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賽は投げられた!

 信長様たち一行が本能寺に入った。


 私は官兵衛が私の護衛と称して付けたサルの兵200名と共に、桂川の前に立っていた。

 200名では光秀相手には少なすぎる事は分かっている。

 少ない理由は、サルの戦力の主力は毛利と対峙していて、人を割けないと言う理由よりも、信長様がいる京に理由もなく連れて入れるのはこの程度と言う理由の方が多い。


 でも、光秀相手に合戦し、勝とうとしている訳じゃない。

 信長様を本能寺から落とす。

 それが目的なら、不可能じゃない。


 歴史を裏切り、信長様を救う。

 そう決めたはずなのに、立ち止まってしまう。



 ここを渡れば元の世界の悲惨? 渡らなければ信長様の破滅。


「それって、カエサルのパクリだよね?」と、頭の中で別の私が突っ込む。

 そうじゃなくて、きっとカエサルも、こんな気持ちだったんだろうなって思っただけよ。と、頭の中で、口を尖らせる。


 ぎゅっと拳を握りしめると、心を決めて、私は一歩を踏み出した。



「賽は投げられた!」


 高まる気分が、そんな言葉を口から吐き出させた。



 信長様の力により、平和を取り戻した京。

 信長様が初めて上洛した時には、荒廃していたと言うけれど、そんな面影はみじんも無く、道行く人々の顔には笑みがあふれている。


 サルの旗指物の軍勢。

 誰も怯えもしなければ、警戒もしない。


 パックス・ノブナアーガ。

 この信長様が築いた平和を壊させはしない。

 そんな事を思いながら、平穏な街の中を進んで行く。

 


 たどり着いた本能寺は敷地も広く、周りを濠が取り囲んでいた。

 濠に沿って、本能寺の正門を目指して歩いていく。


 近づいた本能寺の正門。

 その前には、信長様に面会しようとする大勢の者達で列ができていた。


 見るからに公卿の者たち、商家と思われる者たち。

 信長様の人気、もとい、権力者の力を感じずにいられない。


 そこに近づく、怪しげな武装集団。

 って、私たちなんだけどね。

 それを見つけた信長様警護の兵、二人が駆け寄ってきた。



「この兵はどのような?」


 私が誰かは分からずとも、引きつれている兵たちの旗指物から、サルの兵である事は分かっている。

 サルも今となっては織田家の有力軍団長。

 警護の兵もそれほどの警戒心は抱いていない。



「羽柴筑前守が妻、ねね。

 この者たちは私の警護のものです。

 本日は、上様にごあいさつに参りました」

「羽柴殿の?

 しばしお待ちを」


 そう言い残して、一人の兵が駆け足で走り去っていく。



「上様へのお客人はかなり多そうですね」


 和やかな雰囲気で、目の前の兵に声をかける。



「上様のご威光です。

 ご面会を求めるものたちは夜近くまで続くかと」

「そうですか」


 その言葉に思わずにんまり。

 いくら私が会いに来たとて、順番ぬかしはないはず。

 だとすると、私が信長様と言葉を交わすのは夜になってしまい、私が連れて来た者たちと共に、ここに泊まる事になる。

 それが自然な流れ。


 今日の警護は信長様が連れて来た近侍と小姓だけでなく、所司代からも人を出させている。

 そこに私が連れて来た兵も合わせれば、歴史よりも多い数になる。


 戦いが続いている間に、必ず信長様を連れて逃げ出す。

 そんな決意を持っていても、着物に隠された私の足はがくがくと震えだしそうな感じ。

 はっきり言って、怖いよぅ。と言うのが、心の奥の気持ち。

 震えを押えようと足に力を、そして両拳をぎゅっと握って力と、心に気合を込める。


 信長様に私が来ていると告げに言った兵が戻ってきた。



「上様より、しばし命あるまで別室で待てとの仰せゆえ、案内させていただきまする」


 それはきっと夜になるはず。

 思い通り。やったぁ! 的な気分。



「それと、警護の兵は二名で十分。後は引きとらせろとの事」


 はい?

 それはちょっと困っちゃう。

 私の気持ちはジェットコースター。

 一気に急降下。

 とは言え、拒否する訳にもいかない。



「承知いたしました」


 振り返って、兵たちを見た。

 そうは言ったものの、どこに兵たちを引き揚げさせるか。

 万が一、歴史通りになったら。


「たぶん、歴史通りだと思うんだけど」冷静な私のそんな言葉を頭を横に数度振って、振り落とす。

 長浜は危ないし。



「備中に向かいなさい」


 私の警護に二人を残し、他の兵たちをサルの下に送る事にした。


 私の言葉に兵たちが反転し、私の下から離れて行く。

 かちゃりかちゃりと甲冑がすれ合う音。

 ざっざっと言う足音だけが、耳に焼付くのは、私の、いえ、官兵衛の計画の一つが崩れた不安からかも知れない。



「では、こちらへ」


 背後からした声に振り返ると、気合を入れるため大きく一回頷いた。


 城と見比べても、さほどの遜色のない濠に沿って、二人の信長様の警護兵の後をついて行く。

 面会を求める者たちの列の横を通り、本能寺の敷地に入って行った。


 くぐり抜けた門も、厳重な造り。

 その先に広がる境内は広く、緑が生い茂る空間と中国の唐時代を思わせる堂塔、塔頭がこの空間に荘厳な雰囲気を醸し出している。


 なんかイメージと違うよね?

 本能寺の変の戦闘イメージ。

 縁側で弓を構える信長様の10mほど前に壁があり、その向こうにひしめく水色桔梗の旗印。

 壁を乗り越えて来ようとする明智の軍勢を弓矢で倒して行く。

 とてもじゃないけど、そんな感じじゃない。


 やがて、一段と大きな建物にたどり着いた。

 ここが本堂なんだろう。

 それを取り囲む小さな土塀。

 土塀に設けられた門をくぐり抜けると、本堂の前に少しばかりの庭があった。

 これなら、大軍勢と言えど、一気に襲い掛かってこれない。

 本能寺の変のイメージはこれかぁ!と、一人頷く。


 本堂の木でできた階段を上り、縁側に沿って案内された部屋。

 6畳ほどの部屋。

 ふすまから差し込む日差しが柔らかな明るさで、満たしている。


 私の警護につき添った二人の兵は別の部屋。

 たった一人の部屋で、信長様の面会が終るのを待つ。


 暇。暇。暇。

 この時代、一人だと暇なんだよねぇ。

 スマホも無ければ、テレビも無いし。

 当然正座なんてしてらんないので、足を崩して座って待つ。


 部屋に降り注いでいた柔らかな日差しが赤みを帯びてきた頃、ようやく私は呼ばれた。

お気に入り入れて下さった方、ありがとうございました。

日曜にも予約更新設定しました。

よろしくお願いします。

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