表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/46

褒めてくれるなら、金をくれ!

「サル、任せたぞ!」



 サルの表情に気づいていないのか、気づいていても気にしていないのか、うつけの殿はひらりと馬に乗ったかと思うと、そう一言だけ残して、馬首を反転させて引き返し始めた。


 どうやら気が短いと言うところだけは歴史どおりなのかも知れない。

 恩賞だよ、恩賞。人夫への恩賞が必要だよ。その話は?

 サルがすべき話じゃない!

 サルに目を向けたが、そんな話どころじゃない。

 頭の中がダウンしてしまっているとしか言いようがない表情で固まってしまっている。

「まずい!」冷静な私がそう言ったのを聞いた。

 私は慌てて、うつけの殿を呼んだ。



「待ってください。信長様ぁぁ」



 私の声に、うつけの殿は馬を止めたかと思うと、再び馬首を反転させ、私のところまで戻ってきてくれた。



「なんじゃ、ねね」

「はい。家中のお歴々が差配されても、進まぬ工事でございます。

 それを一昼夜で行うのでありますから、人夫への恩賞の方はよろしくお願いします」

「いいだろう。ねねの願いじゃからのう」

「よろしくお願いします」

「サル、励め!」


 そう言葉を残して、うつけの殿は去っていった。

 うつけの殿の姿が見えなくなると、サルに目を向けた。

 うつけの殿にかけられた「励め!」にも返事できないくらい、青ざめた表情で、固まってしまっている



「藤吉郎殿。お考えは無いのですか?

 ありますよね?」



 そう。サルまでうつけだったら、私の未来は暗い。

 信じたい。サルにはアイデアがある事を。

「無い、無い、無い」と、私以外の頭の中の全員が言うのを聞きながらも、私は一人、サルに賭ける。

 そんな私を絶望に叩き落とす言葉が、サルの口から返ってきた。



「ある訳ございませぬ」



 さっきあんなに真剣な表情で、作業を見てたじゃない!

 何してたのよ!

 私の感情が高ぶってきて、自然と口調は厳しくなる。


「先ほど、作業を見ておられたではありませんか。

 何か感じるところがあったのではないのですか?」

「いや。あの中に一人、おなごがおったので、服の隙間からちらりちらりと見えるなにを見ていただけじゃ」

「はぁぁ?」



 嫌悪感がつのり、そのまま立ち去り始めた私を冷静な私が引き留めた。



「このままじゃあ、元の世界に帰れなくなるんじゃない?

 それでもいいの?」



 私の頭の中に天秤が浮かんだ。

 片方の皿には「サルに知恵を授けて、元の世界に帰れる可能性」、もう一方には「サルを無視して、元の世界に帰れなくなる生活」。

 悩むまでもない。



「藤吉郎殿。いい事!」



 私は振り返って、そう言うと、固まったままの藤吉郎に諭すように、知っている事を話した。


 まずは、人には人に応じた欲があって、この欲を刺激すれば人は動くと言う事。


 そう。簡単に言えばこれよ。

 有名女優が子役の時、ドラマで叫んだとか言うフレーズに似ているけど、「褒めてくれるなら、金をくれぇぇぇ」。

 この人たちには、信長様に「大義!」なんて声をかけてもらうより、恩賞の方が欲しいのよ!


 この人たちを動かすのは言葉じゃない、理念じゃない、目の前の恩賞だって事を伝えた。

 

 そして、その恩賞に差を設けて組毎に競わせ、早く終わった組ほど、多くの恩賞が手にできるようにすると言う事。

 競争のある社会と競争が無い社会では、その発展に大きな差が生じる事は私の世界では証明済み。


「分かったの?」



 なんで、私がこんな事しなきゃなんないのよ。そんな気分が、サルへの口調をきついものにしている。



「ねね殿。ありがとうございまするぅぅ」



 サルはそう言うと共に、私の右手をがしっと握りしめた。

 不覚! 油断していた。


 サルが握りしめた私の手をぶんぶんと振りながら、頭を下げた。



「後は頼んだわよ!」



 そう言うと、私はサルの手を振り払った。

 振り払われた事にも気づいていないのか、サルの顔はくしゃくしゃの笑顔だった。


 ちょっと、げんなり気味な私。

 うつけの殿に続いて、サルにまで手助けしないといけないなんて。

 何でこんな事に。

 大きなため息を付きながら、天を見上げた。


 そんな私の気持ちも知らず、サルはご機嫌な口調で言った。



「お任せください。ねね殿」



「サルのやる気を出させる事も大事かも」と、冷静な私が言った。

 それには私も同意。一度頷くと、作り笑顔をサルに向けて言った。



「藤吉郎殿も、信長様にいいところをお見せ下さい」



 私の言葉に、さらにくしゃくしゃにした笑顔で、サルが頭を下げた。

 その姿を背に、私はねねの家に向かって行った。

 一年分の疲れをしょい込んだ気分。

 信長に続き、藤吉郎までうつけだった衝撃は、私に相当なダメージだった。





 そして、これもうまく行った。

 サルは瞬く間に崩れた城壁を修復した。


 そして、歴史も順調に修復されている。

「やっぱ、私は歴史を修復するために、ここに来たのかな?」

「いいえ。修復じゃなく、これが正しい歴史なんじゃないかな?」

 頭の中で色んな私が勝手な事を言う。

 でも、元の世界に戻りたい。と言う意見だけは全員一致。


 帰れるのはいつなのよ~。

お気に入りを入れてくださった方、評価を入れてくださった方、ありがとうございました。

応援をエネルギーに、が、が、頑張りますっ!

と言う訳で、水曜ではなく、月曜の7時にも、予約更新しました。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ