4
フラニーは俺の手を両手で包みこんで、そっとキスをした。
「アルは私のことをいつも気にかけてくれるし、休みの日もずっとそばにいてくれて私を優先してくれる。それが、私はすごくうれしいの」
フラニーは震える両手に力をこめる。幼い彼女がぬれた瞳で必死に愛をささやく。だけどそれでも満足できない俺は、なんて強欲な人間なんだろう。
「なら、これからも俺とずっと一緒にいるよな? 俺から絶対に離れないと誓えるな?」
彼女がうなずくのを待って、あごに手をかける。誓いのキスはこれで何度目なのか。俺は覚えてるんだ。
フラニーの寝顔をしばらく見つめていると、いてもたってもいられなくなる。音を立てないように慎重に部屋を出た。
ダイニングの明かりもつけずにテレビの電源を入れた。画面の光が目につき刺さる。目を閉じてまぶたをもんでからもう一度画面を見た。
警察はフラニーを探しているが、まるで見当違いのところへ動いているようだ。フラニーとの生活を邪魔されないために、鬱蒼とした森の奥まで引っ越してきてよかった。最初にここに立っていた廃屋を見たときはどうなることかと思ったが、なんとかここまで来た。建築の技術どころか工作すらまともにやったことがない俺がここまでやれたのも、全部フラニーのためだ。この幸せを手放すなんて考えられない。
だけど、わかっている。こんな幸せはいつまでも続かないんだ。いつかはあいつらがここに来る。悪魔がフラニーをさらいに来る。そうなったら俺はどうしたらいい?
とても怖い。でも時々考えるんだ。ニュースを見るたび、新聞の記事を追うたび、それは現実味を帯びていく。フラニーと一緒にいられるなら別にここじゃなくてもいいんじゃないか。最近はそんなふうに思えてきた。なんでもない人生でも思うところはある。フラニーと出会えた俺にはかけがえのない時間や言葉にできない瞬間はたくさんあった。だけどそれ以上に、こんなクソみたいな世界を呪いたくなる時が、山ほどある。人生はいいことも悪いことも同じくらいあるとよく聞くけれど、俺には悪いことが多すぎた。そしてこれからもそれは変わらないだろう。こうして幸せをかみしめている間も、常に俺を不快にさせるものが迫ってくる。
それとは対照的に、フラニーはいいことの方が多かったんだろう。そうじゃなきゃあんなに屈託のない笑顔はできない。俺にはまぶしくてたまらない。そんな彼女がこの先いやなことばかり体験して、俺のようになってはいけないんだ。
そうとなれば、一番いい方法はなんだろうかと考える。フラニーにはなるべく苦しい思いはしてほしくないから、やはり銃が一番だろうか。薬物もいいかもしれないが、残念ながら俺にはあまり知識がない。なにかの間違いでやり遂げられなかった場合のことは考えたくない。やはり銃がいいだろう。そう思ったら、もうそれしかないように思えてきた。もう一週間ほど経てば、俺はその考えを行動に移していたかもしれない。