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あるゴブリンハンターのお話 前編

僕らはハンター。

逃げ出したゴブリンを捕まえるのが仕事なんだ。


『最近、ゴブリンの数が増えて大変だ』って、仲間たちが愚痴ってた。

それで、逃げ出すゴブリンの数も増えてるんだ。


でも、僕は仕事が増えて喜んでたりする。

だって、仕事を無事に終えたらご褒美がもらえるんだ。

普段は食べることが出来ない美味しいお肉をもらえるんだ。

それに、ゴブリンはバカだから捕まえるのも、そんなに大変じゃない。

それで、ご褒美がもらえるなんてドンドン逃げ出せとおもってしまう。




今日の夜もまた、逃げ出したゴブリンを捕まえてご褒美のお肉を食べていたんだ。

そうしたら、監督官かんとくかんの女の人が僕らのところにやってきた。


このひとは、とても綺麗でみんなの憧れの存在だ。

仕事を一番に頑張った人の、奥さんになるって噂だ。

ぼくは、どちらかと言うとお肉のほうが好きだけど。


そんな監督官が、僕ら5人に


「疲れてるところ悪いんだけど、また探しにいってほしいの。ほかの隊には任せられないわ。明け方までそんなに時間がないの。あなた達なら何とか捕まえられるでしょ。お願いね」


と、言ってきた。

仲間たちは渋っていたが、


「これは功績をあげるチャンスなんだ行くぞ」


と、隊長が言うので仲間たちも渋々了承した。


「助かったわ」


と、監督官は僕ら5人に出動命令を出したんだ。

逃げたゴブリンの数は2匹だそうだ。

僕は内心、またお肉がもらえるのかと喜んだ。



すぐに出発して、みんなで手分けして探しはじめる。

仲間達はまず、逃げた出した現場にいくんだ。

そこで警備してたひとに情報を聞いたり、足跡をさがしたりして、探し始めるんだ。

ハンターになって最初に教えられた基本通りに動くんだ。


でも、僕は今、近くの川にきている。

逃げたゴブリンは、ほとんどが川にくるんだ。

ゴブリンは単純だから、逃げ出して、走り回って、喉が渇いて、結局ここに水を飲みにくるんだ。

それなのに、隊長達は「いるかいないか、わからない場所にはいけない」って、地道に後を追いかけたりするんだ。

確かに隊長なら、現場から足跡をさがし出し、それを追ってここまで来るのにそれ程苦労しないだろうけど。

今回は特に時間がないんだから、と思っていると


「ゴブギャブィ」「ゴブギゥブュギョ」


って、鳴き声が聞こえてくる。

ほら、やっぱりきた。


まだ、遠くにいると思うけど騒いでいる。

だいたい、ゴブリンはバカなんだ。

今なんて、逃げてるのに騒ぐなんて。

僕らに見つけてくれって、言ってるようなものだと思う。


実際、見つかって帰った方がゴブリンも幸せなんだけど。

飢えないように、食事ももらえるし、襲われる心配もない。

強ければ、メスを与えられて、交尾もできるんだ。


くそ、僕より幸せじゃないか。

僕たちなんかご褒美がなければ、美味しくもない配給を食べるだけだ。

周りにいる女の人も監察官だけだ。

それなのに、ゴブリンは逃げ出すなんてバカだ。


鳴き声のする方向にこっそりと近づいて行く。

見えた。

今は川の中のスライムを捕まえようとしてるみたいだ。

2匹とも川の中に入ってスライムを抱きつこうと、バシャバシャ騒いでる。


やっぱり、バカだ。

あんな事をしたら、スライムが集まってくる。

1匹や2匹ならどうってことないが、10匹も集まってきたら僕でもやられてしまうかもしれない。


急がないと。

首に掛けていた笛を取り出して鳴らす。

ゴブリンたちには聞こえない音で、仲間を呼ぶんだ。


しばらくして、みんながあつまってくる。

最初についた隊長が


「また、お前が一番最初に見つけたか。最近力をつけてきたな」


と、褒めてくれた。


「お肉のためですから」


僕が照れながら答えているうちに全員が揃ったみたいだ。

揃ったのを確認した、隊長は一斉に飛び出しすように合図した。


すでに川岸で、捕まえたスライムに食らいついているゴブリンを逃がさないように取り囲む。

隊長が直ぐに川岸から離れるように、ゴブリンを武器で追い立てる。

けど、ゴブリン2匹は、捕まえたスライムを取られるとおもっているのか動かない。

それどころか、僕らに向かって噛みついてこようとしている。


信じられないぐらい、バカだ。

早く、ここから離れないといけないのに。

武器も持たず、数も多い僕たちに逆らうなんて。


気になって川の方をみると、水の流れ方が変だ。

スライムたちが相当に集まってきている。

隊長の方をみるけど、気づいていないみたいだ。

もう危険だ、時間がない。


僕は、食い物を渡すまいと掴むゴブリンの手に、槍を突き出した。

ゴブリンの手首に槍がつきささる。


「ゴブギャーギョー!!!!」


ゴブリンは、ビックリするほど大きな声で悲鳴を上げた。


全員の視線が僕に集まってくる。

僕はそんなの関係なしに、驚くゴブリン2匹を川べりから引き剥がし、後ろの草むらの中に突き飛ばした。

残ったスライムの死体を川の中に蹴りこんで、みんなにすぐに川から離れろと伝えたんだ。


川の中のスライムたちは、蹴りこまれた死体に群がり岸に上がって来ないみたいだ。


傷ついたゴブリンは、ずっと泣きながら蹲っている。

もう1匹も、怖がっているのか突き飛ばした場所から動いていなかった。


廻りにいる仲間も、ゴブリンを立たせて連れて行こうとしたりせず、遠巻きに見守っているだけだ。

わかってる、関わり合いになりたくないんだ。


僕たちは、”神獣”であるゴブリンを殺すなんてもってのほか。

危害を加える事さえも、禁じられているんだ。


でも、今回は仕方なかった。

危害を加えたかったんじゃない。

あのままじゃ、ゴブリンも死んでたし僕たちの命もあぶなかったんだ。


もうすぐ、夜も明ける。

時間がない。

何もしてくれない仲間達をあてにせず、コブリンたちを立たせる。

突きつけられる槍を見て怯えているのか、今度は素直に従った。

僕は、遠巻きにしている隊長に先導をお願いして、その後ろに並ぶようにゴブリン2匹を追い立てたんだ。


帰り道もみんな何も喋らない。

重い空気が漂っている。


「しかたないよ。少しは怒られるだろうけど、大丈夫だよ。連れて帰ったゴブリンが、見つけた時には怪我をしてた、なんて事もたまにあるんだし。早く帰って、美味しいお肉を食べて忘れちゃおうよ」


と明るく声に出してみる。

だけど、仲間たちからの返事はなかった。

無言のプレッシャーが返ってくるだけだったんだ。


もしかして、ご褒美がもらえないなんてことがあるのだろうか。

僕がゴブリンを見つけて、僕がゴブリンの命を守って、僕がゴブリンを連れて帰るのに。

いや、そんなことはないはずだ。


悩んでいる間に、辿り着いた。


先導していた、隊長がすぐに報告に走っていく。

まるで自分は関係ないとでも言うかのように。


仲間達が続いて建物に入って行った後、すぐにあの監督官が走って近づいて来た。

僕の顔をちらりと見た後、ゴブリンの傷の状態を確認している。


「死なないように・・」


と報告しようとするが、


「あなたは黙って、待ってなさい!!」


と、今まで聞いた事ないような剣幕で僕の話を遮った。

あぁ、この雰囲気はご褒美はなさそうだ。


そのあと監督官がゴブリンを連れて行くまで、しょんぼりしながらじっと待っていた。


しばらくすると監督官が戻ってきて、


「あなたには期待してたのに、残念だわ」


と、言いながら建物に入るように命令してきた。

言われるがまま後を付いて行き、監督官の部屋に入る。

すると、いきなり監察官が喚き散らす。


「なんてことを、してくれたのよ。神獣のゴブリンに傷をつけるなんて。あなたも、神獣に危害を加えてはいけないのは知っているでしょう。それなのに、どうして。私が主様に怒られてしまうわ。ここまで頑張って来たのにあたなのせいよ。どうしてくれるの」


と一気に捲し立てられた。


「仕方なかったんだ、あのままならゴブリンも危なかったんだよ」


「それなら、あなたが身を挺して守ればよかったのよ。そのために武器を持たしてるのよ。その武器は神獣を傷つける為に渡してるんじゃなくて、神獣を守るために渡してるの」


「そんことは、分かってるよ。でもゴブリンがバカだから、駄目だったんだ。スライムたちが集まってきてたんだ」


「神獣のゴブリンを馬鹿って。いまのは聞かなかったことにしてあげるわ。それなら、ゴブリンたちがスライムを倒すのを待ってからにすれば良かったのよ。もうすぐだと言うのに、問題を起こさないで。この時期はどうしてもゴブリンの数が多くなって、ただでさえ、手が回らなくなるのよ。それなのに、優秀な隊のあなたがこんな事件を起こすなんて」


「武器も持ってないゴブリンが集まってきたスライムを倒せるわけがないじゃないか。監督官も知ってるだろ、ハンターでも何人も死んでるんだ。目の前で神獣のゴブリンが死ぬのを見てろっていうのか?」


「神獣を守るのが私たちの仕事よ。そんなことは言ってないわ。でも、探しにいっても見つけきれない事もあるのでしょ。特に今回は探し出す時間も遅かったんだし。明るくなる前に帰って来なければならないのも、守るべき決まりよ。たとえ、見つけられなかったとしても誰も責めたりしないわ。それに最近は脱走の数も多くなってるの。手が回ってないのよ。場合によってはそう言う事も考えてって言う事なのよ。あなたも優秀なハンターなんだからわかるでしょ」


「どういう意味なんだ。僕にはわからないよ。どうすればよかったのか教えてくれよ」


「そんなことは自分で考えなさいって言ってるでしょ。でも、もう考える必要もないのかもしれないわね。話はおわりよ。どちらにしても、私ではどうしようもないの。あなたは、これまで優秀な成果をあげて来たハンターだから主様が直接裁いて下さるそうよ。くれぐれも粗相のないようにね。顔を上げちゃだめよ。直接姿を見てはいけないの。知っているわよね。それに、下手な事を言ってこれ以上問題を大きくしないで頂戴」


と言い切ると、監察官はその後一言も喋らくなってしまった。

そして、しばらくしてノックの音が響くと、何も言わずに部屋から出て行った。


重苦しい沈黙が広がる。

ゴブリンを見殺しにすべきだったのか?

答えはわからない。

それに見たこともない主様に会い、しかも裁かれるなんて。

訳が分らない。


どれくらい経ったんだろう、ふと気付くと目の前に今までに見た事がない、若くてかわいいひとが立っていた。


「主様のところに案内します」


と、有無を言わさず僕を連れ出した。

窓の外を見ると随分と時間が経っていたみたいだ、もう陽が昇ってるようだ。

この時間の外出は禁止されている。

どこに連れていかれるのかと思っていたら、かまわず外に出て行った。

僕が戸惑っていると、早くついて来いと命令された。

さらに立ち入り禁止区域の奥に向かっていく。

そのまま進んで行くと、とても大きくて立派な建物が見えてきた。

建物の中に案内され、見たこともない豪華な装飾に飾られた大きな部屋の真ん中で座らされた。


「ここで平伏してお待ちください。しばらくすると、主様からの御言葉があります」


そう言って、僕に平伏するよう指示する。

僕の姿を確認した後、若い女の人は部屋から出て行ったようだ。





僕は言われた通り、必死に平伏して待つだけだった。

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