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「どうしたんだよ、フラニー。うれしくないのか?」
俺が顔をのぞきこむと、フラニーは目をうるませて、上目づかいで俺を見た。
「ここ、私とおじさんの部屋なの?」
フラニーがおかしなことを言う。おじさん、なんて、まるで俺と彼女が他人同士みたいじゃないか。
「なんでそんなこと言うんだ、フラニー」
勝手に低い声が出る。フラニーの反応があまりにも思っていたものと違ってがっかりだ。腹が立つ。だれもかれも、俺が悪いと言うんだ。俺がなにをしたって言うんだ。俺がしたいことはなにひとつ思い通りにならない。ほしいものだってたくさんある。手に入れようと努力だってしてる。なのになんでお前らは俺の邪魔ばかりするんだ。
「俺の名前は『アル』だ。おじさんじゃない。二度とそんなふうに呼ぶな」
あとずさるフラニーの腕をつかむ。目を見開く彼女に顔を近づけて迫った。
「ご、ごめんなさい。アル……」
フラニーはうつむいて震えていた。小さな唇も、こげ茶のまつ毛も震えている。その様子を見ていたら怒りが静まっていった。フラニーは俺が怒った顔なんて初めて見ただろうから驚いただろう。たしかに「おじさん」なんて呼ばれていやだったけど、フラニーにつらそうな顔をさせるのはもっといやだ。
俺はかがんでフラニーと目線を合わせた。俺よりふた回り以上も小さい両手をとって、頬に当てた。白くて柔らかい指だ。ピンクのシャツからのぞく首筋も腕も、黒いミニスカートから伸びる脚も、傷ひとつない。俺のものとはまるで違う。
びっくりさせてごめんな、と優しく言って手を引く。部屋にあるベッドまでフラニーはおとなしくついてきた。
「フラニー、ここに座って」
ベッドへ腰かけ、その膝上にとフラニーをうながした。恥ずかしいのか、フラニーはなかなか足を動かさなかったが、俺が強く膝を叩くとようやく近づいてきた。スカートを握りしめるフラニーの手を握って、膝上に座らせる。軽いけれどたしかな重さがある。俺のあごにちょうどフラニーの頭がある。フラニーは緊張からかかすかに震えていて、そのたびにあごに茶色い髪が柔らかくこすれる。
首筋に鼻を当てるとフラニーのにおいがした。こんなに近くで彼女を感じられるなんて初めてのことだ。いつもはせいぜい、人目を気にしながら手を握るくらいしかできなかった。今日からもう我慢なんてしなくていいのだ。
震えているフラニーを安心させようと頭をなでたけれど、それではだめだったらしい。フラニーは小さく頭をふった。固い表情の理由を聞こうとしたら、彼女から口を開いた。
「もう、お母さんとお父さんには会えないの?」