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フラニー……フランセス。愛しいフランセス。
警察達が俺をとり囲んでる。真正面から俺をにらんでいる。そいつの後ろにもう一人。そして俺の後ろにも、二人。別に逃げようとなんてしないのに、少し動いただけでイスに強く押さえつけられる。粗暴で腹が立つ。指が肩に食いこんで痛い。でもふり払うとさらに強くつかまれるから渋々がまんしている。
「俺は彼女を愛していました。本当です。彼女も俺を愛してくれていました」
はっきりと告げる。肝心の相手が目の前にいないのに、これほどむなしい告白もない。もちろん警察相手に愛をささやいているわけではない。俺は警察なんてきらいだ。まあ、好きなやつがいるなんて毛ほども思っちゃいないが。いい歳してサンタクロースがいるなんて信じるようなもんだ。でも、こうやってくり返さないとこいつらはわからないんだ。俺とフラニーの間にたしかなものがあったことを教えてやっているんだ。ああ、早くフラニーに会いたい。俺はいつ解放されるんだろう。
フラニーとの出会いは、なんてことはない。ドラマや小説にあるような劇的なきっかけなんてなにもなかった。でも好きになってしまえばそんなのささいなことだろ? 大事なのはどうやって愛し合うかだ。
まず俺はフラニーと二人きりでいられる部屋を作った。日曜大工なんてめんどくさくていやだったけれど、フラニーの喜ぶ顔を思い浮かべて頑張った。たまに使い方を間違えて、指から血が吹き出たり顔の皮膚がめくれたりしたけれど、そんなことは別に気にならない。傷は男の勲章だ。この傷を見るたびにフラニーは俺に感謝するだろうし、俺が彼女のためにどれだけ頑張ったかわかってくれるはずだ。
「フラニー、今日からここが俺たちの部屋だよ」
やっとのことで部屋が完成した日、俺はいてもたってもいられず家を飛び出した。すぐにでもフラニーに伝えたかったからだ。フラニーといつもの公園で待ち合わせ、いつものようにキャンディをプレゼントする。今日は二人の大切な日だから、奮発して特別豪華なものを買った。フラニーが抱えられないほど大きなキャンディがかごにつまっている。かわいらしく包装されたそれを見てフラニーは飛びあがって喜んだ。早く食べたいとはしゃいで、プレゼントを抱える俺に抱きついてきた。
せかすように彼女を車へ誘った。彼女は不思議そうな顔をしたが、「もっとすごいプレゼントがある」と言ったら、なんのためらいもなく助手席に乗った。俺は興奮を抑えられなかった。キャンディでこんなにも喜んでくれるなら、あの部屋を見た彼女はどういう顔をするんだろう。考えるだけでわくわくした。だけど部屋を見たフラニーは、つっ立ってなにも言わなかった。さっきまであんなにはしゃいでいたのに、見たこともない無表情で黙りこんでしまった。