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あるゴブリンハンターのお話 中編

僕はハンター。

逃げ出したゴブリンを捕まえるのが仕事なんだ。


今日も、仕事を頑張ってコブリン2匹を捕まえてきたんだ。

ただ、捕まえ方に問題があった。

それで今、訳の分からない状態になってるんだ。


僕は今、大きな部屋の真ん中でうずくまっているんだ。

そして、もうすぐぬし様がここにいらっしゃるらしいんだ。

会うことはおろか見る事さえ禁じられている、そんなぬし様が来て、僕を裁くなんて頭の中が真っ白になっているんだ。


じっと待っていたら突然、体が押し潰されるように感じがしたんだ。

部屋の温度も急激に下がっていくような気がする。

それなのに、直ぐ近くで炎が燃え上がって近づいてくるようなんだ。


怖い、怖い、ここに居たくない、無事で済まない。

体が勝手に逃げだしそうになる。

抑え切れず動きだそうとした時、「これ以上問題を起こさないでね」あの監察官の言葉が頭に響いたんだ。

これ以上とは何だ。

僕は悪くないんだ、あの時は仕方なかったんだ。

あれが正解だったんだ。

その思いがなんとか、逃げようとする体をその場に押しとどめてくれたんだ。

不意に声が響いた。


「其の方、我が威圧に良く耐えておるな。さすがは報告に上がっていたハンターよ。其の方が神獣であるゴブリンをむやみに傷つけたと報告があったがまことか?」


ぬし様!?ぬし様が僕に尋ねてるんだ。

そして、僕がむやみに傷つけたといっている。

「嘘だ、そんな事は無い」と叫びたかったが、口がほとんど動かない。

それでも、なんとか


「お・・おそれ・ながら・・、ぬし・・ざま」


と声にだした。

すると、すぐにぬし様が言葉を遮り、


「其の方、その状態で喋るとは、申し開きがあるようじゃな」


不意に、絶対的な力への恐怖が消え去り、代わりに、温かくて守られているという感情が湧き上がって来た。


「これで、話し易くなったであろう。経緯を説明してみよ」


ぬし様の優しい声が響いて来た。


僕は包まれる安心感からか、小さい子供がお母さんに話すように、起こったことをありのままに一生懸命に説明したんだ。


「なるほど、良く判った。報告書とは随分と違うようじゃな。心当たりはあるか」


ぬし様は僕の言葉を信じてくれたんだろうか。


それより、報告書と違うってどういう意味だろう。

監督官が間違えたんだろうか、そんなことは考えられない、あの監督官は優秀なひとだ。

誰かに騙されるようなひとじゃない。


なら、わざと違うことを書いたんだろうか、そんな事して意味あるんだろうか。

そう考えると、急にひらめいた。


ゴブリンを連れ帰った時に、真っ先に監督官かんとくかんの所に走って行った隊長。

新米の僕に戦い方を一から教えてくれた隊長。

僕も相当強くなったけど、戦いでは歯がたたない。

たぶん、ハンターの中で一番強いと思う。

隊の評判もあって、全てのハンターに一目置かれている隊長。


そういえば、隊長は監督官の事が大好きだった。

任務の報告の時にも監督官と楽しそうに話をしているのを見たことがある。

「お前も優秀だが、俺こそ監督官このオンナを嫁にもらう」とか言っていた。

「隊長はお嫁さんをもらってください、僕はお肉をもらいます」ってちゃんと答えてたのに。

もしかして。

でも、確証はない。


ぬし様、思い当たる事はございません」


すると、急に包み込まれている不思議な感覚は霧散し、避けようもない死の予感が僕の体を震え上がらせた。

今度は逃げようなんて思えない、その場で頭を抱えて蹲るだけだ。


「其の方、ここまで一度も嘘を交えなかったのに最後に嘘をついたな。確証なくとも、心当たりを聞いたのじゃ、考えついたことを言わぬは我に対する冒涜ぼうとくと同じじゃ」


僕は蹲ったまま何もできずに時間だけがながれた。


「だが、其の方の功績に免じて一度だけ赦してやろう。二度目は無いと心得よ」


また、急に死の予感が消えて、温かく優しい雰囲気があたりを包む。


「それより、其の方は女より肉の方が好みなのか。幼いのう。だが、それ故にさらなる成長の可能性もあるのか。ふむ、ちなみにゴブリンの血の匂いを嗅いだ時、何と思った」


突然の変化にまったく、ついていけてない。

でも何か質問されている、早く答えなければ。

何とか質問を思い出す、ゴブリンの血の匂いってなんだ、分らない。

ただ、思った事を正直にはなそう、嘘はだめだ。


「恐れながら、申し上げます。特になんとも、なんとも思いませんでした。ゴブリンを連れ戻すときに、ケガをしている事もあります。ゴブリン同士のケンカで血が流れる事もあります。血の匂いは嗅ぎなれているので、ただ単に血が流れていると思っただけです」


「そうか、食いたいとは思わなんだのか。実は其の方らに渡している褒美の肉はゴブリンの肉なのじゃ。血の匂いを嗅いで、たまにゴブリンを食おうとする奴もおるのじゃ。我らの教えを忘れ神獣に襲い掛かる、そういう奴らは逆にゴブリンのエサになるがの」


ぬし様の御言葉の意味が、分らない。

神獣を食べる!?いくら、ゴブリンが馬鹿でも、そんな事が許されるわけがない。

ゴブリンの命は守るべき存在なんだ、それが僕たちハンターの使命なんだから。

そんな事を考えていると、ぬし様が御言葉をつづけた。


「其の方は、なかなか面白いのう。我が教えを忠実に守り、神獣たるゴブリンを守るべき存在とし、追いかけるときは知恵を働かせ、危険に陥った時に何が大事かを見極めたる力。其の方らの中にあって変わった成長をしておる。其の方には、褒美としてより旨い肉を与えよう、あとで食うがよい」


「あ、有難うございます。ですが、私はどうなるのでしょうか」


「このあとの事は、じきに来るものと相談しろ。もうすぐ、我が子供たちの旅立ちの時なのじゃ。その準備に我も忙しい。その大事な旅立ちの為にもゴブリンどもの事を頼んだぞ」


すると、僕のまわりを包んでいた温かくて優しい雰囲気が消えて、ぬし様がいなくなったのが分かった。

僕は訳が分らないまま、汗でびっしょりになり、じっとうずくまっていた。



しばらくすると誰かが横にきて、僕に声を掛けてきた。


ぬし様は、お帰りになりました。立ち上ってください」


促されるまま立ち上ると、目の前にいたのはこの部屋に連れてきてくれた若くて可愛い女の人だった。

それでも呆然としていると、


「いつまで、この建物にいる事はできません。私について来てください」


と部屋から連れ出された。


この建物に来てからそれほど時間は経ってないみたいだ。

出口から見える外の景色は明るく、強い日差しが降り注いでいた。

それでも、ここに来たのが随分昔のことだったように思える。

陽の出ている時間に外に出るのを、一瞬ためらったがそのまま進み、自分の部屋に連れ戻された。


部屋に戻って、休憩しているとさっきのひとがお肉を持ってきてくれた。

見た瞬間によだれが垂れてきた。

渡されたお肉に我慢できずに齧り付くと、口の中に広がる旨み。

幸せで、力が湧いてくる感じだ。

今まで食べていた肉なんか、まるで紙のようだ。

こんな美味しいものを、ご褒美でいただけるなんて。

持ってきてくれた女の人への感謝とぬし様への新たな忠誠を誓うのだった。




ぬし様にあった後も、僕はハンターを続けている。


ただ、変わった事が3つある。

僕の報酬が全部あの美味しいお肉に変わった事。

次に、隊長がいなくなって僕が隊長になった事。

そして、最後に監督官かんとくかんが変わって、あの若いひとに変わった事。


僕は隊長になって色々したんだ。

仲間には、バカなゴブリンの動き方を教えて効率よく捕まえるように命令した。

僕は僕で、前の隊長以上の強さを身に付けようと訓練した。

そうして、今まで以上にゴブリンを捕まえるようになったんだ。

それにゴブリンを捕まえると、あの新しい監督官かんとくかんも自分の事のように喜んでくれて、さらに美味しいお肉も持ってきてくれる。

僕は順調にいくのが楽しくて、嬉しくて、ますます頑張ったんだ。



ある日、監督官あのひとが僕の所に来て、うちの隊員だけじゃなく他の隊にもゴブリンを見つける方法を教えてくれと言ってきたんだ。

僕はそんな監督官あのひとの頼みを喜んで引き受けたんだ。


他の隊にいろいろと教えたけど、初めのうちはみんな「そんなの駄目だ」とか言ってた。

けど、何度も何度も教えてやり続けるように言ってたら、ハンター全体の効率があがって行ったんだ。


すると、監督官あのひとが僕の所に来て


「あなたのおかげよ。ありがとう」


って、褒めてくれたんだ。

僕は凄い嬉しかったけど、照れ隠しに


「褒めてくれてうれしいよ。でも、仕事が少なくなって貰える報酬のお肉も少なくなったから、ちょっとだけ残念なんだよ」


って言っちゃったんだ。そしたら


「あなたには、仕事が無くても毎日お肉は渡すわ。それだけの功績をあげてくれてるとおもうの。でも、みんなには内緒にしてね」


って、言いながらお肉を持ってきてくれたんだ。

僕は嬉しくて、おもわず抱きついちゃった。

とても柔らかくて、いい匂いがした。

直ぐに離れたけど、僕はドキドキしてしまって、その日のお肉の味はあんまり覚えていなかった。



次の日から、僕はいろんな仕事を今まで以上に頑張ったんだ。

毎日、お肉を持ってきてくれる監督官かんじょに胸をはって会えるように。


しばらくすると、僕らは楽しくお話しながらお肉を一緒に食べるようになったんだ。

監督官かのじょも、


「すごく、順調だわ。ぬし様も私たちの事を褒めてくれたわ」


って喜んでた。

ゴブリンの数が予定より早く増えてるらしい。


こんな感じで僕は順調にハンターの仕事を続けていたんだ。




少し寒くなりだし頃、大変な事件が起こったんだ。


外出禁止時間の朝なのに彼女が僕の部屋にやって来たんだ。

こんなことはあの時以来、初めてだった。

何事かとおもっていたら、彼女が事情を説明してくれた。


「ゴブリンの前のリーダーが逃げ出したの。この前の戦いで、リーダーの座を追われたやつよ。でも、追われたからと言って弱いわけじゃないの。ここ何年もリーダーに君臨してたやつで、強さは普通のゴブリンと比べ物にならないぐらい強いわ」


「それはいつの話なの?」


「一昨日の夜よ。最近また忙しくなってきてたから、報告が遅れてきて、あなたの隊が出発した後の話なの。で、他の隊に行かせたんだけど、朝になっても帰って来なかったの。事故にでもあって身動きが取れなくなったのかと思ってたんだけど・・。昨日の夜、その隊のハンターがほとんど死んでいるところが発見されたわ。近くに、複数のゴブリンの死体もあって争った跡があったそうよ」


「神獣のゴブリンと争った!?信じられない。なんでそんなことが起こるんだ」


「見つけた時にまだ息があったハンターがいたみたいで、数匹のゴブリンたちに急に襲われたみたいなの。最初は傷つけないようにしてたらしいんだけど、1人やられて武器を奪われてって、どんどん劣勢になっていって反撃し出した時には、遅かったそうよ」


「武器も持たないゴブリンにハンターがやられるなんて・・。しかも今は武器ももってるのか」


「特徴から、元リーダーのゴブリンが仲間をあつめて襲ったみたいなの。生き残った3匹は武器を持って逃げたそうよ」


「どのあたりの話?」


「東に半日ほど進んだところよ。昨日の捜索ではゴブリンの姿は見付けられなかったわ。さらに東に逃げて行ったと思うの。このままは、流石にまずいの。万が一、元リーダーが逃げ出したゴブリンをまとめ上げて反乱なんて起こされたら・・。見つけたハンターには箝口令かんこうれいを言い渡したから、他のハンターはなにも知らないわ。大事になる前に処理をしたいの」


「判ったよ。でも、そんなに遠くに逃げてるのか。急がないと、僕たちの部隊でも追いつけないかもしれない。陽が沈んだらすぐにでも出発するよ」


「ううん、あたなの隊に出動命令が出る訳じゃないの。今回の元リーダーは危険だし武器も持ってる。だから、ぬし様と相談してそのゴブリン達を殺すことに決めたの。だけど、普通のハンターだと殺すことなんて許されない。だから今回はぬし様も信頼しているあなた1人にお願いしたいの」


「僕だけで行くのか、僕も随分と強くなったと思うけど・・・。他の隊を全滅させ、武器も装備してる元リーダーのゴブリンたちか。無事に帰って来れるかわからないな、でも、ぬし様の為にも君の為にも頑張ってみるよ」


「ありがとう、あなたらそう言ってくれると思ってた。でも、さすがに1人では危険だからぬし様に無理を言って魔法の武器をお借りしてきたの」


そう言いながら、僕に美しい鉄の穂の付いた槍を渡して来た。

そして僕の胸に頭を預けながら


「あなただけが頼りなの。でもお願い、無事にかえってきて」


と、小さな声で囁いたんだ。

僕はその頭をそっと抱きしめながら


「必ずもどってくるよ」





としっかりと答えたんだ。

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