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「必ず俺のもとに帰ってくると、誓うんだ」
触れ合いそうなほど顔を近づけて、俺たちは見つめ合った。フラニーはしばらく黙ったままで、俺の目を見ていた。
「誓うわ。ずっとあなたのそばにいるから」
フラニーの目は澄んでいた。今、この瞬間は、俺だけを見ていてくれてると確信した。
「俺のことが好きだよな、フラニー」
「うん、大好き」
「なら誓いのキスをしよう。今日は君からしてくれるだろう?」
フラニーはかすかに笑って、目を伏せた。俺も目を閉じる。ゆっくりと彼女が近づいてくる気配を感じて、鼻の奥が痛がゆくなった。最後に彼女が見せた笑顔を俺は忘れない。ここに来てから初めての、そして今までの彼女が初めて浮かべた微笑だった。
フラニーの言葉や、笑顔、愛し合った日々を思い出しているうちに、俺も自然に笑顔を浮かべていた。ここに彼女はいないのに不思議だった。
三日前、彼女を家まで送っていった直後だった。家へと引き返した先に警察が待ち構えていたのだ。パトカーが俺の車をまたたく間に囲み、俺は車から引きずり降ろされた。深夜に、凍った冷たい道路に体を押さえつけられながら、俺は絶叫した。なにを言ったかは正確には覚えていない。けれどひたすらフラニーの名を呼びつづけていたように思う。
俺がせっかくフラニーとの日々を話したというのに、目の前の警察どもの顔は沈んでいた。なにもかも話せと言ったのはこいつらだ。だからここまで細かく話してやったというのに、相づちのひとつも打たなかった。とても損をした気分だ。だが気持ちはわからないでもない。俺だって、他人が恋人とどう過ごしてきたかなんて話には少しも興味がわかないからだ。
「あんたらが聞きたいことは全部話したつもりだけど、なにか質問は?」
不機嫌を隠しもせず、俺はぶっちょうづらで聞いた。警察どもがため息をつく。ため息つきたいのはこちらの方だ。
「ないなら、早く俺を解放してくれませんか。フラニーを迎えに行かなくちゃならないんだ」
「なんだって?」
正面の男が目をむいた。俺はいらいらしてきて、ついどなった。
「俺の話を聞いてなかったのか。フラニーが俺を待ってるって言っただろ!」
「なにを言っているんだ、お前は」
背後の男が俺の肩を押さえつける。俺はそれを払いのけ、そいつに向かってがなる。
「フラニーは吸入器をとりに帰っただけだ。今もあの家で、俺が迎えに来るのを待ってるんだよ!」