九州平定
狸おやじの徳川家康もサルに従うと、サルは20万の軍勢をもって、九州を平定にとりかかり、そのサルに付き添い私も九州にやって来ていた。
大軍勢、それと関白に従えば本領は安堵すると言う事もあって、島津勢を駆逐する事は難なく進んだ。
古めかしく、少し薄暗い城の広間。
一段高い場所にサルと共に座り、謁見する者たちの相手をしている。
「殿下にご挨拶にと、大村純忠に伴われ、伴天連が来ておりまする」
石田三成がそう言って、サルに目を向けた。
「大村はキリシタン大名であったな」
サルの言葉に、三成が頷いてみせた。
「通せ」
サルの言葉に、しばらくすると大村とその背後に、十字架を首からかけた武士と二人の宣教師が現れた。
目を合わすことなく、進み出て、私たちの前に一度平伏した後、顔を上げた。
宣教師の一人は異国人、もう一人は日本人。
日本人の宣教師が私を見て、少し驚いたような顔をしている事に気付いた。
何? 的に見つめると、目を逸らした。
「関白殿下。
ここに控えます伴天連はコエリョとロレンソでございます」
大村の言葉のロレンソと言う名は聞き覚えがあった。
どこかで聞いたような。
「信長様の安土城で会ったでしょ」と、記憶自慢の私が言う。
ああ、あれかぁ。
でも、異国人の方はあの時とは変わってるらしい。
ロレンソがコエリョに何か耳打ちをし始めると、コエリョの視線は私に向けられた。
安土城であったと言うような事を言っているのかも知れない。
「なんじゃ?」
二人の様子にサルが言った。
「ロレンソが申しまするに、その当時、どなた様かは分からなかったようですが、北政所様とは安土の城でお会いした事があるそうで」
コエリョがそう答えると、サルが私に目を向けた。真偽を目で問うている。
「サルと目と目で会話できるんだぁ」と言う、別の私の突込みは無視。
「そうですね。
確か地球が回っているのか、星々が回っているのかと言う話をさせていただいたかと」
「地球が回っているなどとは、何と言う不届きな考え。そのような」
私の言葉にコエリョが返してきた。
きっと、私があの時言った「それでも地球は回っている!」と言うのを、ロレンソが話したのだろう。
そのロレンソがコエリョの言葉を遮った。
きっと、私がぷんぷんするのを避けようとしたに違いない。
「あの時、残念ながら、信長公はデウスの教えを信じませられなんだ」
ロレンソの言葉はそこまでだったが、コエリョが付け加えた。
「信長公はそれ以上に自らが神であるかのように振舞われようとした。
それゆえ、非業の死を遂げられたのです。
神を冒涜せず、神に救い求めておればと思えば、残念です」
その言葉はちょっと私をムッとさせた。
まるで、信長様がキリシタンになっていたら、救われたかのような言い草。
明智の軍勢を、神の力で薙ぎ払えたとでも言うのか!
「ふんっ」
ちょっと鼻で笑う態度で、不快感を表してみた。
そして、きっつい視線で、言葉を続けた。
「そう言えば、九州の一部の地では、神仏を破壊しておるそうじゃな。
大村の地でも、行われておると聞く」
他人が何を信じようと、私は気にしない。
でも、自分が信じるものを他人に強制するのは好きじゃない。
ましてや、他の人が信じるものを破壊するなんて!
叱責感満載の私の言葉に、大村が黙り込んでいると、コエリョが答えた。
「人の手により破壊されると言う事。
これすなわち、神の力など有しておらぬ故でありましょう。
そのようなもの破却し、我らがデウスにすがる事こそ、正しい道でありますまいか」
なにやら、自信ありげな表情である。
「では、私が南蛮寺を破却して見せれば、そなた達が言う神はおらぬ事の証明となりまするな」
私のぷんぷん気分はMaxを通り越して、怒りモード。
一触即発。
これ以上、険悪な雰囲気になるのを避けようと、三成が割って入ってきた。
「殿下、デウスの教え、どうされるのですか?」
「そうよなぁ。今まで」
今までどおりと言おうとしているサルの言葉に、私が割って入った。
「まず条件がありますっ」
私の言葉にサルは言葉を止めた。
「日本古来の神や仏の破却を直ちに取りやめる事。
領民への改宗の強制を直ちに取りやめる事。
これは伴天連たちだけでなく、大村殿への命令でもあります」
「関白殿下。
北政所様の言葉は関白殿下のお言葉でありましょうか?」
大村がサルにたずねた。
私の言葉を覆させたい。そう言う事だろう。
サルに特に意見などない。
ちらりと私を見て、私の様子をうかがった。
「当り前じゃ」
サルはそう言って、何度も大きく頷いて見せた。
「分かりましたか?
私の言葉は殿下の言葉。
従わなければ、大村殿にも処罰が待っております」
大村は平伏したが、コエリョは不機嫌そうな顔を私に向けたまま、頭を下げようともしていない。
「下がりなされ」
私の言葉に、大村たちは下がり始めたけど、コエリョは私を睨み付けたまま動こうとはしていない。
ロレンソがコエリョの背後に回り、引き下がるよう小声で説得を始めた。
怒りの形相のままコエリョは立ち上がると、吐き捨てるように言った。
「私の指揮下には艦隊も控えている。
南蛮寺に手を出してみろ。すぐに報復してやるからな」
「ペルーの砲艦、恫喝外交かよ!」と、気短な私が頭の中で、ぷんぷんしている。
江戸時代は平穏な時代過ぎて、幕府は腰抜けだったけど、今のこの国はずっと戦乱をくぐり抜けてきた、ある意味強兵ぞろい。
しかも、奴らは蒸気機関を持っている訳でもない。
来ても返り討ちにしてあげるわよ!
と、口に出しそうになったけど、ここは大人の対応。
睨み返すだけで、勘弁してあげる事にした。
コエリョは私に睨み付けられた事で、さらにカッカしたのか、子供が地団駄を踏むかのように、数回足で床をどたどたと鳴らして、引き下がって行った。




