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お花見、そして予兆

ページを開いて下さってありがとうございます。連載再開しました。後日ちまちま直していけると良いなと思いますm(_ _)m

 

「うわーっ!ほんとに満開です!凄いですねお姉様‼︎」こちらも素晴らしく満開の笑顔でカンナちゃんが言う。


 桜の開花前線と共にひな祭りに続いて

「おねーさま!お花見しましょう!」

 と”妹”からのおねだり。既に確定行事感が半端ないが基本必要な買い物以外は出不精の私には丁度いいかもしれない。


「ーーほんとに。凄いね」

 目の前の光景に素直に感動する。桜の花は昔からとても好きだ。この季節にわんさか出る桜モチーフのグッズや限定モノもこまめにチェックしてしまう。満開の桜が連なる下を見上げながら歩くのはとても好きだったが、いわゆるシートを引いてやるお花見、はあまりやった事がない。

 人混みじゃないとこから眺めるのが好きだったからーまあ、友達とやったのは楽しかったしカンナちゃんと一緒ならーーこんな有名なお花見どころもーーまあいいかな?と思う。

 まさかまたお花見ができるとは思わなかった。

 ーあの世界に桜はなかったから。


「気持ちいいですねぇ」

「ほんと。天気もこんなに良いって嘘みたい」

 桜は散るのが早い。しかも満開直後に強風大雨とかも珍しくない。満開の桜でこんな天気って、奇跡だと思う。

 ーーほんとにちっちゃな奇跡でも。積み上げて幸福な記憶になればいい。


「あっ!おねーさま!これおススメです!有名店の限定品なんですよ〜」

 言いながらカンナちゃんが茶巾寿司を勧めてくる。

「わっ綺麗…!」

 さすがお嬢様カンナ様、用意してきたお弁当があちこちの有名店からお取り寄せした品々ばかりである。しかも二人分とは思えない量…うん、気を使われてるなコレは。


 今回はカンナちゃんがお弁当を、デザートと飲み物を私が持ち寄る事になっていた。

 お弁当も作ろうかと思ってたのだがカンナちゃんのお母様曰く

「いつもお世話になってるので」

 カンナに持たせるので残りは良かったらお持ち帰り下さい、との事だった。

 残りーーていうか、明らかに未開封のまま持ってって下さいね的な包みが普通に混ざってるし。私が休みをほとんどカンナちゃんに費やしてると気を使われているらしい。

 元々大した予定はないので構わないのだがーー好きでやってるんだしね?

 私はデザートとして今回桜のシフォンケーキなるものに挑戦してみた。まあ、桜は元々味がするものでもないので風味+見た目だけではあるが自分ではなかなかの出来だと思う。

「わっ!凄い綺麗で美味しそうですおねーさま!」

 見た目はまず合格らしい。

 一口食べて

「口当たりふわっふわで美味しいです〜余ったら、持って帰って良いですか?」

 苦労したさくらホイップは気に入ってもらえたらしい。

「勿論。ホールで焼いたから持って行ってくれたらむしろありがたい」

 良かった。気に入ってもらえて何より。豪勢なお取り寄せ弁当には及ばないがささやかなお礼になればいい。

 私達がする会話は大体いつも一緒だ。

 趣味の話、互いの愚痴、そして次の予定。

 桜の下、次の予定だけでなく浮かれて

「今年はハロウィン、一緒に行けますよね?何のコスプレにしましょう?」

「んーカンナちゃんはアナかジャスミンがやりたいんだっけ?」

「若しくはティンカーベルですね」

 見た目的にはティンカーベルが似合いそうだけど露出高いな…いややりようがなくはないけど。去年は無理だったけど、今年はきっちり衣装準備して完コスしましょう、近くのホテルでお泊まりしちゃいましょう、いっそハロウィンイベント制覇しましょうな勢いの私達である。



 ーーそんな穏やかな昼下がり、お花見会場と化した場の一角に不似合いな悲鳴があがる。

 ーーえ?

 ぞくっ… と身体に震えが走る。


 悲鳴が上がったのは比較的端の方で私達がいる場からは離れている。

 ーーが、騒めきが徐々に広がりやがて「血が…」という声が僅かに聞こえた。

 血…?

 聞こえたワードに眉を顰めると

「怪我人が出たの?」

「うぅん、ちょっと血?かどうかわかんないのが点々としてただけらしいよ。それ見たコが大袈裟に悲鳴あげちゃっただけみたい」

 そんな会話が聞こえるとなんだ、という雰囲気と人騒がせな、という非難めいた呟きが辺りを支配する。


 騒ぎにならないに越した事はないがーー嫌な感じが消えない。

 ーー恐怖は伝染するから。

「ーーカンナちゃん、ごめん今日はもうここを離れない?」

 予定ではあと1時間くらいはゆっくりするつもりだったがーー

「お姉さま?」

 騒ぎになってからでは、遅い。

「…もし、この後誰かが通報して騒ぎになったら、ここから離れるのに規制がかかっちゃうかもしれない。今のうちに離れちゃった方が、多分いいと思う」

 巻き込まれないうちに、離れた方がいい。

「そうですね、お姉さまがそうおっしゃるなら」

 ーー何故か、本能でそう思ったから。



 ーーそうして、彼女達がその場を離れて1時間ほど後、警察が到着し場は騒然となった。


 ーーーさらに警察が一通りの調べを終えて立ち去った後、立ち入り禁止になった場所に背の高い2人組が現れる。


「ここが現場か?」

「あぁ、酷い喰い荒らされかただったらしいよ?ーーヒトの仕業とは思えないくらいにね?」

 ーーまあ、だからこそこの2人が派遣されてきてる訳だが。

「やはりーー魔物か?」

 この世界には魔物という概念がない。

 人とそれとの境界は酷く曖昧だ。だがそれがここまで明確に人の近くに現れる事はほとんどない。


 だからこそ、人は認識しない。


 今までは、それで良かったのだ。


 実害さえなければ、それで。



 だがーー、


 ーー沢山の人の集まる場所で、すぐにみつけられるような一歩入った暗がりで、こんな殺し方は、まるで。



  ーーー戦線布告のような。


 もしやこの国ーーこの世界は、限界が近いのではないか。


 翌朝”有数の花見名所でバラバラ死体発見”という見出しを見て青褪める。

 うそ。

 あの場所で?()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それって、まさかーー



 聖女はもういない。

 ーー俺に、俺達に、どうにか出来る範囲で済めば良いが。


 ー考えすぎだ。バラバラ殺人なんて、今までだってあったし、どんなに凄惨な事件だって必ず()()がいる筈だ。


 魔物なんて、この世界にはいない。



ーーそんな私の思いを嘲笑うかのように、事件は続き、被害者の遺体は増え、ニュースやワイドショーを賑わせ続けた。


そして、私は1通の辞令書を受け取った。

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