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105 船旅


 客船の部屋は舷側に直径50cmほどの丸いガラス窓があった。壁の両側には2段式のベッドが2つずつ置かれているから、8人部屋ということになるのかな。


「お姉ちゃん、どこにするの?」

「そうねぇ。相部屋と言ってたから、もう1つのパーティが来てから調整することになるのかな」


 先に場所を確保するのも有りなんだろうけど、1泊2日を暮らすとなれば、先に来たからということで場所取りをするのも考えてしまう。


「あら、相部屋の相手は貴方達かしら?」


 後ろからの声に振り返ると、私よりも年上に見えるお姉さん達が立っていた。


「そうなります。私と、向こうのベッドに座っているタマモちゃんの2人です」

「どんな人達かと思ってたんだけど、2人なんだ。向こうの女の子の座っているベッドで良いかしら。私達は5人パーティだから、残りの3つのベッドを使うわ」


 お姉さん達も、自分達より年下に見える私達だから、安心した表情をしている。タモもちゃんも、窓が近い場所だから嬉しそうだ。


「ところで……」

「そうか、自己紹介がまだだったわね。とりあえず、掛けてくれない。ずっと走ってきたから私達も座りたいのよ」


 タマモちゃんの隣に腰を下ろすと、他の3つのベッドの下段にお姉さん達も腰を下ろした。汗を拭いたり、水筒の水を飲んでるところを見るとかなりの距離を走ってきたんだろう。


「私達は『ダイアナ』というパーティなの。私がリーダーのチコ、軽戦士よ。隣が重戦士のエアリー、レンジャーのアンデル、向こうの2人が魔導士のマイヤーに神官のイネス。全員がレベル7だけど、あれからだいぶ経つからもう直ぐ8に成れると思うわ」


 チコさんに名を呼ばれると小さく頭を下げたり手を振ったりしてくれるから、直ぐに顔と名前を憶えてしまった。

 向こうの大陸に渡っても直ぐに大陸に散ることは無いだろうから、何かとお世話になるかもしれないな。


「私はモモと言います。隣のタマモちゃんと一緒に冒険者のお手伝いをするためにあちこち旅をしているNPCなんですよ」


 NPCという言葉を聞いて、チコさん達が驚いている。

 旅するNPCという言葉は聞いたことがあるかもしれないけど、その多くは商人や、連鎖イベントに関わるNPCだからね。


「ということは、私達よりも高いレベル?」

「攻略組に同行できますよ。でも、基本は周囲のプレイヤーに合わせることになりますし、私達はイベントボスを相手にできません」


 うんうんと頷いてるけど、どんな風に納得したんだろう?


「要するに、遠くから私達を見てる感じなのかな?」

「一緒に、行動しながらという感じですよ。私達も『クレーター』というパーティ名を持ってますからね」


「それなら、向こうに着いたら私達と一緒に狩をしませんか?」

「良いですよ。明日の夕方には着くんですよね。翌日からということでギルドで待ち合わせをしましょう」


 私達だけで動くよりも、冒険者達と一緒の方がフィールドの状況をよく見ることができるだろう。異常が見つかれば警邏さんに連絡すれば良いだろうし、場合によっては私達で調査を継続できる。


「モモちゃんはレンジャーなんでしょうけど、タマモちゃんは?」

「タマモは魔獣使いだよ。GTOにしもべが3ついるの!」


 神官のイネスさんは茶色の巻き毛の女性だ。タマモちゃんの返事にうんうんと頷いて微笑んでいるけど、イノシシやオオカミ辺りを想像してるのかな?

 実物を見たら驚くかもしれないけど、港周辺ではレベル6、7に見合った毛得物らしいから、黒鉄くろがねやGTOを出すことはないんじゃないかな。


 ドラの音が聞こえてきた。いよいよ出航なんだろう。

 タマモちゃんが私に顔を向けたところを見ると、甲板に行きたいのかな?


「出航ですね。甲板に出て見ませんか?」

「そうね。しばらくはこの大陸ともお別れだから……。行きましょう!」


 部屋を出て階段を上ると、甲板には大勢の冒険者達で溢れていた。船尾の一角が空いているのを見付けて、そこに駆け寄り舷側から港を眺める。

 客船は桟橋から既に離れていたが、その距離は30mにも達していない。

 桟橋で手を振る人物の顔は十分に分かるんだけど、知った顔は無いんだよね。


「アキコさんだ!」

 タマモちゃんが手を振りながら片手を伸ばして場所を教えてくれた。

 確かにアキコさんだ。隣にハヤタさんが手を振っている。

 

 桟橋との距離が離れるにつれ、個々の顔が分からなくなる。

 港の真ん中あたりに出ると、見送り人は黒い塊になってしまった。それでも、きっと手を振り続けているんだろうな。

 ハリセンボンの前あたりにも黒山があるから、小母さん達が手を振っているのかもしれない。しばらくは帰らないつもりだけど、またお土産を持って遊びに行こう。


 港を出た客船の甲板にはお弁当を広げる冒険者達で一杯だ。

 私達も『ダイアナ』の5人のお姉さん達と一緒にお弁当を広げる。ハリセンボンの小母さんが作ってくれたお弁当は2人で食べるには量が多すぎる。『ダイアナ』のお姉さん達にも助けて貰った。


「えぇ~、これ美味しい!」

「ハリセンボンの小母さんが作ってくれたの!」


 お姉さん達にタマモちゃんが得意そうに答えているから、ちょっとおかしくなって、笑い声を上げようとしたから、唐揚げを喉に詰まらせそうになってしまった。

 そんな私を見て、チコさんが笑みを浮かべている。


「本当にNPCなの? 表示は確かにNPCなんだけど……」

「NPCですよ。冒険者さん達の様子を見ながらあちこち旅をしてるんです」


 既に港は見えなくなってしまった。

 船はまっすぐに進んでいるところを見ると、船長はこの船の進路に自信を持っているのだろう。

 今のところ、海上に怪物がいるような話は聞いたことが無いから、私達は女子会よろしくお弁当が無くなるとバッグからお菓子を取り出して世間話に興じることになった。

 他の女性達ばかりのパーティや、男女混合パーティの女性達もやってきて船尾は嬌声が度々上がってしまう。

 船首には男性達のパーティが集まって酒盛りを始めたようだけど、私達の嬌声が上がる度にこっちを見るんだよね。気になるんだったらこっちに来ればいいのにね。


 夕暮れが近づくと、船員がスープとパンを配ってくれた。

 スープだけを頂き、夕食用のお弁当を広げる。そんな用意をしていたのは私達っだけではないようだ。かなりのパンが余ったようだけど、船首で男性達が喜んでいたところを見ると、余ったパンを頂けたのかな?


 日が暮れると、舷側にランプが灯される。

 その雰囲気がたまらないと、ワインを飲み始めるお姉さんも出てきた。

 そろそろ、部屋に引きあげようかな?

 タマモちゃんが眠そうな表情で目を押さえ始めている。


「お先に!」

 そう言って、女性達の輪の中から、タマモちゃんを抱き上げて階段へと歩いていく。階段前でタマモちゃんを下ろすと、私が先になって下りる。

 1階分下りるだけだけど、階段はさらに下に続いているから転げ落ちたりしたら大変だ。


「ようやく着いたわよ。明日はのんびり寝ててもだいじょうぶみたいね」

「島が見えたら起こしてあげるね」


 小さく頷いたけど、そこまで寝坊することはないと思うんだよね。

 タマモちゃんはベッドの上に上がってカーテンを閉めた。さて私も横になるか。

 革の上下とベルトを外しただけで十分だろう。

                 ・

                 ・

                 ・

 ゆさゆさと体を揺すられて、目を開けるとタマモちゃんが私を揺すっていた。


「おはよう!」

「皆起きてるよ。お姉ちゃんが一番遅いんだから」


 世間体を気にする歳ではないんじゃないかな? 

 とりあえず、体を起こしたらチコさんが笑っていた。


「良い姉妹なんですね」

「はぁ、まあ良くできた義妹です」


 とりあえず衣服を整えて、甲板に向かう。

 かなり遅くなってしまったけど、朝食を配っていた船員さんに乗船カードを見せたら朝食のサンドイッチを渡してくれた。隣の大きな鍋からオタマで1杯のスープが貰えるらしい。コップに頂いて舷側にあった木箱に腰を下ろして頂くことにした。


「タマモちゃんも今なの?」

「ずっと待ってたの。お姉さん達が誘ってくれたんだけどね」


「ありがとう」と言いながら頭を撫でてあげる。

 海上はどこまでも続く海原だ。本当にこの先に大陸があるんだろうかと心配になってしまう。


「昼過ぎには大陸が見えてくるお姉さん達が話してたよ。まだ10時を過ぎたところだからまったくだよね」

「そうね。でも、どんな場所なんだろうね」


 始めての土地だから、色々と期待がこもる。

 港町周辺ならばトランバーの町と大差はないのだろうが、急に獣のレベルが上がるとのことだ。

 どんな相手になるんだろう? 場合によっては昆虫種も混じって来るかもしれないな。


 朝食を終えて部屋に帰ると、『ダイアナ』のお姉さん達が武器の手入れをしていた。 鉄の剣や魔導士の杖も、あまりレベルが高い品ではない。でも、初期装備からすれば2つほど上の品だ。次は鋼ということなんだろうけど、シグ達も鋼の剣を手にしたのはレベル15近い時だったから、まだまだ鉄の剣を使い続けることになるのだろう。


「モモちゃん達は手入れをしませんの?」

「ムチや棒に弓ですからねぇ。この間ヤジリを研いでますから、しばらくは問題なさそうです」


「それで、獣と戦えるんですか?」

「何とかなりますよ。タマモちゃんは魔法だって使えますからね」


 散々翻弄しといて、最後は一球入魂でし止められるからね。2人パーティだと役割が明確だから無駄な動きがない。

 

 互いに暇ということもあって、昼食のドラが鳴るまでの間、互いの狩りの方法を披露することになってしまった。

 これも旅の楽しみには違いない。

 シグ達と似た編成だけど、狩りの方法がだいぶ違うんだよね。ある意味オーソドックスだけど、戦闘時は冒険しないことが鉄則のようだ。

 


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