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フラニーは目に涙をためて訴えてきた。俺は頭をなでる手を止めて唇をひき結んだ。
フラニーには申しわけないけれど、俺は彼女の両親がきらいだ。特に父親の方は最悪だ。
以前、俺とフラニーが話をしていたところにやってきて、有無を言わせず連れ帰ってしまった。しかも、不信感たっぷりににらみつけてきやがった。その次の日なんか、フラニーにあげようとしたキャンディを叩き落として怒鳴りつけてきた。俺が彼女のために店を回って買ったキャンディだ。それを受けとるとフラニーはいつもうれしそうな顔をするんだ。でもその日は、かわいそうに、父親の剣幕におびえて泣きそうになっていた。俺はよっぽど言い返しそうになったけど、フラニーにこれ以上いやな思いをさせたくなくて堪えた。
あんなふうに思いやりのない男にはなりたくない。見たところあいつは俺と同年代だけど、俺よりはるかに幼稚でまぬけだ。見た目で人を判断して攻撃してくるなんてどうかしてる。あんなやつに育てられたってきっとろくな大人にならない。母親の方はどうだか知らないが、あんな男と結婚するくらいだから見るまでもないだろう。子供は親を選べない。そう思ったらフラニーが不憫でたまらなくなった。
「あんなやつらのことなんかいつまでも考えてたらだめだ。これからは俺がずっとそばにいてお前を守るから、もうなにも心配しなくていいんだよ」
俺といることがわかったらあの男はなにをするかわからない。フラニーにだって手を上げるかもしれない。
俺といた方がフラニーは絶対に幸せになれるんだ。親と急に離れた今は不安に思うかもしれないが、すぐに忘れられる。
それから、フラニーは親のことはいっさい口にしなくなった。もちろん俺の方から話題を持ちかけるようなこともない。だけど彼女は笑うこともしゃべることも少なくなった。表情は色をなくし、鈍くなっていった。よく風邪を引くようになった。
俺は彼女の輝かしい笑顔に惹かれたのだ。ぽんぽんとボールのように跳ねる動きや無邪気な表情が彼女の魅力だった。それをとり戻したくて俺はいろいろした。大好きなキャンディやガムも毎日プレゼントしたし、フラニーが食べたいと言うものはどんな料理も買ってきた。子供が好きそうな映画やアニメを借りてきて、一緒に見たりした。フラニーはそのたびに喜んだ。おいしい、おもしろい、大好き、と喜んで、私のためにありがとう、とほめてくれる。俺は楽しくて充足感に満ちた日々を送れているけど、フラニーはそうではないみたいで、しばらくすると暗い顔に戻ってしまう。その顔を見るたびに俺は不安になって、つい聞いてしまうんだ。
「フラニー、俺のことが好きか?」
ベッドに二人して寝ころんで、もう眠ろうかという時に尋ねる。枕から顔をこちらに向けてフラニーはうなずく。その緩慢な動きに俺は眉を寄せて、もう一度同じことを聞く。
「本当に好きか? 嘘をついてるんじゃないよな」
「も、もちろんよ。アル、大好き」