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俺の剣幕に押されたのか、背後の警察二人は言葉を失い、顔を見合わせた。前を向き直ると、正面の警察は額を押さえてうつむき、首をふっていた。その後ろにいるやつは、俺と目が合うなり顔を背けた。
「アルバートくん……」
意を決したように、正面の男が声をかけてくる。それでも俺の顔を見て迷いが生まれるのか、口の中でなにかつぶやいている。
「フラニーは、君を待ってなどいない」
正面のやつの背を押すように、その後ろの警察が言った。目をむいてそいつを見る。俺の怒りを察知したのか、正面のやつが間髪入れずに言った。
「君にはもう二度と会いたくないと、彼女はそう言ったよ。君を愛してなどいないと」
「嘘だ」
否定してもやつの表情は変わらない。俺はそこにいる、全員の顔を見た。皆、同じ顔をしている。無表情の合間に同情の二文字がのぞいている。俺をばかにしているんだ。
「嘘じゃない。彼女は、つらいけれど、法廷の証言台に立つと言っていた。君との生活がどれほど苦痛だったか話してくれるそうだよ」
「でたらめ言ってんじゃねえ!」
やつにこぶしを浴びせてやりたかったのに叶わなかった。立ち上がろうとした体はたちまちつかまれ、押さえつけられ、テーブルに叩きつけられる。
「フラニーは俺を愛してる。ずっと一緒にいるって誓ったんだ!」
「それが本当かどうか、今度の法廷でわかることだ。彼女を愛しているなら、しっかり聞いて受け入れてやるんだな!」
上からやつらが怒鳴り返す。
「君のしたことは犯罪なんだ」
やつの背後でずっと顔をそらしていた男がそう口にした。罪のない少女を誘拐し、監禁した、俺は犯罪者なのだと。
(終)
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。