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姫ゴト。  作者: 月下香
chapter.1
4/11

04

連続投稿4話目です。

ここにいきなり飛んでこられた方は最初までお戻り下さい。

修道院からの帰りの馬車。

あたしとコートニーはぐったりして座り込んでいた。


「なんか今日はほんといろんなことがあったわねえ…」

「ほんとにね。でもコートニー、あたしひとつ現実見ちゃったわ」

「何よ」

「王妃様とお母ちゃんて友達同士だったじゃん?」

「らしいわね」

「たぶんお年もそんなに変わんないのよね。それなのにかたや田舎のおばちゃん、かたやあの美貌とスタイルじゃない」

「って言われてもあたしお目にかかってないけどね」

「うちの肖像画そのまんまだったわよ。あれから全然お変わりないっていうかあんな絵じゃ描き切れないほどお綺麗で、描いた画家ちょっと出てこいって感じでさ」

「だから何なのよ」

「何十年後かのあんたとあたしみたいだなあって予想ついちゃったの」

「ああ…」


コートニーのお母ちゃんもほっそりとして若々しく、街きっての美人母娘で有名なのだ。


「あんたも現状維持がんばればそうならなくて済むわよ。なんたってこの街じゃあたしの次にかわいいんだから」


親友補正をありがとう。


「うん…でもさあ、ふらっと食べに入った料理屋さんでお母ちゃんみたいなどっしりしたおばちゃんがエプロンかけて出てきたらどう思う?」

「根拠はないけどこの店当たりかもって思う。なんで食べ物屋のおばちゃんがでっぷりしてるとあんなに何もかもおいしそうに見えるんだろうね。実際おいしい事も多いしさ」

「そのそれ」


つまりはそこなのだ。


「あたしってばどう考えてもそのおばちゃん路線がお似合いなのよねえ。イケメンじゃないと結婚しないなんてワガママ言える立場じゃなかったんだわ。お母ちゃんみたいになった時、横にいても違和感ないお父ちゃんみたいなふつーの男の人探すことにする」

「えらく殊勝な心掛けじゃない。でもさ、今日お会いしたエルドレッド様はどうなの?けっこうあんたにご執心だったじゃないの」

「ちょっと、なんであんたちゃっかり名前覚えてんのよ。そういうあんたこそオーウェン様とどうだったのよ」

「あんただってしっかり名前覚えてんじゃない。そりゃあいい男だったけどさ、あたしは絶対うちを継ぐんだもん、騎士様なんてお断りよ。あんたはいいじゃない、おじさんだって嫁に行ってほしいって言ってたし。大丈夫よ、あたしがガンガン子供産んでその一人にあんたんち継がせるから安心して嫁に行けばいいわよ」

「気持ちはありがたいけど、きっと二度と会わないから大丈夫だわね。それにしてもあのお二人ほんっとイケメンだったわよね!」


伴侶として考えられなくてもイケメンが嫌いな女子なんていないと思います(断言

その夜コートニーはうちに泊まっていく事になり、街に着くまで延々とイケメン談義をしてはしゃぎ疲れたあたしたちはお母ちゃんへの尋問は明日にして即ベッドへと向かったのだった。






翌朝。

前日の疲れでぐっすりと寝ていたあたしはコートニーに叩き起こされ、お店の厨房でジャガイモの皮を剥きながら二人でお母ちゃんを質問攻めするハメになった。


「へえ、王妃様があんたに会いたいって言ったって?よく気づいたもんだわねえ」


けらけらと笑うお母ちゃん。


「笑いごとじゃないわよ!いきなりお呼び出しされてお母ちゃんの名前言われた時どんだけ驚いたと思ってんのよ!なんで早く言ってくれなかったの?」

「だってまさかあんな昔の話を覚えてるなんて思わないじゃないかね」

「それにしたってびっくりだわよねえ。ねえねえおばさん、一緒に働いてる時の王妃様のお話聞かせてよ」


物凄い勢いでキャベツの千切りを刻みながらコートニーがわくわくと聞いている。

我が家もコートニーのうちも厨房に立ち入るものは問答無用でこき使われるのが暗黙の了解になっているので容赦がない。


「あの当時お勤めしてた貴族様のおうちで髪の色が濃いメイドを募集してるってんで集められたのがあたしと王妃様だったんだよ。二人とも髪が真黒だったから仲良くなっちゃってねえ」


ガハハと笑うお母ちゃん。あたしもあと何年かしたらこんな…いや考えるのはやめよう。


「部屋も同室だったからちょうど今のあんたたちみたいに四六時中一緒にいたもんさね。空き時間に二人で苦手な料理の練習をして、その時にたまたまできたのがあのソースでね。そうかね、あの味を覚えててくれたとは嬉しいねえ」


嬉しそうに微笑むお母ちゃんの顔がちょっとだけかわいらしく思えた。


「あのソースができてすぐ、王妃様はキッチンメイドからお嬢様付きのメイドになる事が決まってね。国王陛下のご側室に上がられるお嬢様について一緒にいっちまったのさ。それからお屋敷にもいろいろあってお暇を出されて街に帰ってきて、お父ちゃんと知り合って結婚する事になった頃、ちょうどあの子も王様と結婚して――」


お母ちゃんの顔が一瞬だけ悲しそうに見えたと思ったのは気のせいだろうか。


「待って待っておばさん、そこんとこ詳しく!それってご側室に上がったお貴族様を差し置いてど平民のメイドと王様が恋に落ちたって事なのよね!?すごーい、ロマンチック!」

「あはは、あたしも傍にいたわけじゃないからその辺詳しくは知らないけどね。とにかく親友が王妃様になったのが嬉しくてさ、父ちゃんに無理を頼んであの肖像画を買ってもらったんだよ。王妃様はもうとっくにあたしの事なんてお忘れだと思ってたけど、そうかい、覚えててくださったのかい。嬉しいこったねえ」


お母ちゃんが懐かしそうに笑う。


「あっそういえば!イーニドあんたおばさんにちゃんと言ったの?おばさん、王妃様がおばさんに会いに来られるって仰ってたらしいわよ!」

「おや、そうなのかい?そりゃますます嬉しいねえ」

「っておばさん、支度とかしなくていいの?」

「食堂のおばちゃんが何の支度がいるもんかね。お越しになったらせいぜいおいしいものでもご馳走させてもらうよ」


お母ちゃんはすましてそう言うと剥き終えたジャガイモを鮮やかな手つきで刻み始める。


「さすがの親子だわね」

「一緒にしないで。あたしだってさすがに今日は一番いい作業着着てるわよ。エプロンだってちゃんと準備してあるんだから」


王妃様がいつお越しになってもいいように新品エプロンが厨房出口にスタンバイ済みだ。

地獄耳のお母ちゃんに聞こえないようにぼそぼそと会話していると、コンコンとお店のドアをノックする音が響いた。


「ああ、頼んどいた酒が来たみたいだねえ。イーニド、ちょっと行ってきて」

「はーい」


剥きかけのジャガイモとナイフを置くと、濡れた手を染みだらけのエプロンで拭きながら店の入り口に向かう。


「すいませーん、お酒の樽奥まで運んでもらえます?」


そう言いながら扉を開くと、目の前には酒屋のおっさんではなく背の高い銀色の髪の王子様が立っていた。





王妃様のエピソードについて興味のある18才以上の方はムーンライトノベルズの「Liquid Moon」をお読みください(暗いので要注意ですが)

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