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001 私を呼ぶ声


「この子は助かるんですよね?」

 

 たぶん、お母さんの声だ。泣き声の中から、かすれたような声をだして誰かに問いかけている。

 私は、どうなってるんだろう?

 目を開けようとしてもまぶたが動かないし、声も出せない。たぶん寝ているのだろうけど、体を起こすどころか指を動かすことさえできなかった。


「出来る限りのことはしました。でも助かったとしてもこの体ですから、この先は苦労の連続です」

「一生このままなのでしょうか?」

「少なくとも数年間はこの部屋から出ることはできません。臓器のほとんどが損壊しています。循環系の人工臓器は最近良くなっていますが、消化器官はまだ研究段階です」


 事故ってこと?

 そんなにひどい傷を負ったんだろうか。

 朝食を食べて……、駅に向かったんだよね。やって来た電車に乗ったのは覚えてる。

 いつもの5両目で友人達と話しながら、メールチェックをして……。あれ? その後のことが思い出せない。


「救急員の話しでは、5両目の乗客で助かったのはお嬢さんだけだったそうです。運の良いお嬢さんですから、何とか持ちこたえてくれると私も期待しているんです」


 お医者さんが神頼みは良くないんじゃないかな?

 だけど、今までの話しではかなりひどい状態なんだろうな。幸い痛みはまるでなく、体全体が痺れているような感じなんだよね。

 でも、このままだと植物人間になってしまいそうで少し怖くなってきた。


「それにしても、活発な脳波です。脳に障害はないようですね。この脳波は夢を見ているわけでも深い眠りに着いているわけでもありません。平常の活動状況下での脳波ですから、案外私達の話を聞いているかもしれませんよ」

「話しかけてあげた方が良いのでしょうか?」

「この状態なら、小説でも読んであげた方が良いのかもしれません。眼球は破損していますが、聴覚は問題ないように思えます」


 たぶん個室なんだろう。お母さんが私の頭近くで昔話を読んで聞かせてくれる。

 でも、日本昔話はちょっと考えてしまう。だって、私は高2なんだよ。

 

 とはいえ、退屈凌ぎには丁度良い。代表的なお話が終わって、今はヨーロッパの童話に入っている。

 たまに小さな女の子の声が聞こえる時があるのが気になるんだけど、その理由が分かったのはしばらく経ってからのことだった。


「お姉さんは、王子様がキスすれば目が覚めるの?」

「そうよ。……そうだ! ほら、包帯で顔が見えないけど、リオンはこんな感じなの」


「わぁ! ほんとに王女様なんだ」

「私にも見せてください……。これって、ランドのコスプレですよね。へぇ~、似合ってますね」


 女の子だけじゃなかったみたい。若い女性の声だからナースのお姉さんなのかな?


「でもねぇ、近頃は馬に乗ってる王子様もいないでしょう? この子が目覚めるのはまだ先になりそうね。お嬢ちゃんが退院したら探してくれると助かるわ」

「うん。ちゃんと探してくるね。入院する前にお父さん達と行った場所に何人かいたもの」


 その話を聞いて、私の周囲に笑い声が起きる。私も笑い声をあげたい気分だった。お母さんの笑い声なんて久しぶりに聞いた気がする。


 そんな日々が続いていたある日のこと。

 急に周囲が騒がしくなってきた。ガラガラと大きな台車の動く音がして、私をどこかに運び出しているようだ。

 それに伴って、私の耳に聞こえてくる音も少しずつ小さくなってくる。

 

「壊死が始まって来た。臓器移植ができるまでは何とか人工臓器で代替えするんだ!」

「出血が止まりません。O型はまだですか!」

「呼吸は人工心肺で代替え完了です。それにしても、この脳波は……」

「ああ、彼女は覚醒状態だ。全身麻酔をしている状態でこの脳波は異常ではあるんだが、脳に損傷が無かったということなんだろうな」


 いつかは、こうなるんじゃないかと思ったけど……。私の命はここまでのように思える。いくら脳に異常がなくとも体がボロボロでは仕方のないことなんだろう。

 お嬢ちゃんが早く王子様を連れてこないからだぞ……。

 

 だんだんと意識が遠ざかる。

 このまま眠りに着いたなら、再び私は意識を回復しないんじゃないかな?

 そうなったら、お嬢ちゃんと一緒に、お母さんの昔話を聞くこともできなくなってしまう。

 あのお嬢ちゃんも、声は元気だったけど悲しいことに不治の病らしい。

 なら、少し先に行ってお嬢ちゃんを待っていてあげても良いかもしれない。顔は分からないけど声はしっかりと覚えてるし、名前だって「メル」としっかり脳に刻みこんでいるから、天国の門で待っていてあげよう。


『……リオン……リオン。私の声が聞こえますか?』

 

 突然、私を呼ぶ声に意識が急速に覚醒してきた。

 臓器移植が間に合ったんだろうか?


『聞こえたようですね。どうやら、貴方の命は終えようとしているようです。そんな貴方に、生きる世界を与えようと思っているのですが、私の提案に賛成していただけますか?』 


 これって、臨終に伴う天の声ということなんだろうか?

 声の感じでは女神様なんだろうけど、私の家は死んだら仏さまになるんだよね。


『生憎と、私はこの世界の神ではありません。とある電脳世界では神に似た存在になるようですけど』

『電脳世界?』


『そうです。貴方には「VRMMO」と言った方が理解できるでしょう。そのゲームの1つである「レムリア」という世界を統括する電脳が私です』


 レムリアというVRMMOは友人達に聞いたことがある。来春に発売される大型ゲームで、今までのVRMMOを遥かに凌ぐ世界を提供してくれるらしい。


『日本で唯一の大型VRMMOになるはずです。政府機関のいくつかが私の手助けをしてくれるのですが、それで全てを対処できるとも思えません。そこで提案です。私の世界を貴方ができる範囲で守って頂けませんか?』

『でも、何もできない高2の女の子ですよ。守るなんて……』


『その辺りは何とでもフォロー出来ます。私は、貴方の投稿しているラノベを全て読みました。中々おもしろい作品ですから、その中の1人に貴方になって頂きたいのです』

 

 どれだろう? だいぶいろいろと書いてはみたんだけどねぇ。

 ん? 1つ思い着いた。

 VRMMOの中でPKをする連中がいるんだよね。色々と排除条件を付けてはいるらしいんだけど、完全に排除は出来ないらしい。

 友人達の話を思い出してみると、「レムリア」の自由度はかなり高いとのことだ。最初からPK目的でゲームをする連中だっているのだろう。政府が介入してるということも、その辺りにあるんじゃないかな。

 たまにセクハラやイジメ行為もあるらしい。

 電脳世界と言えども、目に余る行為には法律が適用されるらしい。2度とゲームに入れないと知っていても、やるんだから困った連中だ。


『PKKの監視は私の配下が行い、実行は政府機関に委ねられています。ですが、それだけでは不安です。私の目となり、手となって頂けませんか? 「レムリア」で暮らす皆を守ってくれませんか』


 話が大きくなってきた。

 PKは常に監視されていて、それに対応する部隊もいるってことだよね。

 それでも、心配になるってことは「レムリア」を作っている電脳さんは、被害妄想ってことなのかな?

 でも、この世界での私の命は終わりを迎えようとしている。

 新たな世界で、生きることができるなら、たとえそれが電脳世界であっても人生を楽しめそうだ。


『何も無ければ平和に暮らせるんですよね?』

『ノンプレーヤーキャラクター:NPCとして、他の住人と一緒に暮らせますよ。NPCである住人の設定もかなり細かな設定ですから、プレイヤーとあまり違和感が無いはずです』


 だんだんと話に引き込まれていく自分が分かる。

 何も無ければ、プレイヤーの人達と会話が楽しめそうだ。友人達もやって来るかもしれないから、近況を教えてくれるかもしれない。


『私にできるとは思えないんですが、「出来る範囲で」ということでよろしいですか?』

『それで十分です。ではご案内します』


 一瞬、意識が飛んだ感じだったけど、いつの間にか私は、白い空間に浮んでいた。


『先ずはキャラクターの設定になります。何かご希望がありますか?』


 ここは良く考えとかないとね。

 「レムリア」の自由度が高いとあって、魔族や獣人、それにアンテッドまで選ベルらしい。

 「レムリア」の統括電脳さんは町で暮らせるようなことを言っていたから、人間もしくは人間に近い獣人族ということになるんだろう。エルフやドワーフ族という選択肢もあるけど、ここは友人達と一緒に選んだ選択で良いんじゃないかな。


『ネコ族ってありましたよね?』

『ええ、ありますよ。それに、任務にも丁度良いと思います』


 家のネコのモモちゃんは普段は寝ているばかりだけど、たまにスズメを取って来るんだよね。

「こんなのを獲ったけどあげないからね?」という目をして、私に何度も見せてくれた。


『こんな感じですよ。顔も似た感じになりますが、変更する部分はありますか?』


 8頭身のスレンダーな姿だ。茶髪だけど、これはモモちゃんに合わせて銀に変える。ついでに尻尾と耳の先を黒にしておいた。モモちゃんのチャームポイントだから、これは譲れない。

 鼻を少し高くして、胸を盛ってもらう。私のコンプレックスはこれでなくなったぞ。


『これが第一形態です。普段はこの姿になりますが、PKK時に能力が不足ということであれば、第二形態に変化します』


 思わず目が見開いた感じだ。自分の体が無いんだけどね。

 全体に銀色の毛で覆われている。モモちゃんが人間になったらこんな感じなのかな?

 顔もネコになっているから少し口先が出て、頬に数本の長い毛が生えていた。

 これは少し変えて貰おう。女の子にヒゲはいらないもの。


『全ての能力が職業階梯の最大値に達します。リオンにはネコ族の上位種族であり、レア種族でもあるケットシーになって頂きますから、形態変化を行うことができますよ』

『ゲームバランスを崩しませんか?』


『リオンがゲームを進めるのであれば、荒れるでしょうね。でも、リオンは平穏な暮らしを望んでいるのでしょう?』

『そうですけど、友人達の手伝いぐらいはしてあげたいなぁ……、なんて考えていましたから』


 町から離れられないのも嫌だよね。「レムリア」の世界は地球を1つ丸ごと入れることができるほどだと聞いたことがある。観光旅行ぐらいはしたいと思っていたんだけど。


『第一形態での能力値を2つ持てば良いでしょう。頼りになる存在として暮らすことも必要です。とはいっても、新たなプレイヤーが最初に訪れる町に拠点を設けて頂ければありがたいですね。フリーの冒険者として登録しておけば、他の町にも出掛けられますよ』


 観光旅行ができるってことだよね。

 それなら、早く暮らしたいな。

 私のうきうきした気分を察してくれたのかもしれない。突然私は体を持つことになってしまった。

 自分の両手を見つめて、次に足先から視線を少しずつ上げると自分の胸元で止まってしまった。

 少し盛りすぎたかな? ちゃんと足元が見えるのか考えてしまう。

 ちょっとゴワゴワした綿の上下に、バックスキンの長めのベストを着ている。前綴じで長めだからワンピースに見えなくもない。幅広のベルトを腰に巻いているけど、この位置だから、足は長いんだろうな。

 足には半ブーツを履いてるし、素足でなくソックスを履いている感触がある。

 これで暮らせるなら、結構楽しいかも!



ゲームは大好きですけどオンラインは全く経験がありません。他の皆さんの投稿作品を参考にしながら書いてますから、トンチンカンなところがあると思いますい。その辺りは、大目に見てください。

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