バレンタイン
こちらだけ読んで下さってる方にはお久しぶりです!「謹賀新年」ニアミス編…?みたいのが意外と好評頂いたみたいなので…やってみました、バレンタイン編(笑)
2/15一部加筆修正、閑話とはいえ遊びすぎた感…
昨今のバレンタインは本来の意味を失いつつある。
と 言われて久しいがそもそも日本のバレンタインに本来の意味なんかない。単にお菓子会社の陰謀である。もっと言えば最早スイーツ博覧会だ。
が、私はこのバレンタインシーズンが好きである。
だって普段は見かけない珍しいかつ美味しいチョコが沢山あって時期さえハズさなければ(この場合売場が混みそうな土日祝日を避けるという意味で)ゆったりじっくり選び放題。煩い家族連れも鬱陶しいバカップルもいない女性のみの空間。
そう、「自分で自分にチョコ買うの?」と言われるのを何より恐れる男性陣の足は絶対この時期バレンタイン催事売場に近付かない。その想いたるや下手な魔術師の結界より効果あるんじゃなかろうか。
もちろん私に本命はいない。勤め先だって女性数名有志でまとめて大きな箱を「皆さんでどうぞ!」て置いて終わりである。純粋にチョコが好きな私は単に自分用と友チョコのみ。
更に言えばほとんど自分のお茶受けか非常食扱いなのだが、見ているだけでも楽しいので結構長々見入ってしまう。
そんな私は普段は誰宛てだろうと手作り、なんて面倒な事はしない。
だが今年は
「手作りして渡したいので教えて下さいおねーさま♡」
と言われてしまったのでバレンタイン直前の週末例によって妹宅にお邪魔する事になった。
今はデパ地下にその材料を買い求めに来たとこである。勤務帰りなので1人だ。
地下は食料品売場だけでなく、多くのスイーツ専門店も並ぶので大半はそっちに流れ手作りコーナーは意外と空いている。
メモした材料を順にカゴに入れていると近くにいる女性達の会話が耳に入る。
「…でね、いつも一緒にいるウィルさんによると、彼の理想のタイプって強いて言えば聖なる乙女って感じの子じゃないのかな?っていうのよ!難しくない⁉︎」
ーー難しい。
「あ〜…やっぱり清純派が好みか〜まあ、そうだよねぇ…いかにも守ってあげたーいって子が好きそうだもんねぇ…」
「そりゃーあの金髪だもん、隣には金髪美少女が似合うだろうけどさー、世界違いすぎない?」
「しかも、ただか弱いんじゃなくて志強く気高いタイプって…」
ーーそれ人間か?
「何それジャンヌダルク?ヴァルキリー?」
ーー激しく同意。
「じゃあ、やっぱ渡すのやめる?」
ーーそっからバレンタインの話につながるのか。てっきり仮想世界の話してんのかと思った。
「やめない!だってウィルさんによると甘い物はよく食べてるんだって。ケーキとか、クッキーとか」
「うっっわ意外!」
「でしょでしょ?で、ウィルさんによると1番好きなのは多分ーー」
ーーどんな乙女系男子だ。てか、”聖なる乙女”って時点で既に三次元じゃなくて二次元生物だろ。しかもスイーツ好きって。
「でも彼なら似合うーーっ薔薇の庭園でお茶とか想像すると似合いすぎるっ」
「花背負うのが似合いすぎるよねっ」
ーーほんとにそんな人間いるのか?職場にいるイケメンだけでここまで盛り上がれる彼女達に心底感心かつ若干呆れながらついつい心中でいらぬツッコミをいれてしまったがーーとっとと買い物を済ませて次の店に向かうべく、その場を離れてレジに向かった。
次の店で、カンナちゃん宅に持参する菓子と今夜の自分の夜食を兼ねたスイーツを選んでいると先程とは違うOLさんらしき二人組に声をかけられた。
ーーー
「よしっ!出来た!」
「こっちも出来ました!ラッピング完了ですおねーさま!」
「じゃ、お茶にしようか?」
「はいです!」
お茶受けには先程バレンタイン用に作ったクッキーの余りと買ってきたスナック菓子とが混在しているが既にやたら甘い匂いはお腹いっぱいなのでちょうどいいのだ。
「カンナちゃんは誰に渡すの?」
ラッピングしたのは結構な数だ。
「両親と塾の先生、あとは学校や塾のお友達です」
「クラスの男子とかにはあげないの?」
「クラスの男子の机の中に入れとこうってボランティアをやる女の子達に寄付はしましたわ」
「…ボランティア団体なんてあるの?」
「私が勝手にそう呼んでるだけですが」
すまして言うカンナちゃんになら何故手作り?ときくと
「日頃の感謝を伝えるには手作りの方が有効な気がしますので」
とかえってきて今時の小学生って、、と思いはするものの口には出さず
「本命は?」
「いませんわ。おねーさまこそ、誰かに手作りしないんですか?こんなにお上手なのに」
「うーん…覚えたの、自分の為だからねえ」
探してみると”紅茶味のお菓子”って意外と少ない。ケーキ、チョコ、クッキーくらい?更に言えばほとんどが”紅茶風味”であって”紅茶味”ではないのだ。
食べてみても、僅かに風味漂うだけで名前だけ感が強い。だったら自分で作ってみようってのは気紛れだった。
やってみたら、存外楽しかったのだ。作り方自体は良く知られたお菓子と変わらず、材料に紅茶を混ぜるだけだからそんなに難しくはない。
問題は入れる量だったのだがーー50g入れるのと100g入れるとこれだけ違う、ならその間は?とか記録しつつ1番の”自分好み”の量を見つけるまで延々作りまくった。手順を暗記してしまう程に。
まあ、途中「うわ、なんかコレ錬金術みたいなんとかのアトリエとか」って妙なテンションになったのは内緒だ。
それに、それ以降お菓子作りに嵌ったかというとそうでもない。私からすれば手作りとはーー材料の買い出しから後片付けまで正直時間も体力も余ってないと出来ないーー贅沢タイムである。故に一旦極めてしまった事で満足してしまった感もあり、作るのはほんとにごくごくたまーに に限られる。
紅茶味にこだわってる私だが他のスイーツが嫌いなわけではない。フルーツいっぱいタルトだってプリンやアップルパイの類だって好きである。ので、そちらをちょいちょいデパ地下などで漁り、紅茶味が食べたい時だけ自分で作る。
そんな感じで良くある紅茶のシフォンケーキをお店で買う事はなくなった私だが最近とあるデパ地下で自分の作る物に良く似た感じのシフォンケーキをみつけた。
試しに買ってみたら味も自分が作る物よりはやっぱり薄めだが一般的なシフォンケーキよりは濃く、隠し味に柑橘系の粉が混ぜてあるらしく香り高く仕上がっていて唸った。うぅむ、流石プロの技。以降、時々買っているのだがーーそういえばあのOLさん達、どうなったかな?
「あの、この辺にシフォンケーキ売ってるお店ってありませんか?」
「シフォンケーキならこの隣とあと角を曲がった1番端の店と三階のティールームにありますけど」
「お詳しいんですね!」何やら顔を見合わせて嬉しそうだ。
「良かった!私達、詳しくなくて…美味しいシフォンケーキを探してるんです!」
あの店の、とかでなくシフォンケーキを探してる?それはまた面妖な。シフォンケーキ研究会でもしてるんだろうか。
「実は、バレンタインに渡したい人がいるんですけどその人がシフォンケーキ好きらしくって…」
なるほど。合点がいき、私は迷わず今1番お気に入りのシフォンケーキの店を教えた。
ーーー
「大漁だねぇ」
「…お前、何を言ってまわった?」
「何も。ただ単に君が休憩時間に良く食べてる物は何か、きかれたから答えただけ」
そう答える当人の前にも、結構な量のチョコが積まれている。ただクレイルの場合、チョコの包み以外にケーキの箱も多い。手作りから有名デパートのロゴ入りまでそのジャンルは幅広い。どっかの誰かが見たらシフォンケーキ研究会じゃなくて博覧会?とか言ったに違いない。
「…どうしろというんだ…」
ケーキは生物だ。そして要冷蔵である。自分の胃袋にも手持ちの冷蔵庫にもこんな量は入らない。かといって捨てる訳にもいかない。
「まーま、3日もあれば片付くでしょ?僕も少し手伝うから」
「半分手伝え」
「はいはい」
とりあえずその日の夜食にと幾つか開けたクレイルはそのうちの一つを口にして動きが止まる。
これは…似ているな。ツキナの作ったものに。いや、正確には少し違うがーーこちらに来てツキナの作っていた菓子と同じ名称の菓子が沢山あると知り片っ端から試してみたが同じ味の物や近い味の物はみつからなかった。
それでも紅茶の茶葉を使った菓子はそれとなくチェックしてしまうクセがついてしまっていたのだが最近はそれも落ち着きつつあった。
だが、これはーーどこのものだ?思わず、久しぶりに包みのロゴをチェックした。
「へー。そうだったんですね」
覚えた動機を話すと意外そうに言われた。
まあ、普通そうだよね。
お菓子の作り方=好きな人に手作りする為。
が一般的な世において
自分が食べたいから って普通ないよなぁ。材料買ったとこにいたOLさん達だって頑張って作ったんだろうしーー上手くいったかな?
ーー失敗した。
食べる順番を間違えた。申し訳ないが先に食べた店の物よりこの手作りケーキは大分落ちる。いや、一般的に下手という訳ではなく素人の手作りといえばこんな感じなのだろう。現に先にデパートの物を食べてないウィルは特に問題なく食している。
だがーーツキナの作った物は手作りより売ってる物に近いという事はーー、彼女は菓子職人かなんかか?
いや、しかし彼女が詳しいのは紅茶の茶葉を使った菓子に特化していた。
だとしたら趣味か?
それにしてはレベルが高すぎる気がする。いや、まさかーー
ーー作って食べさせたい相手でもいたんだろうか?
その考えに行きつき愕然とした。
「…そんなに不味いの?それ」
気が付くと手元のケーキが粉々になっている。
「いや…そんなつもりでは」
なかったのだがーー
先程の考えが頭を離れず、フォークは進まなくなった。
ぞくっと全身に悪寒がはしった。
「っ?!」
いきなり身体を震わせた私に
「どうしたんですかおねーさま?!」
「いや、急に寒気が…なんだろ??」
部屋の中は充分に暖かいのに。
「窓は開いてないし…エアコンの温度あげましょうか?」
「ううん。もうおさまったみたい」
この家には何度も来てるのにおかしいな。風邪でもひいた?
念のため、寝る前に抗生物質を飲んだ方がいいかもしれない。
バレンタインーー本来は当時の思想では認められない結婚式を密かに挙げていたバレンタイン司教がその咎により処刑された日。
日本では、そんな事は知らずに特別なチョコを求める女性と勝手に勝ち組・負け組に分けられてしまう上勝ち組の男性にはもれなく数日間強制スイーツ地獄を、負け組にはヤケ酒+二日酔い地獄を与える試練の日。
ーー そして超勝ち組のクレイルは。
ーー とりあえず、この山を片付けて、暫く甘い物は見たくない状態が続くだろうがーー、落ち着いたらさっきチェックした店に寄ってみよう。
と溜息をついて再度ケーキに取り掛かった。
ここまで読んで下さってる方がバレンタインらしいエピソードを期待してるとは思えませんがもし している方がいたらゴメンナサイ(^^;;
補足=ウィリアム・シジョウ、名前の付け方はクレイルと同じように性を付けただけでこちらも見た目はまんま外国人です。日本での生活が長いから色々詳しいかつくえない人物。




