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北陸戦線離脱

「ねねに、言われたとおりにしただけじゃ。

 マジで大丈夫なんじゃろうな?」


 情けない声を出して、半べそ顔なのは北陸の戦線から、勝家と喧嘩して帰って来たサル。


 歴史通りにするため、サルに勝家にたて突いて、喧嘩して帰って来るように言っていた。


 帰って来たサルに、歴史通り信長様(仮)は激怒して、長浜で謹慎を命じた。そして、今、サルは私と共に岐阜に呼び出されてきていた。


 信長様(仮)を取り巻く状況は歴史通り。

 北陸で激突した織田軍は上杉軍に敗退していたし、裏切りくせのある松永久秀も本願寺の攻囲を離脱し、信貴山城に籠っている。


 広い部屋の真ん中で、狼狽するサルと二人っきりで、信長様(仮)を待つ。



「静かに落ち着いていなさいっ」

「しかしじゃなあ」

「私を信じられないの?」



 サルを睨み付けた瞬間、奥のふすまが開き、信長様(仮)が現れた。

 真っ青な顔で、慌てて平伏したサルに続いて、私も平伏した。



「サルッ!」


 信長様(仮)の声はいつになく厳しい。



「ヒャッ」


 そんな驚きの声を上げて、サルが半歩ほど跳んで後ろに下がった。

 顔を上げて、ちらりと見た信長様(仮)は厳しい顔つきだった。



「よくもわしの命を無視して、引き上げて来おったわ」

「決して、上様の命を無視した訳では」


 震える小さなサルの声。

 サルの声が小さすぎて聞こえなかったのか、そもそも聞く気が無かったのか、信長様(仮)はサルの言葉など無視して、命令した。



「久秀がまた病気をだしおったわ。

 信忠と共に、久秀を片づけてまいれ!」


 言い訳などよいから、働け! そう言う意味。

 サルにもその意味が分かったらしく、その顔に安堵感が浮かんだ



「お、お許し下さると言う事で」


 それでも、まだ怯えが残っているのか、サルの声は震え気味。



「当り前じゃ。

 そちにはまだまだやってもらわねばならぬ事があるでのう」

「ありがとうございまする」

「上様。

 秀吉の上様への忠誠、変わる事はありませぬ」

「うむ。

 サル、励め」


 そう言って、頷いたかと思うと、信長様(仮)は私に目を向けた。



「ところでじゃ、ねねもおるようで、ちょうどよい。

 聞きたい事があるのじゃ」

「なんでございましょうか?」


 にこりとした表情で、信長様(仮)にたずねた。



「久秀ごとき、大した問題ではないが、石山本願寺はしぶとい。

 しかもじゃ、毛利の水軍によって、我が包囲網は打ち破られたわ。

 ねねなら、何か面白い手を考えるのではないかと思うてのう」

「問題解決ですね。

 毛利水軍に勝つための」


 私はそう言いながら、隣のサルを肘でこついた。

 サルが私に目を向けた。


 出番だ! そう言う意図を目くばせをした。



「う、う、上様。

 此度は毛利の村上水軍との決戦におきまして、我が方の水軍の多くの船が焼かれたと聞いておりまする」

「うむ。そうじゃ」

「そこで、問題解決のため、どうして? を五回繰り返していきまする」

「なんじゃ、それは?」

「はい。ねねに教えられたものにございまする」

「ほう。やってみせろ」

「ははぁ。では」

「どうして、我が水軍の船が敗れたのかと申しますと、燃やされたからにございまする。

 どうして燃えたのかと申しますると、木でできていたからにございまする。

 どうして木でできていたのかと申しますると、水に浮くからにございまする。

 どうして水に浮くのかと申しますると、木でできているからにございまする。

 あれぇ? 元に戻ってしもうたわ。

 解決すべき問題はなんじゃったかのう?」


 行き詰ってしまったサルが困惑顔で、私を見た。



「はぁぁぁ」


 私はため息をついてしまった。



「無理しなくていいのよ。

 木でできているから、燃えちゃうのよ。

 それだけ解決すればいいのよ」

「なんじゃそれは?

 わしには4回で終わったとか、色々言うくせに」

「サル。黙っておれ」



 信長様(仮)は一喝でサルを黙り込ませると、私に視線を向けた。



「ねね。

 これではまるで、天下布武ではのうて、そちたちが喧嘩夫婦じゃのう」



 そう言って大笑いする信長様(仮)。

 私たちは仮面夫婦ですぅ。と口先を尖らせて言いたいけど、そんな訳にもいかない。



「それよりも、毛利水軍の件ですが」


 サルとの夫婦の話は避けたくて、話題を変えるため、さっさと本題に入ろうとした。



「うむ。申してみよ」

「燃えない材質で造ればいいんですよ」

「ねねは簡単に言うのぅ」

「水に浮く物と浮かない物の差は何だと思います?」



 私の問いに、思案気な信長様(仮)。

 すぐに答えそうにない信長様(仮)と、私の間をきょろきょろと視線移動させていたサルが、口を開いた。



「ねね。それは重いか、軽いかじゃろ」


 胸を逸らして、威張り気味。



「サルでは、なぜ小石は沈む?」

「へっ!

 そ、そ、それは」 



 サルは小首を傾げて、黙り込んだ。



「同じ大きさにしてみよ。

 木の方が軽いに決まっておろう」


 おお。やっぱ、この人、うつけじゃないんだ。

 みんなだから、この人についてきたんじゃないの?

「だったら、どうして、私の前ではあんなにうつけな事ばかり言ってたの?」と、冷静な私が言う。

 そうなのよねえ。

 その謎さえ解ければ、(仮)が外れるんだけどねぇ。

 なんて思っている間にも、信長様(仮)の言葉は続いていた。



「どこかに境目があるはずじゃが、それが分かったとて、水に浮き、火に燃えないものがあるのか?」

「その境目は水より重いか、軽いかです。

 そして、鉄だって浮きます。それは」



 話を続けようとする私に、信長様(仮)は手を差し出して、私に話を止めろと言うような仕草をした。



「塊でなければいいのであろう?

 じゃがな、水が入らないように一枚の鉄で大きな物を造る技術はない。

 木の船の周囲に鉄で囲むがも限界であろうな。

 ねね。どうじゃ、これなら火矢にも沈まぬ船が造れるか?」

「はい。間違いなく」


 この切れ。紛れも無く、うつけではないとしか言いようがない。

 だったら、私の前ではうつけぶっていた?

 どうして、そんな事をしていたのか?

 その理由を聞きたい。

 それさえ聞けたら、(仮)がとれるのに……。



「うむ。では早速とりかかろう。

 サル、その方もさっさと久秀を片づけてまいれ」

「ははぁ」


 信長様(仮)の言葉にサルと私は平伏した。



「大義」


 信長様(仮)はそう言い残して、去って行った。

金曜の夜にも予約投稿しました。

よろしくお願いします。

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