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鉄砲の三段撃ち

 私がこの世界にいる事が、本当の歴史。

 そんな思いたくもない事を考えずにいられないこの状況。

 私の心は整理がつかず、視線は彷徨い気味。

 そんな私を見て、うつけの殿が言った。



「どうした、ねね。

 うつけのような顔をしおって」



 うつけに、うつけと言われるなんて!

 顔を何度か横に振って、気合を入れなおした。



「いえ、別に」


 きりりとした顔で、うつけの殿に返した。

 これなら、うつけと言えないでしょっ!


「安心せい。折檻と申しても、ひどい事はせぬゆえな。

 ちいとばかし、脅してやるまでじゃ」


 そう言って、一人頷くうつけの殿の声は、まじで天下人っぽい威厳がある気がしてしまう。


「中身はうつけなんだよぅ」と、冷静な私がうつけの殿の真の姿を見れるよう、私を落ち着かせるために言った。

 そう、うつけのはずなんだけどねぇ。


 なんて思っていると、うつけの殿が真剣な顔つきで、私をじっと見つめている事に気付いた。

 朝ごはんのご飯粒が顔についている訳じゃないだろうしと思いつつ、とりあえずり手で自分の顔を触って確かめてみる。

 やっぱ何もついていない。



「何でしょうか?」


 小首を傾げながら、たずねてみた。



「ふむ。武田が動き出してのう」


 その言葉に私の頭が動き出した。


「長篠の合戦?」

「鉄砲はこの人、集めてたわよね?」

「でも、三段撃ちって、訓練いるんじゃないの?」と言った冷静な私の言葉に、ちょっと顔が引き攣った。

 い、い、今から訓練して、間に合うの?



「ははははは」


 戸惑い気味の私に、うつけの殿が笑いはじめた。



「義昭と、将軍を呼び捨てする女子おなごも、武田の騎馬隊は怖いのか?」



 何だか誤解してるしぃ。

 それに、また呼び捨てした話?

 この人、しつこいところが問題よ。


「でもさ。

 信長様も忘れた頃に、昔の事を持ち出して、佐久間信盛や林通勝を追放したじゃん」と、別の私が言った。

 またあ?

 悪いとこばっか、信長様似なの?


 もっとかっこいいところも似てほしいものよっ!

 武田の騎馬隊など、蹴散らしてくれるわ! 的な言葉でも聞いてみたい。

 て言うか、怖がってそうな雰囲気。



「信長様は武田の騎馬隊、怖くないんですかぁ?」


 とりあえず、うつけの殿がどう思っているのか、うんざり気味の声で聞いてみた。



「そこが問題じゃ。

 ねね。何か良い手は無いかのう?」


 やっぱ、怖いのね。

 しかも、考えは無しなのね。


 いいところの担当は私。

 悪いとこは歴史通り、うつけの殿が信長様を担当。


 私の頭の中に、二人羽織している姿が浮かんだ。

 表に出ているのはうつけの殿。その背後から、私が。


 そんな事したら、胸がうつけの殿に背中に引っ付いちゃうじゃない!

 顔を左右に振って、そんなイメージを頭の中から、振り落とす。

 答えはこれよっ!



「武田の騎馬隊に鉄砲玉の雨を降らすんですよ」


 人差し指を突き出した右手をうつけの殿に向けながら、ぶんぶん上下に振り回して言った。


 そう言ってみても、今から訓練して間に合うの?

 そこに私の思考が戻る。


 うつけの殿は右手で顎のあたりをさすりながら、何か考え事をしている。



「じゃが、ねね」

「はい」


 真剣な顔つきで答えはしたけど、うつけの殿はきっととんでもない事を言うに違いない。

 どんな言葉が返って来ても、驚かいないぞっ!

 そんな決意で身構えた私に、期待を裏切らない言葉が耳に届いた。



「いかな者を使った祈祷でも、鉄砲玉の雨を降らすのは難しいのではあるまいか」



 身構えていなければ、きっと前につんのめりそうになったはず。



「は、ははは」


 短い笑いだけで返す余裕さえある私。

 成長したもんだね。と、自分をほめずにいられない。

 笑顔から、マジな顔に表情をチェンジ!


「そんな訳ないでしょ。

 いいですかっ!」


 うつけの殿に向けた人差し指を突き出した右手を、さらに激しく上下に振り回して言った。



「鉄砲隊を三組に分けて、順番に撃って行くんですっ。

 敵に鉄砲の玉が止む間もなく、襲うように。そう、雨のようにですっ!」

「それはマジで、騎馬隊に有効だと考えるか?」


 りりしい顔つきで私にたずねるうつけの殿に、頷いて返した。



「ねね。ついてまいれ」


 うつけの殿はにんまりとしたかと思うと、そう言って立ち上がった。



「どちらに」

「ついて来れば分かる」


 立ち上がろうとしている私に、振り返ってそう言った。


 うつけの殿の後を数m遅れて歩いて行く。

 木でできた廊下の左手は開けた中庭。

 私の世界の京都の寺院の庭のよう。

 時々すれ違ううつけの殿の家臣たちが、うつけの殿に頭を下げて行く。

 そして、私の事を、この人は何者? 的なまなざしを向けながらも、一応頭を下げて行くので、私も頭を下げ返す。


 幾度かの廊下の角を曲がった時だった。

 広い空間が目に入った。

 庭園の庭ではなく、ただの空き地っぽい。

 が、すぐにその場所の意味が分かった。


 広い空間の奥にある壁の手前には多くの盾のようなものが置かれていて、その手前にはいくつものまとと思われるものが設けられている。

 ここは射撃の訓練場に違いない。


 うつけの殿の登場に、一人の男の人が走り寄り、地面に片膝ついて頭を下げている。



「長秀に兵を連れてまいるように言え」

「はっ」


 うつけの殿の言葉に、頭を下げていた男が立ちあがり、片隅に消えて行った。



「ねね。面白い事をいつも教えてもらっておるでの。

 面白いものを見せてやろう」


 うつけの殿がきりりとした顔つきで言った。

 も、も、もしかして、鉄砲の三段撃ち?


「何言ってるのよ。

 いつも期待を裏切られてるし、さっきも裏切られたばかりじゃない」と、冷静な私が言った。


 全く、そのとおり。

 今度はどんな呆れた事をやってくれるのか?

 そう身構えていると、鉄砲隊を引きつれて、長秀が現れた。

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