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とにかく、関わらないようにして異動願いを出して、いざとなれば転職や引っ越しの心積もりも必要かもしれない。
そんな思いもむなしく、数日後の昼休み「咲坂さん、面会人」と同僚に呼ばれて
「?」
仕事中に面会人?
思いながら行ってみるとそこにいたのは。
「やあ!ちょっと近くまで来たんで寄ってみたんだけど、所内の案内を頼める?君の上司の許可は取ってあるから」
ごく普通に親しげに声をかけてきたのは。クレイルとウィリアム・シジョウだった。
「………」
固まる私に「あれ?ミス・ユキノ?大丈夫?」とウィリアムが目の前で手をひらひらさせる。
いや、大丈夫?じゃなくて。
何故アンタら2人がここにいるー…のは100歩譲ってわかるとして何故私を呼び出す?
「…所内の案内なら専任の係の者がいる筈ですが」
かろうじて仕事モードに戻った私が言うと「いや、この所内で知り合い君だけだし」
一度書類届けただけでしょーがっ!
長い付き合いみたいな言い方やめろ!
「私が連絡係なのは機密事項なのでは?」
「あの事件に関してだけはね。今の僕達は勤務上各役所を回っていて今日はここ。何かあった時の為に避難経路の把握も勤務のうち。もちろん本来の役職は秘密で単なる別の省庁からの視察扱いだけど、何も知らない人よりは君の方が適任。てことで」
「…案内したがってる人は、いっぱいいると思いますけど」
さっきから周りの視線が痛い。
長身の美形2人は目立つ。
一緒にいたくはないが、ここで押し問答はもっと目立つ。それは遠慮したい。
「えぇーそんなに嫌?僕達の案内するの」
「ーーおい。迷惑をかけるな」
「何言ってんの。君の為だよ?」
「「?」」
どういう意味だ?
「君にとって彼女が1番安全て意味。だって君きゃぴきゃぴ寄ってくる女性捌くの下手だろう」
「っ!大きなお世話だ!だからってー…」
「迷惑かけたお詫びはちゃんとするって。て事でお昼一緒にどお?もうすぐお昼休みだし奢るからさ」
「結構です。私は持って来てるので。お昼休みは全員一緒に取れるわけではないのでお気遣いなく。ではいきましょうか」
私はにっこり笑って歩きだした。
とっとと見学を済ませて帰ってもらおう、うん。
ーーで、その後異動願い出して帰ろう。
「ー避難経路は以上ですが、レベル3以上の非常時には更に二箇所が解放されます」
「ミス・ユキノはいつもお弁当持ち?」
「持って来たり来なかったりです」
「へえ。それって手作りとか?」
「まさか。その辺で買ってくるだけです」
実際は社食利用が1番多いし、今日だって朝食を食べ損ねたので余裕があったら食べようと買ってきたものの結局食べ損ねてたパンがあるくらいだがそんな事を言う必要はない。
こんなのと社食で悪目立ちは御免被る。だいたいさっきからこんな質問ばっかだがちゃんと仕事してるんだろうかこの人たち?
まあ、知った事ではないが。
そんな私の考えを見透かしたかのように
「どぉ?クレイル」
「覚えた。問題ない。強いて言えば緊急時の解放条件がごく一部の人間のセキュリティコードでしか開かない事だが」
「だねぇ。その一部の人間が必ずいるとは限らないしいても動けない話せない状態の場合の想定はしてるかなあ?懸念事項としてあげとこう」
ーーちゃんと聴いていたらしい。
「さて、案内ありがとう。ついでにお昼食べてきたいんだけど社食に案内してもらえる?」
「はい。こちらです」
漸く解放されそうなので速やかに社食に案内すると
「おススメはある?」
「日替わりが1番人気ですね。値段の割に味も美味しいですし」
至って事務的に答えると
「では 私はこれで」
と頭を下げてその場を辞した。
「…手強いなあ」と苦笑されたのには気付かなかった。
念のため、カンナちゃんにも「もし私と知り合いか 訊いてくる人がいたら知らないと答えておいてほしい」と伝えておいた。暫く会えないとも。
ーー今は危険な気がする。クレイルの気配が近すぎる。今気付いていなくても、私とカンナちゃんが一緒にいるのを見れば奴には一発で気付かれてしまうだろう。
ーそうして、私が異動願いを出して数日後、また新たに惨殺死体が発見された。この区役所管内での事件だった。




