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羽柴筑前守秀吉

 私に否定された新しい姓。

 それを半兵衛に賛同されて、サルは勝ち誇っている。


 私に向けた顔は、ふふふんと得意げだ。

 怖っ! 

 どんな顔しても、怖っ! って、感じなんだと、今さらだけど、気付いた。

 そんな顔を半兵衛に向けて、サルが言った。



「であろう?」

「はい」



 半兵衛は軽い笑みを浮かべて、そう言ったかと思うと、視線を私に向けた。



「して、お方様には別のお考えがおありなのですね?

 どのような姓をお考えで?」


 さすが切れ者、半兵衛。

 話のいきさつから、私に別の考えありと読み取っているらしい。

 半兵衛の言葉に、サルはふふん顔を私に向けて言った。



「ねね。考えがあるのか?

 あるのなら、半兵衛に申してみよ」


 サルのくせに強気で、上から目線じゃない!

 半兵衛が味方に付いたから、調子に乗ってるに違いない。

 ぷんぷん気分を通り越して、むかむか気分!



「羽柴に決まってるじゃない!」

「なんじゃ? それは?

 さような姓はこの日本ひのもとで、聞いたことなど無いわ」


 そう言って、サルは笑い出し始めた。

 いつの間にか、サルに馬鹿にされるようになっちゃってるじゃない!

 むかむか気分もMAX。



「あったりまえでしょ。

 私が作ったのよ!」

「えぇー。嘘は行けないよ。

 歴史からのパクリでしょ」と、頭の中で、真面目な私が言った。

 そんな事はどうでもいいのっ!

 頭の中の別の私自身にも、怒りの矛先を向けながら、両腕を胸の辺りで組んで、サルを睨み付けた。



「ほほぉ。これはまた」


 半兵衛がそう言って、右手で顎のあたりをさすり始めた。

 切れ者の半兵衛。音だけで、漢字も読み取ったに違いない。



「なんじゃ、半兵衛。

 わしの木上の方がよいであろう?

 違うか?」


 ちょっとサルの表情に焦りが浮かんでいる。

 きっと、逆転されるのを恐れているに違いない。


「はい。木上はよき姓かと」


 半兵衛の言葉に安堵したのか、サルがまた得意げな表情を私に向けた。怖っ!

 普通の時のサルの顔の方がまだましっ!



「されど」


 来たぁぁぁ! 私の頭の中には、半兵衛の後に続く言葉が浮かんだ。

 私の勝ち。

「いや、単に歴史どおりなだけでしょ」と、別の私が頭の中で突っ込んでくる。

 半兵衛の言葉の意味はサルにも通じたらしい。

 サルの表情から、余裕が消え失せた。

 

「な、な、何じゃ? 半兵衛、申してみよ」

「はい。羽柴。

 これは織田家の丹羽殿と柴田殿から、一文字ずついただいた姓でありましょう」


 半兵衛がそう言って、私に視線を向けたので、頷いて返した。


「ご両名にあやかりたいと申して、一文字ずつ拝借いたしました。と申されれば、ご両名も、文句も言いにくいでありましょう」

「そ、そ、そう言う事か。

 されど、わしはあの二人の事など気にしてはおらぬ」


 半兵衛に言われても、譲らないぞ! と言う顔つきを私に向けている。



「しかもでござる」


 半兵衛がまだ話を続けようとしているので、サルは視線を私から、半兵衛に戻した。

 何が続くのか? とちょっと不安げ。


「この姓にはもう一つの意味がございまするのでは?」


 来たぁぁぁぁ! その言葉に私の目が見開いた。

「おお! さすがは半兵衛殿」

「気付いちゃったの? 流石だね」

「切れ者は、やっぱ違うわぁ」


 頭の中の色んな私が半兵衛を絶賛し始めた。



「さすがは半兵衛殿」


 そう言って、頷き返した。



「殿は浅井の旧領を任されましたが、なぜだと思われます?」

「それは決まっておろう。

 墨俣築城から始まってじゃな」


 それ、知恵授けたの私なんだけど!



「稲葉山城を落すのも、此度の小谷城を落すのも」


 それ、半兵衛の手柄でしょっ!



「功があったからじゃ」


 サルが胸を逸らしている。

 どれも、あんたが一人でやった事じゃないじゃない!

 私の口先が尖がった。



「さようでございます。

 さればこそ、丹羽殿、柴田殿を差し置いて、この北近江を任せられたのでございます」


 来たぁぁぁ! やっぱ、半兵衛はもう一つの意味を読み取っている。



「なんじゃ?」


 一方のサルはサル。

 半兵衛が言わんとしている事をまだ分かっていない。



「二人がかりでようやく、殿と互角と言う意味もありかと」



 サルの目が大きく開いた。


「マジなのか? ねね」

「左様でございまする」

「即採用じゃ。

 わしの姓は羽柴にする」


 そう言うと、サルは大笑いしながら、半兵衛の横を通って姿を消して行った。

 サルを見送る私に、半兵衛が相変わらず真面目な顔つきで言った。


「さすがはお方様でございまする。

 羽柴とは。

 この裏の意味、あのお二人ではお気づきになりますまい」


 まずは歴史通りに行きそう。

 これも半兵衛のおかげ。



「ありがとうございました」


 軽く頭を下げて、私は引き返して行った。




 結局、サルは羽柴筑前守秀吉となり、今浜に城を造りはじめ、地名を長浜と改称させた。


 そして、サルは名家である京極の血を引く娘を側室にした。

 その事は私にとっては、よくない事だった。

水曜7時の定期更新です。

今週も、よろしくお願いします。

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