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俺は泣きながらうなずいた。フラニーの手を握りしめ、涙でぬれる頬に押しつけた。すると、フラニーはもう片方の手を伸ばし、俺の頭をゆっくりなでたのだ。
「大丈夫だよ、アル。私たちはずっと一緒にいられるの。私の話を聞いて」
フラニーの声はとても弱々しかったが、落ちついていた。俺の不安をすべてとりのぞいてくれるような優しさがあった。俺が顔を上げて見ると、彼女はほほえんでいた。
「私ね、生まれた時から病気なの。それでずっと、それを治すための機械を使ってるの。お母さんが病院でもらってきてくれた、口に入れて使うものなの」
そんな話は初耳だった。
「じゃあ、ここに来てから、それは?」
おそるおそる聞くと、フラニーは首をふった。
「それを使わないと、私はこうやって苦しくなる。だから、アルにお願いがあるの」
フラニーのお願いというのは、その機械をとってくるために一度家に帰してほしいということだった。
「ふざけているのか?」
俺は思わず大声を出した。そんなの許すわけがない、決まっているじゃないか。一度でも彼女を手放したら二度と会うことはできない。そんなことは考えなくてもわかる。俺をばかにしているとしか思えなかった。
「逃がしたら、お前はもう帰ってこない。よくもそんな言葉で俺をだまそうなんて思えたな」
俺は再び銃口を向けたがフラニーは落ちついていた。先ほどのように叫びだすことはせず、静かな声で俺に語りかけてくる。
「逃げたりなんかしない。本当よ。私を信じてよ、アル」
「だれが、なにを信じろっていうんだ。お前がここに戻ってくる保証なんかどこにもない」
「お願い、私を信じて。一生のお願いなの、アル。私はあなたから逃げたりしない。あなたとずっと一緒にいるためにしなければいけないことなの」
呼吸がうまくできなくなる俺をなだめるように、フラニーが頬をなでる。目じりに浮かぶ涙を、丸みを帯びた指がすくいとる。
「あの機械があれば、私はすぐに元気になるの。そうしたら今度は、だれにも追ってこれない遠くに逃げよう。二人きりで、一緒に、地球の裏側まで行こうよ」
フラニーが両腕を広げる。俺はその小さな胸に飛びこむようにして抱きついた。
「本当だな? 本当に、俺のところに帰ってくるんだよな」
うめくように吐きだした言葉にフラニーはうなずいた。
「約束する。私は絶対に戻ってくる」
「『約束』じゃだめだ」
フラニーの言葉を鋭くさえぎって叫んだ。