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「すぐすむから、だからフラニー、おとなしくしていてくれ」
何度も頼んでるのにフラニーは言うことを聞いてくれない。俺の腕をつかんで胸元へ押し返してくる。
フラニーの甲高い悲鳴を聞き続けて、俺は頭が変になりそうだった。金属をこすったような音が耳の中につき入り、頭蓋骨でめちゃくちゃに反射して頭を揺さぶる。
フラニーは泣いていた。肩までかかる髪をふり乱し、涙と鼻水で顔面を汚して泣いていた。あんなにかわいかった彼女の顔が見るかげもない。ホラー映画のように魔女が乗り移ってしまったのではないかと思うほどだ。恐怖なのか悲しみなのか、他の別の感情なのかわからないが、俺も泣いていた。泣くことすら気力がいるものだと思っていたのに今は涙が止まらない。これも彼女に会えたからこそできたことなのだろうか。
もみ合ううちに銃口がフラニーの口に入った。単なる偶然だったが、フラニーは叫ぶのをやめて動きも止めた。これで引き金を引けば間違いはないはずだ。
荒い息をようやく落ちつけることができた俺は、ゆっくりと指に力を入れた。キリキリ……と金属をこする音がかすかに響く。フラニーは微動だにしなかった。ついに覚悟を決めたに違いない。ベッドにだらりとたれた四肢は、まるで意思をなくしたかのようだった。
俺の涙はまだ止まらなかった。しかし目だけは背けてはならない。フラニーの最後の瞬間を、俺以外のだれが見届けてやれるというのだ。そう思って俺は顔を上げた。すると、かすかだが、フラニーの口元が動いているのがわかった。最後に俺になにかを伝えようとしている。俺はいったん指の力を抜いて、銃口をフラニーの口から引き抜いた。
「死にたくないの」
震える声でフラニーはつぶやいた。まだ決心はついていなかったようだ。俺は心が痛んだ。俺の顔を見てそれを察したらしい。フラニーはつけ加えた。
「アル、あなたにも生きててほしい。簡単に死を選んだりしないで」
フラニーの切実な訴えに俺は首をふるしかなかった。
「無理だよ、フラニー。俺だってできればそうしたい、だけどもうだめなんだ。そう決めるのは決して簡単なことじゃなかった」
「そんなことない。まだ、なにか方法があるはずなの」
フラニーが首もふる。俺を必死に勇気づけようとしてくれているけど、そこにはなんの希望も見出せない。俺も首をふり返すしかなかった。
「ないよ、もうなにもない。フラニー、もうなにもかも終わりなんだ。もし運よく逃げきれたとしたって、俺には君を救えない。君を失った時、俺にどうやって生きていけって言うつもりなんだ?」
頭を抱えてうめく俺の腕に温かいものが触れる。
「アル、おまわりさんが近くに来ているの?」