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聖女はささやかな反撃を試みる

評価点数を付けて下さった方、ブクマして下さってる方々、チラ見でもがっつりでも読んでいただいてる方、皆様ありがとうございます。次話で完結予定です!

誤字脱字は後に修正予定です。

「ツキナ」

「いつ呼び捨てにしていいと言いました?てか、近付かないで下さい」

「…衛兵を呼びたければそうすればいい。君の自由だ」

 ーーそして襲われたって騒げとでも?

 ーーー何が自由だ。

「この間言った事、私は本気だ。魔王が復活した今、考えろと言っても無理だろうがーーすぐでなくていい、考えてみてはくれないだろうか。私と一緒に生きる事を」

「そんなセリフ、軽々しく言うと後悔するわよ?」これから私が何をしようとしているか、わかって言ってるのならーー見直すとこなんだけど。想像もしてないでしょ?

 もうーー笑っていいのか罵倒するべきなのかわからなくなっちゃうじゃない。

 出来るワケない。

 一緒に死ぬ、とかなら

 出来るかもしれないけどね?


 さあ、とっとと始めよう。


 私は広間に召喚に関わった人間を集めさせ、

 魔王を封印するにあたってひとつの条件を出した。


「ーー異世界から聖女を召喚する為の資料の全破棄を」

 居並ぶ面々は見事に全員蒼白になった。


「し、しかし、それはーー!」

 神官長始め主だった連中が喚き始める。

 私は関知しない。

「この事についてあなた方の許可はいりません。あなた達が私をこの世界に喚ぶのに私に許可を取らなかったように」

 聖女なんて祭りあげて、関係ない人間を巻き込んで。自分達は安穏とかまえるだけなんて、許されるとでも?



 私は知ってる、前にこの世界に喚ばれた聖女がどんなに孤独に泣いてたか。

 他の候補の無事と引き換えにこちらに一人残されどれだけ不安だったか。

「ここにある魔方陣も、さらに他国の神殿にある魔方陣及びそれに関する資料。何一つ残す事は許しません」

 記録になくても、今のこの世界の誰の記憶にすら残っていなくても。私は知ってる。

 覚えている。

 あの本に綴られた文字からの励ましに私がどれだけ助けられたか。

 だから、今度は私が助ける。

「あの魔方陣は聖女をこちらに残す為の脅迫の意味を込めた召喚術。この世にあってはいけないものです」

 もう召喚なぞさせない。

「破棄しない限り、私は一切の”聖女”としての義務を放棄します」

 私で終わりにしてもらう。


「期限は一週間。それ以上は待ちません」

「出来なかったら、どうなさるおつもりで?」

 神官長の目が嫌な感じに光る。

「私自身が破棄して廻ります。その間、魔王はおろか魔物の討伐も一切致しません」

「そ、そんな…!」

「力ずくで止めたくばそれも結構。ただしーー」

 パキッ…!

 私は足元の魔方陣を粉々に砕く。もう修復は不可能だろう。

「ひっ…!」

「その際、どんな人的被害をこうむっても私は関知致しません。あの魔王は片端から周辺の魔物を喰らって大きくなる吸収型。日が経つにつれ強大になり私にも封印は不可能となるでしょう。共倒れしたくばどうぞご勝手に」

「…仰せのままに。聖女様」

 第一王子が読めない瞳で言った。クレイルは距離を保った場所に立ったまま、特に何も発する事はなかった。



 一週間後、私は再び彼らと対峙していた。

「全ての神殿にて破棄を終了致しました」

 神官長が幾分禿げ上がった頭を下げる。

「そう。じゃあ確かめましょうか」

 私はにっこり笑った。

「マップ!聖女に関する資料及び魔方陣のある場所を点滅!」

「なーーーっ?!」

「あら、結構ありますね?」

 私は面白そうに言った。

 敵(目の前の皆様方はここから敵と認定)は驚愕の表情で固まったまま。

 まさか本当に確かめないとでも思ってたんだろうか。

 マップには、10か所以上の点滅が示されている。いっっくら私の見た目が小娘でも、甘く見過ぎじゃ??

「聖女様。マップの魔法にはそんな機能はない筈では?」

 第一王子だけいやに落ち着いている。

「あなた方の使う魔法の場合は、でしょう?私の使う魔法コレに制限なんてありませんわよ。それに、例えばここ」

 私は真ん中の一点を指す。一番大きな神殿だ。

「ここには随分大きな魔方陣がありましたわよね?広間と、ーーあと地下に同じものがもう一つ」

「…確かめてこられたのか」

「もちろん。私が一週間の間ただ待ってると思いました?コレに示された場所は全部まわらせていただきましたわ。”聖女”の名声って凄いんですね?全然知りませんでした。皆さんとっても親切で、一言お願いするだけで色々見せてくれましたわ。資料も魔方陣も」

 まあ、あそこまで神聖視されてるとは思わなくてマジで引いたのは内緒だ。

 女神とか天使とか誰だよそれは穴があったら入りたいわ。みたいな感じに苦心しましたよ苦行でしたよ?

「………」敵は黙り込む。

 当然だ。こいつらが大人しく破棄なぞする訳がない。一週間部屋に篭ってる振りをして転移しまくったのだ。マップ同様、私の転移魔法には制限がない。城の防御魔法にも引っかからない。私の魔力ちからの方が上だからだ。


 ーーその結果が、お粗末というか予測以下というか。

 魔方陣には目眩しの魔法をかけただけ、資料は高官しか知らない場所に隠すだけ、破棄したのはもう召喚する力を発揮出来ない程廃れた神殿や小さな神殿いくつかのみ。


 いくらなんでも舐めすぎだ。


 私は真ん中の点滅を指したまま

「盟約不履行により、発動」

 と唱えた。

 真ん中の点滅が一度だけ大きく光って、消えた。

「い、今のは、まさかーー」

 もちろん。

「ーーあの神殿が吹っ飛んだの。中の魔方陣も書類も粉々ね?」

 ーー隠すなら容れ物ごと壊してしまえばいい。そう思ったから。

 因みに他の神殿も、各神殿の者たちにちょうど今日この時間に聖女召喚に関する資料を全部焼き捨て魔方陣を破壊するよう片っ端から暗示をかけた。

 マップから点滅が次々に消えていく。

 破壊する神殿には魔物が来るから避難する様に、とは言っといたものの全破壊はさすがに気が引けたからだ。

「さて、片付いた様ですね。後はこの城に隠されてる分ですが。ーー破壊されたくなかったら出してもらえます?」

 何人かが泡を吹いて倒れた。

 が、容赦するつもりはない。

「早くしてくれないとーー壊れちゃいますよ?」

 この城も、私も。


 漸く目の前に差し出された資料を焼いて現在地の点滅が消えると

「さて、破棄は無事終わりましたがあなたがたは私を騙そうとしましたね?隠しただけで破棄したと偽り聖女の私をたばかった」

「……この世界を見捨てると仰るか」

「勘違いしないで下さい。私はこの世界の滅亡など望んでおりませんーー生きたいなら、滅びたくないのなら、自分達で何とかするべきだと言ってるのです。異世界の他人を巻き込むのでなく。それが出来ないならこの世界はそれまでだということ。神がそうお決めになった事だと諦めるなり抗うなり己の力で好きにすればいいーーーもっとも私は無神論者ですが」

 昔から神頼みって好きじゃないんだよね。

「ーーもう力を貸すつもりはないと?」

「いいえ?魔王は封印します。それが終わったら私は消えます。残った魔物は自分達で何とかして下さい。魔王が吸収してまわったので数は減ってるでしょうしーー貴方はご存知なのではありませんか?第一王子」

 聖女が短命な理由を。

 王子は答えない。ただ、

「…助力に感謝致します。聖女様」

 と頭を下げた。



 魔王がいる場所には、クレイルだけが同行した。気配で場所がわかるので、迷う事なく地下迷路を進む。

「…消えるとはどういう意味だ」

「そのまんまだけど?」

 色々な意味で。

「…っ…」

 クレイルの気配が怒気をはらむ。茶化してると思われても、事実だから仕方ない。

 怒鳴られる前に切り込んだ。

「ねぇ、聖女は、どうして聖女たり得るのか、貴方は知っている?」


 聖女はね、歴代聖女の戦ってきた記録と魔力を受け継ぐの。

 本人の意思とは関係なしに。

 そしてその魔力は器とした人間の生命力を使って行使される。

 歴代の聖女が何年生きたか、先代の聖女がどうやって命を落としたのか。あなたは知ってる?知らないーーいえ、考えた事もないでしょう?あなた達は自分達に都合のいい記録しか残さないーーそうして一人の命と引き換えにこの世界を維持してきた。まだききたい?


  ”まだききたい?”



 それは、かつて俺が彼女に言った言葉だ。何だ?何を言っている?彼女が使う魔力は彼女自身の生命力? だとしたらーーー

「嘘だ!!」


「別に信じなくてもいいよ?」

 どうせもう手遅れだから。

「消えるって言うのはそういう意味。魔王を封印するだけでこの体はもう現界。その後生きる生命力なんてーー」残るワケないよね?

「やめてくれ!!!」

 この男のこんな切羽詰まった叫びは初めてきいた。私は薄く笑う。我ながら歪んでる。

 直情バカのくせに策士で、綺麗な顔して力ずくで想いを遂げて、尚高潔な騎士であり続けるあなたが

  ーーー本当に、

  ーーむかつく。


 だから、これは私からの最後の嫌がらせ。


「ねぇ?かつてあなたは他の候補と私自身を天秤にかけさせた。あなたは私が好きだと言った。あなたにとって、この世界と私、どっちが大事?大事な方を残してあげる」

 私はクレイルに手をのばした。

 結果はわかっていたけれど。

 彼は腕どころか視線さえ固まったまま動かない。


 ーー彼女がこちらに手を伸ばした。

 その手を取る事が出来ない。

 俺が動けないでいると。


「答えはきくまでもなかったわね?」

 遺体の回収は必要ないわ、どうせ何も残らないから。

 そう微笑んで。彼女は扉の中に消えた。





本編に入れる事が出来ませんでしたがツキナは世話になった城の人達に全く感謝してないワケではないです。一宿一飯の恩義じゃないけど感謝はしてる=だから魔物討伐はする=こんだけ倒せばもういいよね?って感じです。

クレイルも普段は堅物です。

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