[番外編]佳奈ちゃん呼び戻し計画
今週、お気に入り入れて下さった方、ありがとうございました。
お気に入り100超えしたので、番外編アップします。
本編とは直接関係なく、「歴史が必要とする女子高生? 」の続きで、元の世界で佳奈ちゃんを呼び戻そうとしている人たちを描いています。
これ読むと佳奈ちゃんが戦国時代を離れる時期が分かっちゃいます。
なぜ、そのタイミング? と言うのは明かしていませんけど。
本編とは関係ありませんので興味無ければ、あるいはいつ戻るか知りたくないと言う方は、読み飛ばしてください。
よろしくお願いします。
白く冷たい光に溢れる空間。
窓もなく、外界からは謝絶された空間には異様さが漂っていた。
その一つは、椅子のようなものに座った多くの少女たちは頭にケーブルの付いた不思議なヘルメットのようなものを被っている事。
そして、もう一つはその少女たちがみんな同じ顔と言う事。
クローン。そうとしか言いようがない。
そのクローン少女たちと同じ容姿の一人の少女 有栖川夏帆が、端末に向かっていた。
その横には小早川と言う年配の男性、さらにその横に少女 西野佳織が座って、何やらせわしなく端末を操作していた。
三人の姿をその背後で見守っているのは若い男性 島原伸である。
「これで、全時間のスキャンが完了するはず」
座っている椅子を回転させ、振り返って島原にそう言ったのは有栖川である。
「自分で破壊したくせに、結局スーパーコンピューター”ありす”に頼るんだもんね」
意地悪そうな顔つきで、西野が島原に言った。
「うるさいなぁ。
これは”ありす”であって、”ありす”じゃないだろ!」
「でも、昔に”ありす”システム検証用として、造ったものなんだから、これも”ありす”じゃない!」
「本当の”ありす”はクローン少女たちをカプセルの中に組み込んでいたじゃないか。
今回は彼女たちに協力してもらっているだけなんだよ!」
言い争い気味の二人に、小早川は苦笑いしている。
そして、有栖川はそんな喧騒には一切かかわらず、じっと目の前のモニターを見つめていた。
「Completed」
有栖川のモニターにその文字が表示された。
「結果はもうすぐ表示されるわ。
Y軸が杉原さんをこの時代に呼び戻すために必要なエネルギー、X軸が時間。
ここで言う時間と言うのは、歴史の中の時の事よ」
そう付け加えて、正面にある大きなスクリーンに目を向けた。
100インチ以上はありそうな大画面モニターにグラフが表示され始めた。
グラフの左から一本の線が微妙に上下しながら、描かれて行く。
その位置は原点と思われるグラフの左下より、はるかに上の位置である。
「予想通りとはいえ、いつ杉原さんを呼び戻すにも、かなりのエネルギーが必要だ。
これだけのエネルギーを一気に注ぎ込む事はハードルが高い」
渋い顔つきで言う小早川に、西野がにこりとした笑みを向けた。
「もう前みたいに、システムから煙が出るのはごめんなんだからね」
「これはどう見ても、偶然彼女が戦国時代に飛ばされたと言うものでは無いんじゃないか。
有栖川さんの考えが正しかったと言う事だろう。
彼女の姓が杉原と言うところから言っても、何か関係があるのかも知れない」
小早川が西野の言葉を無視して、有栖川に言った。
「じゃあ、このままにしておくしかないって事か?」
島原がそう言った時、西野が言った。
「無駄口きいてないでさ、グラフ見てよね!」
その言葉に三人の視線がグラフに向かった。
微妙な上下はあったものの、ほとんどグラフの上で推移していた線が一気に垂直に下降して、Y軸の値が0になって停止した。
「杉原さんを連れ戻すエネルギーが0と言う事は、ほっておいても、この時期になると、彼女は戻って来ると言うことか?」
島原が有栖川にたずねた。
有栖川は一度目を伏せ、悲しげな表情をした。
「死んじゃうって訳?」
有栖川の表情を読み取った西野が言った。
「そんな」
絶句気味の島原から、西野が視線を有栖川に向けて言う。
「でも、死んだら戻って来れるって訳?
こっちの世界の体は生きてるんだから、戻ってきたら、そのまま生き返るんじゃないの?」
西野の発想に、島原は自分の考えが短絡過ぎたと思い直し、少し安堵した表情になった。
「たぶんだけど。だめだと思う」
有栖川が首を横に振ると、小早川もそれに賛同した。
「私も有栖川さんの考えと同じだ」
「じゃあ、この世界のこの子はずっとこのまま意識も戻らず、その日に死ぬってのか!」
島原の言葉には怒気がこもっている。
それは安易に人の生死を発言している事へなのか、自分がリセットスイッチを手放した事が遠因であるとの思いから来る自分への責めのためなのかは分からないが。
「それはいつなんだ?」
島原の言葉にはまだ怒気が含まれていた。
「まずは西暦表示にするわ」
有栖川がそう言うとX軸に4ケタの数字が表示され始めた。西暦である。
「1587年だわ」
「伴天連追放の年だが、確か7月のはず。
グラフを見ると、もう少し早い感じだが」
西暦を言った有栖川の言葉に、小早川が応えた。
「じゃあ、九州攻めの途中?」
有栖川が小早川に同意を求めるかのようにたずねた。
「うーん。分からないが、そこを拡大して見せてくれないか?」
小早川の依頼に有栖川が端末を手早く操作すると、大画面モニターにグラフに描かれていた線の急下降する部分が拡大表示された。
合わせて、年月日も詳細表示された。
1587年6月。
「微妙なあたりだな。
だが、ねねがどうして九州攻めで亡くなる必要があるんだ?
そもそも、ねねはもっと長く生きているはずだ」
「だったら、これは間違いだ。
そうだろ?
なっ!」
島原が三人に視線を移動させながら、訴えるように言った。
杉原さんを何とかしたい。
そんな気持ちと、自分の責任と言う感覚が言葉からにじみ出ていた。
「伸君。そんな事言ってないで、落ち着いてみたら?」
「落ち着いてなんかいられないだろ」
「そう人の命やクローンの命に一生懸命な所は好きなんだけどね。
でも、熱くなりすぎると、見えるものも見えなくなるんだよ。知ってる?」
「佳織、何が言いたいんだ?」
島原の言葉にはまだ怒気が残っていた。
「グラフ、よく見てみなよ。
急降下しているところ。真っ逆さまに0になってるんじゃないよ」
「本当だ」
真っ先に反応したのは小早川だった。
元のグラフでは垂直に立ち下がっているかに見えた部分。つまり、ねねが死ぬと言われている部分は拡大画面ではわずかにだが、勾配がついていた。
「つまり、ここを狙えば、彼女をこの時代に連れ戻せるって訳」
少し胸をそらし得意げな表情で、西野が言った。
「さすがに”ありす”が生み出した子は違うわね。
あなたの考え正しいわよ。きっと」
そんな西野に、感心した表情で有栖川が言った。
「じゃあ、そこをきっちり狙って、戻すシステムを考えてよね」
「分かった。そこは私と有栖川さんに任せてくれ」
「”ありす”もでしょ」
小早川の言葉に、西野がそう付け加え、島原に視線を向けて、ふふふんと言う表情を作った。
「と、と、とにかくだ。”ありす”が必要なら、彼女たちに協力してもらってだな」
その言葉に頭にヘルメット上のものを被ったクローン少女たちが、島原に振り向いて、にこりとした。
そんな彼女たちに、両手を合わせて、お願いポーズを島原が返すと、少女たちも頷いて応えた。
「でも、そこで、ねねに何が起きるんだ?」
「それは分かんないわね。
”ありす”の中のデータベースにも何も無いし。
でも、ねねが長生きしている事の謎は一つだけ、仮説があるの」
「なんだ、それは?」
島原が有栖川にたずねた。
「本当のあの時代のねねが戻るって事よ」
ねねが戻る?
そして、その時、ねねに何が起きたのか?
島原伸は、その答えの出ない問いの答えを求めたくて、腕組みをした。




