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フラニーがまた風邪を引いた。しかも今回はかなりの高熱だ。フラニーの意識はもうろうとしていて、目もうつろだ。呼びかけても反応が鈍い。三日も経っているのに一向に熱が下がらない。もしかしたらただの風邪ではなく、なにか重い病気なのかもしれない。俺はどうしたらいいのかわからなくなって、部屋とダイニングを意味もなく歩きまわった。
はやり病か伝染病かなにかなのかも知れない。普段はほとんどつけないテレビの電源を入れた。全チャンネルを見てみたがそれらしいニュースはやっていない。代わりに、俺を地獄へつき落とす情報が目に飛びこんできた。
警察が俺の住む州の捜索に入ったらしかった。まだ街の方を回っているらしいが、ここまで来るのも時間の問題だ。山奥まで入ってこられたらここら辺は家が少ない。すぐに足がつくだろう。
なんでよりによって今なんだ。いや、どうして放っておいてくれないんだ。どうして彼女を探す? 見つけたって、彼女は俺以外のところに行く場所なんかないのに。
テレビをたたき壊したい衝動を押さえつけながら自室へ向かう。フラニーと住みはじめてからは使うこともあまりなくなったが、もしものときのために「あれ」がしまってあるのだ。金庫へ厳重に保管している。
本当は使いたくなんかないが、しかたない。もうこれ以上の方法なんて俺には思いつかないんだ。
暖房の効いていない部屋にある金庫は氷のように冷たい。一瞬暗証番号を忘れてあわてたが、メモをしてあったことを思い出してなんとか開けた。
金庫と同じくらい冷たくて黒い凶器。ずっしりと手のひらを圧迫する質量に心臓をわしづかみにされる。弾はすでにこめられている。狙いさえ外さなければ一発で命を撃ち落とせる。俺やフラニーの人生を一瞬で破壊する。
俺は今、どういう顔をしているんだろう。鏡を見る勇気はないからわからない。でもフラニーが怖がらないように、できるだけ笑っていようと思う。
足音を忍ばせて部屋に入ると、フラニーはそのわずかな音で目が覚めたようで、視線をこちらによこしてきた。そして俺の右手に握られているものを見て悲鳴を上げた。
「アル、それ、なに? それでなにをするの」
フラニーは腕で顔をかばって悲鳴を上げつづける。彼女からこんなに大きな声が出るなんて初めて知った。よほど驚いているんだろう。そりゃあ、そうだ。俺だってこんなものを向けられたら怖いに決まってる。
「大丈夫だよ、フラニー。一瞬だ」
俺はできるだけ笑ってみせたが、それを見てフラニーはさらにパニックになった。腕をふり回してベッドからなんとか起き上がろうとする。あんまり動かれると狙いを外すから危険だ。そう思った俺はベッドに乗りあがってフラニーの体に馬乗りになった。