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103 出航はまだ先のようだ


 前にトランバーにいた時には、西の大きな桟橋に繋がるドッグに客船があったんだけど、今は桟橋に移動している。

 修理が終わったということなんだろう。甲板に数人の船員さんが何かをしているようだ。

 そんな客船が停泊している桟橋への出入り口の扉は閉じられて、立ち入り禁止の表示が出ていた。

 

「何か、書いてあるよ?」

「そうね。え~と……」


 初回の乗船券は完売。出航は冒険者ギルドの判断待ち。と書かれてあった。

 ハヤタさんの言う通りってことか。最後に出航の前日に旗を掲げると書かれてあったから、夕刻に旗を確認すれば乗船を逃すことは無いだろう。


「どうやら、冒険者ギルドで乗船者のレベルが上がるのを待ってる感じかな? どれぐらい乗船券を販売したんだろうね」

「ギルドに行ってみる?」


 確実な情報はギルドってことかな? ハヤタさん達もギルドから情報を仕入れているのだろう。

 やはり、1度は行っておいた方が良いかもしれない。


 港を東に戻って、大通りに向かう。

 最初の大きな十字路にある冒険者ギルドの入り口は、だいぶ人の出入りがあるようだ。

 それだけ、トランバーに冒険者が流れていることになる。ハヤタさんの話しでは、周辺のむらの解凍も行われたらしいからね。


 数段の石壇を上って開け放たれた扉を通ると、ざわざわと下人の話し声が飛び込んできた。 依頼掲示板も大勢が群がっているから、あの中で自分に合った依頼を探すのは大変みたいだ。

 数セットあるテーブルにも冒険者達が座り込んでいるし、壁際にもいくつかのパーティが依頼書を手に入れるのを待っているようだ。


「混んでるね」

「周辺で狩りをしてお店に持ち込んでも良いんでしょうけど、持ち込むお店が分からなければ、依頼書が頼りだからねぇ。でも、カウンターのお姉さんは1人増えてるよ。ちょっと手持ち無沙汰のようだから、聞いてみるね」


 依頼書の確認を自分達のパーティで再度行っているみたいだから、ホールの騒がしさがカウンターには伝わっていないようだ。

 ギルドとしては、少しでも手続きの時間を少なくしようとカウンターの増員を図ってはいるようだけど、冒険者達があれではねぇ……。


 タマモちゃんを連れてカウンターに向かい、お姉さんに軽く頭を下げて2人のギルドカードを差し出した。


「客船の乗船券は手に入れたんですが、いつ頃乗船できるのですか?」

「モモちゃん達ね……。これって、間違いないの!」


 ギルドカードの確認をしたお姉さんがちょっと驚いて私達を見てるから、とりあえず頷いておいた。


「乗船券の販売は既に終わってるはずなんだけど……」

「警邏のハヤタさんに頂いたんです。これですけど」


 バッグから乗船券を取り出すと、「ちょっと貸してね」と言って2枚の乗船券を受け取り、乗船番号をバインダーで挟んだ用紙に書き込んでいる。終わったところで乗船券にスタンプを押して渡してくれた。


「偽造品もあるのよ。販売リストを貰ったから確認してみたの。確かにハヤタさんが2枚購入しているわ。確認スタンプを押したから、それで手続きは終了よ。桟橋の船員に見せれば乗船できるわ。でもねぇ……、貴方達でようやく30人を超えたところなのよ」


 客船は50人程乗れるらしい。世界一周をする大型の客船は2千人以上乗れると聞いたことがあるけど、この世界はファンタジーな世界だからね。桟橋に泊まっていた客船も全長は50mほどだったから、そんな物かもしれない。


「残りは20人程ですか……。時間が掛かりそうですね」

「海を渡っても、到着地の周辺はトランバーとそれほど魔獣のレベル差はないのよ。でも半日も歩けば急にレベルが高くなるの」

「レベルを7以上に制限したと聞いたんですけど、そういう理由ですか」


 ギルドの親心ということなんだろう。それをきちんと冒険者が理解しているかどうかだな。今朝みたいな冒険者が多いんではねぇ。


「レベルは冒険者達の個人情報にもなるから、詳しくは教えられないけど、3日あれば人数が揃うんじゃないかしら。出航の事前連絡は分かってる?」

「1日前に、桟橋に旗が掲げられると書いてましたが?」

「港の何カ所かにも表示されるし、ギルドの表にも表示するから、ちゃんと見て頂戴ね」


 いつの間にか、後ろに冒険者が並んでいる。

 お姉さんに礼を言って、待っていた冒険者に軽く頭を下げる。

 ギルドを後に通りを歩きながら隣のタマモちゃんに目を向けると、タマモちゃんも私に視線を向けてくる。

 2人で笑みを浮かべたから、他の人が見たらヤバい女の子達だと思われたかも。


「北に行くんでしょう?」

「狙いはヤドカリ。ヤドカニはおまけかな」


 北に向かう冒険者達もいるようだ。長剣を下げたり、槍を手にした姿は精悍に見えるんだけど、その実力はどの程度なんだろう?

 場合によっては、タマモちゃんとレスキューをしないといけないのかもしれないな。


 北門をくぐると、冒険者達が少しずつ街道を外れて東に向かって行く。狙いはヤドカニ辺りなんだろう。

 それなりの経験値も得られるし、何と言っても高く売れるからね。

 街道にある最初の休憩所に到着した時には、私達と2組の冒険者達だけになっていた。


「お嬢さん達はホルンの町に向かうのかい?」

「いえ、この辺りで狩りをしようと思ってます。あまり冒険者の皆さんの獲物を横取りするのも問題でしょうから、もう少し北で狩りますよ」


 一緒に焚き火を作ってお茶を飲んでいたから、そんな話になったんだけど、私の話を聞いて、焚き火を囲んだ冒険者から小さな笑いが起こった。


「この辺りだと、ヤドカニだけでなくヤドカリも出て来るぞ。確かに高額で売れるけど、トランバーの南でトビウオを狩れるようになってからが良いんじゃないかな?」


 親切心でアドバイスまでしてくれるくらいだから、悪い人ではないようだ。ギルドのお姉さんが教えてくれた、もう直ぐレベル7になる人達なのかな。


「ご心配を掛けてしまい申し訳ありません。ですが、私達ならだいじょうぶですよ。この辺りでヤドカリを狩ったのは、あのアップデート前ですから。その修正後に西の王国を目指して友人から客船の話を聞いてやってきたんです」


 笑い声がピタリと止まった。

 私達に視線が集まったから、タマモちゃんが私に体を寄せてくる。


「済まない。余計なお世話だったな。ベータからの攻略組ってことなんだろうが、その姿だからなぁ」

「俺達のレベルの遥か上か……。お嬢さん達のヤドカリの狩りを見てみたいものだ」

「あまり参考になりませんよ。魔獣に乗って棍棒でポカリですから」


 棍棒ということに驚いている。長剣で殻を力任せに叩き割っていたらしい。

 だけど、あの殻だからねぇ……。長剣よりはハンマーを使う方が良いんじゃないかな。タマモちゃんの一球入魂は、見た目が金属バットそのものだけど、材質や攻撃力がかなり異質みたいだ。

 ドワーフの職人さんに似た金属バットを作って貰ってもあの破壊力にはならないんじゃないかな。


「基本は殻を壊すということですね。俺達の狩り同じですから、狩りの方法は間違ってはいないということですか」

「だけど、動きがかなり速いんだ。その為の魔導士ということなんだけど、お嬢さん達も【火炎弾】を使うのかい?」

「【火炎弾】は使えないんです。【火遁】を使うんですが、相手はヤドカニですね。ヤドカリなら殻の付け根付近なら矢が通りますよ」


 頷いている冒険者は弓を背負っている。

 レンジャーということなんだろうか? 軽装ではあるんだけど、戦士が盾になってくれるなら、フィールドで活躍してくれるに違いない。


 休憩が終わったところで、東に向ってパーティが分かれる。

 私達は少し北を目指して歩き出し、他の冒険者達の姿が見えなくなったところでGTOのお世話になることにした。


「まっすぐ渚を目指すよ!」

「最低でも2匹欲しいよ。できれば3匹!」


 私の言葉に頷いたタマモちゃんがGTOのスピードを上げる。

 直ぐに渚が遠くに見えてきた。

 さて、どこにいるのかな? 双眼鏡を取り出して渚を探ると、やや左手に動く三角形のとんがりが見えた。


「タマモちゃん、少し左! 大物だよ」

「任せて!」

 

 さて、最初の獲物だ。幸いにも周囲に冒険者の姿は見えないから、獲物を譲る必要もない。

 タマモちゃんがGTOの方向を変えた。既に私達の視線にヤドカリの姿は捕えられている。

 タマモちゃんの肩をポンと叩いたところで、GTOの甲羅からジャンプして跳び下りる。少し草が混じった砂地をころころと転がりながら受け身を取ると、渚に向かって走った。

 バッグから矢筒と闇を取り出して、最初の矢をつがえる。

 ヤドカニとの距離は200mにも満たない。向こうも私の存在に気が付いたらしく、その目をゆっくりと私に向けて、ハサミを振りかざして威嚇をしている。


 どんどんと距離を詰める。

 ヤドカニも私に向かって移動しているが、その速度は人間の歩く速度よりも少し早いぐらいだ。 

 距離が20mほどに迫った時、タマモちゃんの一撃が決まった。

 落下ポイントを正確に予測して、GTOからジャンプしたみたい。

 この場合、GTOのスピードも加味されるのかな? 普段よりもジャンプの高さがあるみたいだし。


「やっつけたよ!」

 タマモちゃんが倒したヤドカリをバッグに収納している。

 まぁ、ヤドカリだからねぇ。私に注意を向けたのが敗因だったに違いない。

 冒険者達のヤドカリ狩りは、魔導士達が【火炎弾】を連発した隙をついて戦士が殻を割ることになるのだろう。

 魔導士の魔力次第だけど、1日で狩れるヤドカリは、多くて2匹。美味しいけどあまり狩れないことから高額になってるんだろうね。


 タマモちゃんを乗せて私の傍にやって来たGTOに飛び乗ると、タマモちゃんは渚を北に向かって走らせた。


「前よりも大きいね。でも1撃で倒せたよ」

「タマモちゃんのレベルがかなり上がってたからだと思うな。それに狩りだって、上手になってるんだから。だけど、私の出番が無いんだよね」

「トビウオがいるはずだよ!」


 タマモちゃんの言葉に、力なく頷いた。

 だいぶ見劣りはするんだけど、私が棍棒を振ることも……、っ! 出来るじゃない。私にはキュブレムがあるんだった。


「だいじょうぶ。私もヤドカリを狩れるよ。ナナイさんから貰った人形を使えば良いのよ」

「じゃあ、今度はお姉ちゃんの獲物だね」


 私に振り返ったタマモちゃんに笑みを浮かべる。

 灰色グマの動きには十分に追従していたけど、ヤドカリの動きはそれより上に思える。私の【傀儡くぐつ】スキルの練習にも丁度良い。


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