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ファースト・コンタクト 伴天連!

 久秀の信貴山城は難なく落ち、北陸で悩まされ続けてきた上杉謙信もこの世を去った。

 信長様(仮)の天下は近づいてきていた。


 サルが播磨に行っている中、私は安土城に招かれていた。

 壮大な敷地。

 安土山の山頂に築かれた天主の最上階は金色に輝き、その下階には朱色の八角堂を有している。

 見上げながら、登る階段。

 天下人への距離を思い知らされる気さえする。


 天下人の力を知らしめるのは、その城の外側からの威容だけではなかった。

 私が招かれた部屋もそうだった。

 池を備えた庭に面した部屋の中は、高価そうな壺、西洋風の椅子に、ワインが注がれたグラスが置かれたテーブル。

 床に敷かれた絨毯も高価そうで、庭の順和風とは対照的に、入り混じった異国情緒満載の部屋に、マントを羽織った信長様が立っている。

 これぞ、信長様!



「ですよねぇ」と、頭の中の私たち全員の意見が一致する。


「ねね。これを知っているか?」


 そう言って、信長様(仮)が持ち出してきたのは地球儀。



「これはの、わしたちが暮らしている世界が描かれておる」

「知ってます!」


 きっぱり言った私の言葉に、信長様(仮)が疑いの目を向けながら言った。



「マジか?

 そなたは面白い事を考えるが、こんな事まで知っておるのか?

 では、日ノ本がどれか分かるか?」

「はい」


 そう言って、私は進み出て、部屋の中央で信長様(仮)が抱えている地球儀に目をやった。

 色が鮮やかでない。

 地形が大ざっぱ。

 なんて事を比べてみても仕方がない。

 これが日本ですかっ! って、言いたいくらいの大ざっぱな島国を指さした。



「これは驚きじゃ。

 ねねはどうして知っておったのじゃ?

 伴天連に教えてもらっておったのか?」

「いえ。伴天連ではありませんが、知っておりました」

「うーむ。

 では、伴天連たちの国の場所は知っておるか?」



 信長様(仮)はまじめな顔つきと言うより、ちょっとニタニタ顔。

 私が答えられないと踏んでいるに違いない。


 そんな信長様(仮)に、ふふふん顔を返すと、右手で地球儀を回した。

 ヨーロッパ。それも、日本と同じで、へろへろな形。

 その先っぽにあるポルトガルを、得意顔で指さした。



「おおぉぉ」


 信長様(仮)が驚き顔で、呻くように言った。



「何だって、知ってますよ」


 そう言いながら、アフリカを差した。

 信長様(仮)が、目を地球儀に近づけた後、私に視線を移した。

 そこが何じゃと言うのか? そう言う表情。



「ここにはね。肌の色が黒い人が住んでるのよ」

「マジの話であるか?」

「あったりまえでしょ。

 伴天連に言ったら、連れてきてくれるわよ」

「であるか。

 で、なぜ、ねねはそのような事も知っておるのじゃ?」

「女子高生だったからですよっ」


 両手の拳を腰あたりにあてて、胸を逸らして威張り気味に言った。



「じょしこうせいとは何じゃ?」

「それは説明面倒ですからっ!

 ただ、伴天連たちより色んな事知ってるはずですよ」

「では、教えてくれるか?

 なぜ我が国の反対に住んでいる者たちは下に落ちぬのじゃ?」


 信長様(仮)が南米あたりを指さして言った。



「全ては地球、つまりこの球体の中心に向かって引っ張られているんです。

 何か書くものあります?」


 私の言葉に、信長様(仮)が顔を振って、来いと言うような仕草をした。

 部屋の奥にあるテーブルを目指して行く信長様(仮)の後を追って行く。

 テーブルの上に信長様(仮)が、白い紙と筆を置いて、私に渡した。


 白い紙の上に、大きめの丸を書いて、その円周に人の形を並べて描いた。



「なんじゃ、それは?」


 私の絵を見て、信長様(仮)が笑いをこらえているかのような声で言った。

 すみませんねぇ。へたくそな絵で!

 ちょっと、ほっぺをふくらませてから、説明を始めた。



「この丸が、この地球ですぅ。

 その周りに色んな国の人がいる訳ですけど、みんなどこの場所にいても、下になるのはこの星 地球なんですぅ。

 そして、この地球にみんな引っ張られているんですぅ」

「引っ張られているのか?」

「そうです。だから、りんごの実も木から下に落ちるんですぅ」

「りんご?」



 信長様(仮)が、なぜにりんご? 的な顔を私に向けている。


「りんごの話は通じんでしょう」と、冷静な私が言う。

 分かってるわよっ!

 自然と出ただけなんだからねっ!



「た、た、たとえですよ。

 この地球のどこにいても、りんごの実は地球に向かって落ちるんですっ!」

「ふうむ。

 確かに木の実は勝手に地上に落ちるし、手に持っている物も離せば、下に落ちるが、それが、どこでも同じと言うのはこの地球自身が引っ張っておるからと言うのじゃな?

 分かったような、分からぬような話じゃな」


 そう言ったかと思うと、信長様(仮)は視線を私から離して、大きな声を上げた。



「伴天連が城内におるはず。呼んでまいれ」


 信長様の言葉に、控えていた男が消えて行った。


 はぃぃぃ? 伴天連呼んできて、何させるつもり?

 そんな不安を抱きながら待っていると、私の背後で声がした。



「お呼びでございましょうか?」


 外国人なまりの日本語に、振り返った。

 そこには、おかっぱ? のような髪型をして、いかにも宣教師風の服装をした一人の異国人と、同じような服装をしたアジア人がいた。



「見てみてよ。これを」


 そう言って、信長様(仮)が私が今書いた絵を伴天連たちに差し出した。



「その絵の中の丸が地球じゃ。

 その地球を取り囲むように描かれているのが、世界の人々じゃ。

 そなたたちは、祖国はもちろん、インドなど世界を回って来たのであろう?

 どの場所でも、人々の下は地球であり、りんごは下に落ちたであろう?」

「はい。左様でございます」

「それはな。この者が申すには、この地球が引っ張っておるからだと申しておるが、いかがじゃ?」


 二人の伴天連が顔を見合わせて、聞いたことの無い言葉で会話を始めた。

 きっとポルトガル語なんだろうけど、私には全く分かんない。

 二人が頷き合ったかと思うと、アジア人の方が話しはじめた。



「その事。紛れも無き事実かと。

 我々は神デウス様がお造りになられたもの。

 その我々が住む世界こそ、全ての中心であり、太陽、月、そして星々も地球の周囲を回っておりまする。

 それはやはり地球に引っ張られているからかと」

「ふむ。その方たちも、地球に引っ張られていると考えるか。

 されば、この考え正しかろう」


 そう言いながら、信長様(仮)が私に目を向けた。



「ですが、今の話、少し間違っております」


 一呼吸置いて、両拳を腰の辺りに宛てて、胸を逸らして言った。


「それでも、地球は回っている!」


 決まった! 得意げな私に、頭の中で冷静な私が言った。


「あんた、いつから戦国時代だけじゃなく、西欧の歴史もパクルようになったのよ!」

評価入れて下さった方、ありがとうございました。

月曜に予約更新設定しましたので、よろしくお願いします。

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