表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フラニー  作者: ペトアリ
4/9

4

 フラニーは俺の手を両手で包みこんで、そっとキスをした。

「アルは私のことをいつも気にかけてくれるし、休みの日もずっとそばにいてくれて私を優先してくれる。それが、私はすごくうれしいの」

 フラニーは震える両手に力をこめる。幼い彼女がぬれた瞳で必死に愛をささやく。だけどそれでも満足できない俺は、なんて強欲な人間なんだろう。

「なら、これからも俺とずっと一緒にいるよな? 俺から絶対に離れないと誓えるな?」

 彼女がうなずくのを待って、あごに手をかける。誓いのキスはこれで何度目なのか。俺は覚えてるんだ。

 フラニーの寝顔をしばらく見つめていると、いてもたってもいられなくなる。音を立てないように慎重に部屋を出た。

 ダイニングの明かりもつけずにテレビの電源を入れた。画面の光が目につき刺さる。目を閉じてまぶたをもんでからもう一度画面を見た。

 警察はフラニーを探しているが、まるで見当違いのところへ動いているようだ。フラニーとの生活を邪魔されないために、鬱蒼とした森の奥まで引っ越してきてよかった。最初にここに立っていた廃屋を見たときはどうなることかと思ったが、なんとかここまで来た。建築の技術どころか工作すらまともにやったことがない俺がここまでやれたのも、全部フラニーのためだ。この幸せを手放すなんて考えられない。

 だけど、わかっている。こんな幸せはいつまでも続かないんだ。いつかはあいつらがここに来る。悪魔がフラニーをさらいに来る。そうなったら俺はどうしたらいい?

 とても怖い。でも時々考えるんだ。ニュースを見るたび、新聞の記事を追うたび、それは現実味を帯びていく。フラニーと一緒にいられるなら別にここじゃなくてもいいんじゃないか。最近はそんなふうに思えてきた。なんでもない人生でも思うところはある。フラニーと出会えた俺にはかけがえのない時間や言葉にできない瞬間はたくさんあった。だけどそれ以上に、こんなクソみたいな世界を呪いたくなる時が、山ほどある。人生はいいことも悪いことも同じくらいあるとよく聞くけれど、俺には悪いことが多すぎた。そしてこれからもそれは変わらないだろう。こうして幸せをかみしめている間も、常に俺を不快にさせるものが迫ってくる。

 それとは対照的に、フラニーはいいことの方が多かったんだろう。そうじゃなきゃあんなに屈託のない笑顔はできない。俺にはまぶしくてたまらない。そんな彼女がこの先いやなことばかり体験して、俺のようになってはいけないんだ。

 そうとなれば、一番いい方法はなんだろうかと考える。フラニーにはなるべく苦しい思いはしてほしくないから、やはり銃が一番だろうか。薬物もいいかもしれないが、残念ながら俺にはあまり知識がない。なにかの間違いでやり遂げられなかった場合のことは考えたくない。やはり銃がいいだろう。そう思ったら、もうそれしかないように思えてきた。もう一週間ほど経てば、俺はその考えを行動に移していたかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ