時は今!
ついに、本能寺の変が迫ってきて、歴史を裏切り、信長様を救う決断をした佳奈ちゃんが描かれています。
うまく行くのか、歴史の抵抗に遭うのかはまだ先です。
信長様がうつけではなかった。
そして、私と絡み合って歴史を造る。
なんだか、ちょっと嬉しい気分。
「ああ。なんだか絡み合って、男女で作る別のもの作りたい気もするよね」と、頭の中の声に、思わず頷きたくなる。
「どうせなら、歴史狂わしちゃう?」
そんな悪魔のささやきも聞こえてきてしまう。
それには本能寺の変を止めなくちゃね。
元の世界に帰る事より、信長様第一の路線に変わっちゃいそうな私。
「無理でしょ」と、冷静な私が言う。
なんで?
「今までの出来事を思い出せば分かるでしょ」
「そうね。きっと、信長様に本能寺に泊まるなって言っても、泊まるよね。
だったら、私が役者になって、明智光秀を殺っちゃう?」
無理、無理、無理ぃぃぃ。
「じゃあさ、信長様にちくる?」
「信じないんじゃないかな。逆にサルのために、悪口言ってると思われるかも」
それだけはごめん。
なんで私がサルのために、ライバルを蹴落とさなくちゃいけないのよ!
そう思われるだけでも、激しく心外!
そして、時は流れていく。
荒木村重は謀反を起こしたし、家康の長男信康は切腹させられ、鉄甲船の前に毛利の水軍は壊滅し、武田も滅んだ。
近づく本能寺の変。
どうするか、私は決めていた。
それは早すぎても、遅すぎてもいけない。
そして。
時は今!
「それ、光秀のパクリだよね」と言う頭の中の声なんか、気にしない。
サルの軍団が毛利方の高松城を囲んでいる大事な時だと言うのに、黒田官兵衛を姫路に呼び戻した。
広い畳の間。
私の数m先で平伏している官兵衛が面を上げた。
「お方様。
本日の急なお呼び、いかなるご用でありましょうか」
細面、その顔の一部には村重に捕えられ閉じ込められた土牢での約1年の間に患ったと思われる皮膚の病の後がある。
「高松城攻囲はいかがな状況ですか?」
いきなり本題はまずい。まずは、時候の挨拶的に。
「はい。上様が援軍を約束されており、それまでには高松城は落すと、殿は張り切っておられます。
高松城は沼城ゆえ、攻めあぐねましたが、殿がどうして落ちぬのか、どうしてを五回繰り返すと申されましてな」
サルの一つ覚えね。と、頭の中でついつい笑ってしまう私。
「どうして落とせぬのかと申すと、城に取りつく前に多くの兵を失うからであり、
どうして多くの兵を失うのかと申すと、敵の攻撃にさらされるからであり、
どうして敵の攻撃にさらされるのかと申すと、進軍が遅い故であり、
どうして、進軍が遅いのかと申すと、湿地故であり、
どうして湿地なのかと申すと、低地で近くに川があるからである。
と、申されましてな。
川を無くせばいい! と、真顔で申された時は、ちょっと不安になりました」
思わず、がっくししてしまう。
「が、その裏の意味をしかと受け取りましてございまする」
「と、申されますと?」
「長所は欠点にもなりまする。
川を無くすのではなく、川の水を用い、水攻めでございまする。
川を湖にする事で、川を無くしたのでございます」
官兵衛って、マジでサルがそのつもりで言ったと思ってるのかなぁ?
ただ単に、うつけで、マジ川を無くせと言ったと思うんだけど。
でもまあ、とりあえず、歴史どおり。
「で、それはうまくいっているんですか?」
「はい。殿は周辺の村の者どもを使って、見る見る堤を作り上げましてございまする。
殿が申されるには、褒めてくれるなら、金をくれぇぇだそうで、周辺の村々の百姓たちに土嚢を造って、持ってこさせ、それをお金や米と交換したのです。
全くもって、驚きです。
これまでに、人は動くのかと」
官兵衛は心底、感心しているらしく、何度も大きく頷いている。
教えたのは私なんだけどね。
まあ、サルがそれを使うって事は成長の証。
さて、そろそろ本題。
「ふぅぅぅ」
大きく、深呼吸をして、私も心を決める。
歴史を裏切る発言。
「もっと近くへ」
そう言いながら、官兵衛を手招きした。
片足が悪い官兵衛がずりずりと擦るようにして、近づいてきた。
「官兵衛殿。
今から、私が言う事は他言無用です」
小声な事。
そして、私の表情が真剣を通り越して、きっつい表情になっている事で、官兵衛の表情も強ばり気味。
「上様は明智殿をまずは援軍に命じまする」
「明智殿は安土にて、徳川殿の接待役を命じられ、その準備に忙しいかと」
「そのような事知っておる。
徳川殿、ご到着の後、上様はご機嫌を損ね、明智殿を解任され、こちらの援軍を命じなされます」
「どうして、そのような先の事を?」
「そのような事、どうでもいい事です。
信じられなければ、間諜を放っておれば、よろしかろう。
私が話したいのは、そのような事ではのうて、その先の話じゃ」
「その先?」
「明智殿は丹波に帰国後、兵を引きつれ、毛利討伐に向かうと見せかけて、本能寺に宿泊する上様を討伐するおつもりじゃ」
官兵衛が私から距離を空け、顔色を変えて、固まってしまった。
何やら思案気でもあり、きっと私の話の可能性を考えているに違いない。
「しかし、お方様」
さっきまで以上に、私に顔を近づけて、小さな声で言った。
事の重大さが、さらに警戒させているのだろう。
「おつもりとは、どう言う事でござろうか?
先の話、しかも、明智殿のお考え。
何故、そのような事がお分かりで」
「そのような事、説明はできません。
さっきも申したように間諜でも放って、私の言う事が真実になるかどうか、ご自身の手でお調べになってください。
私が言いたいのは、この襲撃を止める手立てを考えてください。
それか、上様をお救いになる手立てを考えてください。
よろしいか」
最後の言葉だけ、力を込めて言うと、今度は私の方から近づけていた顔を離した。
官兵衛が黙って私を見つめている。
私のこの話の真剣さを計っているのかも知んない。
私も、じっと官兵衛を見つめ、真剣さを伝える。
「承知いたしました」
そう言うと、官兵衛が頭を下げた。
「頼みましたよ」
「ははっ」
そう言う官兵衛を残して、私は部屋を去った。
信長様を救う。
その事は歴史への反逆。私はこの世界と元の世界を天秤にかけ、今の世界、いいえ、信長様を選ぶ決心をした。




