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勢いが止まらないうちに書いてます。

細かい事気にせず読んで下さい(笑)

 メイド達によると、カンナ嬢はツキナ嬢に懐き、一緒に本を読んだり城を散策したり、最近では子守唄をせがんで泊まって行ったりまでするようになったそうだ。

 ツキナ嬢は子供の扱いが上手いらしい。

 カンナ嬢もツキナ嬢といる様になってからはヒステリーを起こす事もなく、元の世界を恋しがって不安になるとツキナ嬢とあちらに戻ったらあちこち一緒にいきましょう、と楽しそうに話す事で落ち着くようだ。


 あちらの世界の歌も効果絶大だそうだ。

 カンナ嬢のリクエストに答えてツキナ嬢が色々歌ってるときいて少し興味が湧いたが絶対に人払いしてからしか歌わないときいた。

「恥ずかしいからと言っておられましたがとても上手なんですよ」

「綺麗な歌声でしたよね」

 なんで知ってるんだ?

「こっそり聴いたんです」

「でも、ツキナ様は鋭くて、すぐに気付いて止めてしまわれるんですよね」

 残念そうに話すメイド達の様子を微笑ましく思う。ツキナ嬢は良い主人なのだろう、最近はツキナを慕うメイドも増えカンナも一緒の事が多い為そちらのメイドも一緒になって二人の世話をやいている。この宮でこの辺りだけがギスギスしていない。二人の望みが叶えばいいと思った。



 候補の中でハルカという娘に僅かだが魔法が発動した。カリンと年は同じくらいだが地味で目立たず、部屋からほとんど出ない娘だっだ。城中が一気に色めきたった。



 ーーここにきたばっかの時と大して変わらない光景だな。ハルカに魔力が発動した祝賀パーティー。違うのは中心の人の輪がカリンでなくハルカを囲んでいる事。

 周りに僅かながら取り巻きを残すカリンはくやしそうだがハルカもカリンには色々据えかねていたのだろう、自信に満ち溢れ、周りと私は違うのよ感が半端ない。

 まあ、わかるけどね。

 自分が特別な存在だと言ってもらえるのは嬉しい。

 この城には王子様もいる事だし?

 因みに第一王子は中立、第二王子はハルカの横に立ち、熱心に持ち上げている。ハルカは頬を染めているがあいつカリン時もああだったよね?いいのかハルカ。因みに第三王子はカリンの横に残ってる。

 この国の王子様達は全員金髪碧眼で美形だ。違うのは年齢と髪の長さくらい。上から23短髪、21長髪、17セミロング、うん眺めるだけなら眼福。別に会話したいとか思わないけど。

 私は相変わらずモブAを楽しんでいる。違いといえば横にスイーツ山盛りの皿をかかえたカンナちゃんがいる事ぐらいだ。

「凄い光景ですわねぇ…」

「ーー全くね」

 ーーわかりやすすぎて、引く。カリンの存在が鼻についてた方がほとんどなので皆意趣返しのつもりなのだろう、ひたすらカリンを無視してハルカを持ち上げている。かわいそうにカリン達御一行様は隅へ追いやられ気味だ。

 まあ、あれだけ「いずれ聖女の力を顕現してこの世界を救ってみせますわ!!」

 とか大言壮語はいときながら何の成果もないカリンと念じると目の前の水の入ったコップを持ち上げる程度の魔力が顕現したハルカでは現状ハルカの方が有利なのか。

 その程度では聖女かどうか測れない軽微な魔力でも。


 因みにこの某少年漫画の水見式みたいな魔力調査は必須授業内にあるので私達もやっている。もちろん変化ないけど。

「これで私達帰れるのかしら?」

「だと良いね。ディ◯ニーランドこっちにないしねぇ」

 そう、私とカンナちゃんは色々な約束をした。向こうに戻ったらどこそこに買い物行こうとか誰それのライブに行こう、話題のVRマシン、カンナちゃんは中学生にならないと体感出来ないから後何年ちょっとだねとか。じゃあ何月何日どこそこで待ち合わせしましょうとか。

 楽しみな約束をいっぱいしたのだ。あちらに戻る時記憶は消されてしまうかもしれないけど、無事に戻れる保証もないけれどーー必要だったのだ、私達には。そういう希望が。

 だから早くレベルアップしてちゃちゃっと魔物退治してきてくれ、ハルカさん。

 私は心からそう思った。

 私はもう30年以上生きてるから良いけど、カンナちゃんはまだ小学生なんだからさ?



 ハルカ嬢の魔力は一向に向上しなかった。本人も努力しているし、教える魔法使いも必死だったがーー最初の魔力の顕現から2カ月、城内に諦めムードが漂い始めた。カリンがまた調子に乗り出した。お前、何の能力もないだろ…

 魔物がいない範囲は確実に狭まり、混乱は徐々に広まっているのに。いくらこの王城周辺からはまだ遠いとはいえ呑気すぎないか。



「君はどう思う?」

 茶葉を携えて来てはお茶をご馳走になる、が日課になっている俺は候補の中でも一番落ち着いている(と思われる)ツキナ嬢に尋ねてみる。

 他の候補(カリンを除く)はいつ帰れるのかと鬱々した状態になっている中、彼女だけは相変わらず最近特に情緒不安定なカンナ嬢を毎晩優しく抱きしめて寝つかせているという。


「質問の意図がわかりませんわ、クレイル様」

「聖女の魔力の顕現には何が足りないのだろいか?」

「私達のいた世界には元々魔法がありませんのよ?クレイル様」

「わかっている、君に色々教えてもらったからな。だが、聖女は君達の中に必ずいる筈で、魔法を知らない者でもこちらの魔法使いに教わる事でその才を顕現する者がいるのはハルカ嬢の件でもわかる。聖女の魔力の顕現を促すには教える以外に何をすれば良いのか…」

「つまりクレイル様はハルカ様を聖女だとは思ってらっしゃらない?」

「!いや、そんなつもりでは…、だが…そうか違うかの感覚だけで言えば違うのではないか、単にハルカ嬢は魔法の才があっただけなのではないかという気はしている」

「あんまりな言い様ですわね。ハルカ様は頑張っていらっしゃるのに」

「ハルカ嬢を貶めるつもりではない!」

「わかってますわ。クレイル様を含め周りの者は誰もそんな風に責めたりなさらない事は。ですが空気は伝わる。ハルカ様はそれに押し潰されそうになっているしこの宮全体にも影響が出ています。今やれる事は空気の入れ替えでは?」

「?どういう事だ?」

「毎回ハルカ様の稽古の経過を確認してはカリン様が嫌味を言い、周りはそれに眉を顰める、がこの宮の日課になっていますでしょう?ハルカ様とカリン様の生活圏を完全に切り離す事です。そしてハルカ様の事をカリン様に教える様な者はハルカ様のそばから一斉に排除。この宮に住んでいなければ魔力は顕現しないなんて禁止事項はないのでしょう?」

「!そうか!なるほど…それならハルカ嬢も重圧から解放されるな」

「はい。周りの目があるからハルカ様は自分を追い詰めてしまうしカリン様は逆に集めようとなさるのですわ。どちらも人目から離した場所にお部屋ごと移されては?」

「確かに、そうだな…この城は広いし離れた宮同士に移ってしまえば互いの様子を窺う事も出来なくなるという事か…」

「その様子を目の当たりにしてストレスを感じる人も減りますわ」

 苦笑して告げると、礼を言って去って行った。

 実際、毎日アレだと宮の空気が悪いのよ。

 カンナちゃんも限界近いし。

 ーーそれは何処も同じか。とっととレベルアップして下さいなハルカ様。



 季節が冬になり、カンナちゃんが風邪をひいた。城の中とはいえ冷暖房完備が当たり前の現代人にはきつい。私はカンナちゃんに付き添っていた。

「お姉さま…私、帰れる?」

「帰れるわよ。一緒に帰って遊ぶ約束いっぱいしたでしょ?戻ったらハロウィンよきっと」

「ハロウィン、ランドにコスプレして行きたいな…」

「約束したでしょ?後でやっぱりママと行くとか言わないでよ?」

「ママはコスプレ嫌いだもん」

「そうなの?楽しいのに」

「うん…」

 苦しそうだ。私は握る手に力を込める。

「歌…うたって」

「いいよ。じゃ、カンナと雪の女王ね?」

 私は歌った。いつもよりドアの外に野次馬が多い事に不覚にも気付かなかった。



 ーー本当に上手というか、綺麗に響く声だ。春を告げる様な。生きる活力が湧いてくるような。それにいつもは引っ詰めている長い髪をおろした姿も新鮮だった。

 カンナ嬢の見舞いにきたつもりがメイド達に止められてうっかり盗み聴きの仲間入りをしてしまった。

 だが聴けて良かった。最近はこの宮でもヒステリーか一体いつ帰してくれるのかと涙ながらの訴えばかりが響きこちらまで鬱になりそうだったのだ。

 ツキナ嬢は自分と同じか少し下くらいにしかみえないがこの先の見えない状況で良くああ落ち着いていられるものだ。

 ……そういえば取り乱す姿を見た事がない気がする。

 いや俺はたまに来るだけだから見た事がないだけだろう。

 側仕えのメイド達に訊くと

「ああ!ありますよーお菓子作ってる時に分量間違えて悲鳴あげて大慌てなさったりとか!」

 それを聞いてちょっとホッとした。

 ーー何故ホッとしたのか。それが疑問の始まりだった。


 この国の冬は長い。四季はあるが夏が短くて冬が長いのだ。聖女の顕現がなければこの冬を越せないかもしれない。候補召喚は夏だったのに、未だ聖女は不明のままだ。

 小さな疑問でも、調べずにはいられなかった。どちらにしろ冬が終わる前に魔物が王都に迫ってくれば彼女達を守りきれるかわからない。それでは帰してやることも出来ないではないか。





 ーー冬の終わりが近づいた頃。

 俺は城の地下にいた。気配を殺して待つ。


 微かに衣擦れの音が聞こえ、音の主が現れた。


 ーーやはり。

「君だったんだね?ツキナ」

 床の魔方陣に向かって手を翳していた人影が固まる。

「何か御用ですかクレイル様」

 声音はいつもと変わらない。

「その結界に何をしようとしていた?」

「何も。珍しいので良く見ようとしてただけです。」

「こんな夜中に、人目を避けてこんな地下深くに?」

「夜に城内を歩きまわってはいけないなんて決まりはなかったと思いますけど?」

「ここへの入り口は隠されていた筈だ。ただ歩いててみつけられる場所じゃない」

「秘密の通路でしょう?私、この城のそういった通路片っ端から探してたんです。初めてここに来た時から」

「何故だ?」

「面白そうだったから。こういうお城、私達の国にはないけど、遺跡にはあるんですよ?そしてこういうお城には有事の際逃げる為の隠し通路が必ずあるっていうのは誰でも知ってますし探検ツアーが組まれるくらい人気ですから…昼と夜では同じ物でも違って見えますし」

 そんなものがあるのか。そしてこの状況でもいつもの調子が崩れない。こうなる事も想定済みか。

「ここの入り口は力ある魔導師しか通れない。偶然見る事ももちろん不可能ーーだが君はあっさり通過してきた」

「このブレスのおかげですかね?」

「そのブレスを付けても結界の入り口は見えない。だがそのブレスを付けた者が通った道筋は辿れる。君ならわかるだろう、そのブレスを通して自分達の行動が追跡トレースされていたと。だからこそ昼間も城内を散策する振りをしていた。カンナ嬢が部屋にくるようになってからは1人で動きまわれる時間が減った。君のここ1ヶ月の動きを見てわかったよ。君が結界に近付いたのは夜中ばかりだったーー今夜みたいにね」

「何かおかしいですか?昼でも夜でもやってる事は一緒でしょう」

「言葉遊びは終わりだ、ツキナ嬢。ーーいや、聖女様?」

「違います」

 直ぐに切り返してきたが声音にいつもの余裕がなくなりつつある。ーーやはり。

「何故聖女である事を隠す?ーー愚問だな。君はあちらに戻りたがっていた、聖女だと知れれば戻れなくなる」

「勝手に確定して進めるのやめてもらえます?魔力が多少あった所で聖女とは限「限るね。聖女でないならハルカのように魔力を見せれば良かった。何故何の魔力もないように装った?使えば強力な魔法使いだとバレるからだ。さらにいえば魔力を測る儀式の間魔法に関して何の知識もない筈の君が何で完全に魔力を抑え隠し通す事が出来た?自分で自分の力を知っていてコントロールする術まで知っていたからだ!」

 そうだ。始まりは小さな疑問だった。何故彼女はこんなにも落ち着いているのか。

 最初メイド達に話を聞いた時は微笑ましく思うだけだったがーー

 何かおかしい。

 召喚された聖女候補達との違い。

 初め、彼女達は戸惑いつつも自分が聖女かも知れない、と聞かされ頬を紅潮させたり責任の重さに青くなったり。ーーこの時彼女は顔色一つ変えず無表情だった、何故だ。


  パーティーの時も出来るだけ目立たぬよう地味な服を着て、壁にはりついて誰とも話さない。他の候補達は知り合いもいない場でブレスをつけた者で年齢の近い相手と遠慮がちに会話をしていた、カリン以外は。

 ツキナはそんな様を無感動に見つめていたのだ。カンナが懐く前は、いつも1人で。何故だ?


  皆、最初こそ好奇心と物珍らしさから明るかったが日を追うごとに慣れない生活にストレスを感じ始め、周りに当たり散らしたり我が儘になったりしたが、彼女にはそれが一切なかった。どころか周りを気遣う余裕さえあった。何故?


  カンナの時もハルカの時も、騒ぎには一切加わらず静観して分析する冷静さ。

  慣れない城を歩きまわり夜中に地下まで平然と降りてゆく豪胆さ。それは自分で自分を守れるだけの実力があると、わかっていたからではないのか?

  「君は目立たないようにとあらゆる努力をしてたみたいだけどーー失敗だったね。目立ちたくなかったのなら、他の候補のようにヒステリーの一つも起こすべきだった。君はどの場面でも冷静すぎたんだよ…後は魔術教師の話をきいて確信した。普通、魔力を測る時自分が聖女かもしれないって期待が僅かに目に見えるものなのに、君には全くそれがなかったってーー最初から。まだききたい?」

 彼女は答えない。

「あれは毎日実施されるものだから回を追うごとにその期待値は下がるけど、最初から全くないのも”異常”なんだよ。さらにいえば魔法使いに憧れて必死の努力をして臨む子だっていた。ーーハルカなんかはその典型だよね。カリンもだけど。でも君は違った。授業は真剣に聞くし理解もしてる。なのにあの測定授業だけは冷めた表情で何の努力もしてない様に見受けられた。先生はまあ自分が聖女ではないと確信してしまってるからかもしれない、なんて言ってたけど俺は逆だと思った。確信出来るって事は誰が聖女か知ってるって事じゃないか、それはつまり」

「いい加減にして下さい!!」

 初めて聞いた、切羽詰まった怒鳴り声。

「この城は魔物の浸入を防ぐ為にあらゆる防護結界が貼ってある。魔物討伐に駆り出されて城に常駐する魔法使いが減った。このままでは城の防護結界は弱っていく一方で、いずれは壊れる。君はそれを見越していた。ーーだから片っ端から強化して廻ってたんだろう?この城の中にいる者達が傷つかないように。ここが最後だった。ここの強化が終わればまだ暫くは持ち堪えられる。ーーそんな事で逃れられると思った?」自分の立場から。

 そんな風に影から守るくらいなら、最初からやれば良かったのだ。被害だってもっと少なくて済んだ筈だ。そう思うとつい強い口調になる。あんなに俺の相談に乗ってくれて的確なアドバイスをくれた君が、この城の者たちに誰より暖かく接していた君が、この世界の終焉を望むのか?

「私は知りません、そんな事」

 ーーまだ落ちないか。

 どうすれば、この世界を救ってくれる?聖女どの。







第一印象で脳筋かと思ってたら意外と策略家だった件。


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