窓を開けて外をながめているのが見えた。雑踏と言っても、同じトランバーよりは静かに思える。そろそろ私もベッドを出よう。


「おはよう。いつもタマモちゃんは早いんだね」

「自由に動けるし、色々見て回れる。寝てるなんてもったいないよ」


 闘病生活が長かったからかな? 

 友人も病院の中だけだったに違いない。ケーナにはその辺りの事情を知らせていないんだけど、まるで妹ができたみたいに喜んでたんだよね。

 毎日メールのやり取りをしてるようだけど、そんなに話すことがあるんだろうか?


「そうだね。この世界なら自由に飛び回れる。でも、イザナミさんとの約束はきちんと守らないとね」

「皆を守るんでしょう? だいじょうぶだよ。お姉ちゃんだっているし、警邏さんや騎士さんだっているんだから」


 タマモちゃんに笑みを返して、さっさと着替えを済ませる。

 今日は、ダイアナの5人とギルドで待ち合わせがある。向こうもタマモちゃん並の早起きだったら、ずっと待たせてしまいそうだ。


「朝食を済ませて、ギルドに行こう!」

「うん。どんな獣がいるんだろうね」


 室内を見回して忘れ物が無いことを確認する。

 扉に鍵を掛けて、食堂に向かった。


 ん? 通りに面したテーブルで私達に手を振る人がいる。フィアナさんだ。いつもここで食事をしてるのかな?


 テーブルに近付いて朝の挨拶をすると、反対側の席をフィアナさんが指さした。口にパンを入れてるから話ができないみたいだ。

 隣にはフィアナさんより少し若い女性が私達を興味深く見ている。私よりは歳上みたいだから、リアルでは大学生なのかな?


「今日から活動するんでしょう? 隣はタニア。私の後輩よ」

「モモです。隣はタマモちゃん。よろしくお願いします。……一応、町の周囲で獣の様子を見ることから始めます。レベル7の冒険者パーティと一緒ですから、無理はしません」


「NPCと聞いたけど、プライヤーと合流できるの?」

 タニアさんがちょっと驚いている。タニアさんの知るNPCは単独行動なのかな?


「この世界では、同じ冒険者ですからね。必要に応じて他のパーティと合流も出来ますよ。今回は客船で同室になった冒険者達です」

「まあ、色々とあるみたいね。警邏のマル秘情報を見たでしょう? そういうことよ」


 どういうことなんだろう? タマモちゃんと顔を見合わせていると、お姉さんが朝食を運んできてくれた。野菜サンドとスープを私達の前に置いたところで、「お弁当にゃ!」と言って紙包を渡してくれた。

 直ぐにバッグに収納して、朝食を頂く。


「半日程度の距離ならそれほど脅威があるとは思えない。でも、昨日話したように、セーフティエリアが使えないことに注意して頂戴。大至急手直しをしてるんだけど、案外プログラムの修正が面倒みたいなの」

「それは、他の冒険者には?」


「一応、ギルドの壁に張り紙を出して、カウンターでも伝えると言ってはいたんだけど……」

「冒険者ということですね」


 フィアナさんが困ったような表情を見せながら頷いた。

 冒険者が冒険をするのは仕方がないということなんだろう。自分の実力を知っての上なら、敗れたとしても自己責任として自覚できるだろう。

 だけど、それを運営さん達の嫌がらせと取る連中もいないわけではない。

 その辺りは、ゲームを進める上で追々自覚することになるんだけど。


「この大陸で不審なことが合ったら、タニアに連絡してくれない? タニアはこの大陸全体のバランスを見ているの」

「連絡方法は?」

「掲示板にタニア宛でお願い。タニアの名前があれば、タニア達だけの掲示板に情報が行くから隠匿性を持たせられるわ。この町周辺であれば、タニアから私に連絡が来るの」


 警邏さん達の組織はそんなふうになってるんだ。

 確かに全体を見る人と地域を見る人が同じでは問題だよね。


 食事を終えて、お茶を頂いたところでフィアナさん達の席を後にする。

 カウンターの小母さんに鍵を渡すと店を出る。次はギルドなんだけど、通りの反対側だから1分も掛からないんじゃないかな。


 ギルドの扉を開けると、冒険者達が一斉に私達に視線を向ける。

 最初はタマモちゃんが怖がって私の服の裾をしっかりと掴んでいたんだけど、この頃はすっかり慣れてその視線を辿って冒険者の値踏みをしているように思える。


「チコさん達がいるよ。あの壁のところ!」

「待ってたのかな? 行ってみよう」


 奥に向かう私達を、なおも視線が追い掛けてくる。仲間を探してるんだろうか? それなら、このホール内にいる他の冒険者に声を掛ければ良いと思うんだけどねぇ。


「ごめんなさい。待たせてしまって!」

「私達もさっき来たばかりよ。カウンターでセーフティエリアが使えないと教えて貰ったんだけど、貴方達は知ってた?」


 エアリーさんが空いていた椅子を運んでくれたので、タマモちゃんと一緒に腰を下ろす。


「警邏さんに聞きました。半日ほど離れると獣のレベルが一気に上がるということです」

「それなのよ。そうであれば、私達もレベルを上げられると話してたの」


 冒険者は冒険を求める典型なのかな?


「でも、無謀なんじゃないかと話してたの。私としては少し離れた場所でレベルが1つぐらい上の獣を相手にするのが1番だと言ってるんだけど」


 イネスさんは慎重派ということなんだろう。チコさんにはなくてはならない人物じゃないかな。


「私もイネスさんに賛成です。見知らぬ土地ですし、レベルが同じでも相性が悪い獣だっているでしょうからね」

「モモさんも、イネス派ということね。それじゃあ、出掛けましょう。お弁当は用意したんですか?」


「ちゃんと用意しました」


 私の言葉にチコさんが頷いて腰を上げる。

 私達も立ち上がり、扉に向かって歩き出す。先を進むのはチコさんだ。ギルドを出ると十字路を東に向って歩き出した。

 遠くに町を囲む石垣が見えているから東の門まではそれほど時間は掛からないだろう。


「ん? 冒険者だな。この街道を2日進めば次の町だが、途中のセーフティエリアはまだ使えんぞ」

「近場で狩りをして夕方には帰ってきますからだいじょうぶですよ。ところで、この近くには何がいるんですか?」


 門番さんは引退した軍人さんという感じの老人だった。私と同じNPCなんだろうけどプレイヤーと区別するにはネームの確認をしないと分からないだろうな。

 しばらく首を傾けてう~むと唸っていたが、思い出したかのように手を打って私達に顔を向けた。


「町の直ぐ側なら、野ウサギに野犬じゃろうな。このぐらいの大きさだから弓なら狩るのも容易だろう。だが、その外側にはバルッコとバイタルがいるぞ。バルッコはオオカミを群れで狩れるなら何とかなるかもしれんが、バイタルは少し厄介じゃ」


 バルッコは熊ほどもあるオオカミらしい。バイタルは大蛇ということなんだけど、魔法があまり効かないらしい。これは少し考えないといけないな。


 門番さんに礼を言って、東に向う街道を歩き出した。

 周囲は緑の絨毯だ。穏やかな起伏があるけど、至る所に繁みがある。街道付近に繁みが無いのは、誰かが切り取ってくれたのかな?


「あの繁みが動いてるよ!」


 歩みを止めて、タマモちゃんが腕を伸ばした先にある繁みに全員が注目する。


「確かに動いてる。風ではあんなうごきはしないわ」

「バルッコかしら?」

「いや、ちらりと姿が見えた。丸いから野ウサギだと思うんだけど、大型犬ほどありそうよ」


 トランバー周辺と変わらないと聞いてたけど、大型犬並みの野ウサギのレベルはどれくらいなんだろうか?


「弓なら狩れると門番さんが言ってたよ」

「でも、門番さんが言ってたのは、あの半分ぐらいよ。1矢で倒すのはちょっと自信がないな」


 私達の話を聞きながら、チコさんが顎に手を当てて考えている。

 さてどうするのだろうと成り行きを見守っていたら、チコさんが大きく頷いた。結論が出たのかな?


「レンジャーが2人いるんだから、先ずは矢で攻撃しましょう。逃げたらそれでおしまいだけど、あの大きさなら向かってくるかもしれないわ。エアリーと私が盾になるからマイヤーは後ろから援護してくれない? タマモちゃんも魔法が使えるからマイヤーと一緒にいてね」

「先ずは毛皮を焼かないように、ダメなら全力で良いんでしょう?」


 マイヤーさんがチコさんに確認している。綺麗な毛皮と美味しいお肉が狩りの基本ということなんだろう。

 手当たり次第に狩りをしてレベルを上げるという冒険者も多いんだけど、ダイアナの人達はこの世界をそれなりに楽しんでいるみたい。


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