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101 乗船カードを手に入れた


 シュガーリッチはハリセンボンと同じように港に面した区画にある。位置は港に西だからハリセンボンとは丁度反対になるのかな。

 港側にテラスを設けた洒落たお店だから、結構お客が入っている。それでもアキコさんの人脈で、テラス席に店員が案内してくれた。


「知り合いなのか?」

「リアルの友人なの。本当は固い職業だから、この世界で店員をしてるのよ」


 ハヤタさんの質問に、アキコさんが先ほどの店員の素性を明かしている。曖昧に誤魔化しているけど、個人情報は大事だからねぇ。

 とりあえず席に着いて、メニューを開く。

 さて、どれにしようかな?

 ふと、視線を感じてタマモちゃんを見た。私をジッと見ている。


「どうしたの?」

「どれが良いのか分からない……」


 病院暮らしが長すぎたんだろうな。タマモちゃんも女の子だから、私と一緒でも良いよね。


「私と同じで良いかな? 甘いものになるけど」

「甘いのなら大好きだよ!」


 これが良いと、アキコさんにメニューを指差すと、ニコリと笑みを浮かべた。片手を上げると先ほどのお姉さんがやって来る。


「これをお願い。紅茶は3つでコーヒーが1つ。マグカップでお願いね」

「アキコが、可愛い子達と知り合いだとは思わなかったわ。後で教えてね」


 私達に手を振ってカウンターへ向かったけど、私達がNPCだと知ったら驚くんじゃないかな?

 

「それで、あの後はどんな冒険をしたんだい?」


 ハヤタさんの問いに、西の王国と昨日のイベントの話をする。

 レムリア世界への侵入事件については興味深々で聞いていた。トランバーへの直接の被害は無かったようで、警邏さん達の情報もあまり伝わってなかったようだ。

 運営さんの上の人達も、あまり内部に情報を伝えなかったらしい。

 直接かかわった町の警邏さん達も、情報の発信を躊躇っているのかな?


「なるほどねぇ。道理で忙しいとしか、連絡が来なかったわけだ」

「攻略組も、ようやく帝国に足を踏み入れられたのね。ということは、そろそろこっちも忙しくなりそうね」


 ハヤタさん達が顔を見合わせて頷いている。

 さっきのお姉さんが、注文の品を運んできてくれた。ホイップクリームがたっぷりと乗ったホットケーキにメイプルシロップが別に付いている。

 紅茶も美味しそうな香りを立てているけど、ハヤタさんはちょっと引いている感じだ。

 ジッとホットケーキを見つめて、どうしようかと悩んでいるようにも見える。


「貴重な情報を頂いた御礼よ。ゆっくり食べてね」

「「頂きます!」」


 アキコさんの言葉に、タマモちゃんとお礼を言ったところでフォークとナイフを握った。

 フォークでホットケーキを押さえてナイフで小さく切る。

 隣のタマモちゃんを見ると、私のやる通りにナイフで切り分けていた。


「切り分けたら、皿の空いてるところにシロップを注いで、ホットケーキを浸して食べるの。上のクリームが鼻に付かないようにね」

「分かった。……美味しい!」


 最初の一口で、虜のなった感じだね。至福の表情でパクついている。


「そろそろハヤタも本題に入ったら?」

「だな。帝国に足を向けずにトランバーにやってきたとすれば、客船が目当てだろう。そろそろ東の大陸に出発できるまでになっている」


「その噂を聞いてやってきました。トランバーにやって来る冒険者のレベルは高くても7前後でしょう。知らない土地に送るのは少し心配なところです」

「向こうの港町周辺は、トランバーとあまり変わりない。だけど歩いて2日程の距離にある次の町周辺は一気にレベルが高くなるんだ」


 楽して魔族の大陸には渡れないということなんだろう。となると、向こうの港町に冒険者が溢れないかな?


「東の大陸の港町は『ニネバ』、東に2日歩けば『シドン』の町よ。シドンの町からン南北に街道があるけど、途中にいくつもの町があるはず」

「南はレベル上げを狙った土地なんでしょうね。となると最北の町は港町で、帝国に移動できるとなれば……」

「レベル18前後にまで腕を上げられるだろうな。客船への乗船資格はレベル6以上ののギルドカードを持つことだ。費用は100デジットだから、1日半の船旅を考えるとそれほど高くはない」


 そう言って、溜息を吐いたハヤタさんなんだけど、溜息の原因は無謀な冒険者を思っての事か、それとも目の前の1切れ切り分けただけのホットケーキなのかが分からないな。


「船に乗ろうとしている冒険者がそれほど多いと?」

「一応、レベルは満足しているんだが、どうにかイノシシを狩れる程度だ。レベルが経験値の積算というところに問題がありそうだ。低レベルの獣を狩り続けても、少し長くは掛かるがレベルを上げることが出来るからね」


 まさか、ヤドカニぐらいは狩れるんだろうね。

 でも、ハヤタさんの気苦労はレベル制限を上げれば簡単に解決できそうに思えるんだけど。


「レベルを上げないの?」

 

 タマモちゃんが私の思いを代弁してくれた。

 ほっぺにまでホイップが付いてるから、バッグからハンカチを出して顔を拭いてあげる。


「それができないんだ。単に数字を入れ替えるだけだと俺には思えるんだけどねぇ」

「システム変更ができないみたいなの。プロテクトの解除ができないらしいわ。いつの間にか、キーコードが誰かに変更されたらしくてリアル世界の運営は焦ってるみたい」

「電脳をいくつもネットワークで繋いでるからでしょうか? それともどこかの電脳に何者かがハッキングしたとか」


「たぶん後者だろうな。ニネバの警邏事務所もどうなることかと心配してるよ。冒険者ギルドと相談して、何度も死に戻りする冒険者達はこちらの大陸に戻すことも考えているらしい」


 強制送還ということかな? だけど自由を売りにするレムリアの世界に制限を加えるようなことは余り良くないよね。


「こっちの事情はそんなところかな。ニネバとトランバーのギルド間で調整が取れ次第客船が出航するでしょうから、最初に向かう冒険者達と同行できないかしら?」

「でも、私達は乗船切符さえ買ってませんよ」


 私の返事に、ニコリと笑みを浮かべたハヤタさんがバッグから2枚のカードを取り出して私の前に置いた。


「乗船カードだ。アキコが絶対に来ると言って、手に入れといたよ。モモちゃん達には警邏の連中が色々と世話になってるからね。これは警邏の経費から落ちてるのでお金はいらないよ」


 慌ててお財布代わりの革袋を取り出した私に言ってくれたけど、これって『タダより高いものはない』という典型かもしれないね。

 でも、帆が死の大陸に渡ろうとしてることも確かだし、今から乗船手続きをしたら、どれぐらい待つかもわからないんだよね。


「ありがとうございます」

「向こうに行ったら、警邏事務所を訪ねてくれない。宿も紹介してくれるでしょうし、何と言っても魔獣達の状況を教えてくれるはずよ」


 冒険者ギルドよりも詳細な情報ということかな? それなら助かる話だよね。

 タマモちゃんがホットケーキを完食したところで、ハヤタさん達にお礼を言ってお店を出る。

 さて、ハリセンボンに向かうのだけど、まだ夕暮れには程遠いから、お土産を狩ってこようかな?


「タマモちゃん。ヤドカニを狩ってお土産にしようか?」

「ついでに冒険者達の様子も見られる」


 そんな相談にはタマモちゃんが直ぐに賛成してくれる。確かに冒険者の狩りも興味があるところだ。ハヤタさんが心配しているぐらいだからね。

 

 一端町の外に出たところで、タマモちゃんがGTOを召喚してくれた。これで短時間に移動できるし、狩りだってできる。

 海岸沿いに南下すると、直ぐに冒険者達を見ることができた。

 トビウオに逃げ回ってたり、ヤドカニをひたすら長剣で叩いてたりと案外苦労しているようだ。

 これではハヤタさんも心配だろうね。冒険者達の狩りの様子を見ながらさらに南下して、周囲に冒険者を見掛けない場所でヤドカニを狩ることになった。

 と言っても、タマモちゃんが一球入魂で叩き込めば1発で狩ることができたから、私としては少し手持ち無沙汰だったんだよね。


 お土産ができたところで、急いで帰る。

 早く届けないと、今夜の料理に使えないだろうし、小母さんの作るヤドカニのスープはトランバーの名物にしたいぐらい美味しいからね。


 意気揚々と港を歩きながらハリセンボンを目指す。だいぶ日が傾いてきたから、大勢の冒険者が夕暮れを楽しむために港に出てきているみたいだ。


 ハリセンボンの前に立つと、店の中から客達の談笑が聞こえてくる。

 まだ夕暮れには程遠いんだけど、今から飲んでるってことかな?


「今日は!」

 店の扉を開くと、タマモちゃんとぺこりと頭を下げる。


「おや? 誰かと思ったら、モモちゃん達じゃない。母さん、モモちゃん達が帰って来たよ」

 

 お姉さんの大声に、台所からおばさんが笑みを浮かべて顔を出してくれた。


「よくやってきたね。しばらくはここにいるんだろう? 2階は空いてるからね」

「これ、お土産です!」


 バッグから取り出したヤドカニはバケツよりも大きいんだよね。これがどうしてバッグに納まるか、誰にも分らないらしい。

 2匹のヤドカニを見て客達が騒ぎ始めた。


「婆さんや、それはワシ等にも出て来るってことだろう? 姉ちゃん、酒を追加だ!」

「足の1本ぐらいは出せるかもしれないね。モモちゃん達に礼を言うんだね。だけど明日もなんて期待は無しだよ」


 そんな会話で、店の中が賑やかになる。

 食事には間があるらしいけど、漁師の小父さん達の話を聞きながら待つことにした。


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