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ファースト・コンタクト 尾張のおおうつけ!

 外は舗装された道じゃなかった。

 土の未舗装の道。

 見た事もないぼろい建物が並ぶ街並み。

 道行く人たちも、見知った服装ではなく、大河ドラマの中の服装。


 ドラマの中に飛び込んだの?

 そんな生易しいものじゃない事は、容姿がドラマの中の方が格段にこぎれいであって、目の前の人たちはもっと薄汚れているし、近づけば臭いを感じずにいられない事が物語っている。


 何が何だか分からない。

 どうすればいいのか? どこに行けばいいのかも分からない。

 あても無く、駆けていると、さっきの場所に戻る方法も分からなくなってきた。


 泣きたくなってしまう。

 見た目は子供、頭脳は高校生。

 どこかで聞いたようなフレーズをもじった言葉が脳裏によぎる。そんな余裕もないのに。

 子供じゃないんだから、泣いたって問題が解決する訳も無い事くらい分かっている。


 とりあえず立ち止まって、周りを見渡してみる。

 行きかう人たちの中に、私に視線を向けて行く人たちもいる。

 きっと、半べそをこらえている私の顔を見て、「何だ?」と思っているに違いない。


 まったくもって、打つ手なし。

 本当に泣きわめきそうになってしまう。

 そんな時、辺りにざわめきが起きた。


 ざわめきの先に目を向けた。

 立派そうな黒い馬。

 馬に詳しくないけど、このあたりにいる人たちより、こぎれいで覇気をまとっている風でさえある顔立ち。


 そして、その馬にまたがっているのは、天に向かってそそり立つ、血管を浮かび上がらせたマツタケ。

 いや、マツタケに血管なんてない。

 それはまさしく男の人のおち○ちん。

 じゃなくて、その「なに」を描いたかたびらを着て、馬に後ろ向きに座っている謎の男。


 小汚さは茶筅つぶりの髪のてっぺんから、つま先まで行き渡っている。

 腰にはひょうたんに謎の袋がぶらぶら。



「尾張の大うつけ。信長様ぁ!」

 そんな時代だとは思っていたけど、まさか戦国時代に来ていたなんて。

 これは罰ではなく、私へのご褒美?

 信長様を直接見れるなんて。


 さっきまでの沈み込んだ気分から、一気に高揚した私の気分はまさにジェットコースター。

 近づいてい来る信長様をわくわく気分で待つ私。

 サイン、もらおうかな? なんて、私の気分をぶち壊す声が聞こえてきた。



「あれじゃあ、この国ももたんわ」

「大殿亡き後、あとを継いだのがあれではのう」



 はあ? 何言ってんの? こいつら。無知、無知、無知すぎる。

 信長様は世を偽ってんのよ。

 そんな気持ちが声に出てしまった。



「あんたらねぇ」



 近くで信長様の悪口を言っていた男たちが、きょとんとした顔で私を見た。



「信長様はね。天下統一をされるお方なのよ。

 ばかにしないでよね。ふん!」



 腰に手を当て、男たちを見上げるようにのけぞり気味にいばってみた。

 正確には天下統一にはいたらないけど、まあ、天下統一よ。


 は! もしかして、私が本能寺の変を防げば、信長様は本当に天下統一するかも。

 そう思うと、なんだかますます気分が高まって来る。



「は、は、ははは。

 この子はどこの娘っ子じゃ? 

 かわいそうに頭がいかれておるようじゃ」

「はい? 私は事実を言っているのよ。事実を」



 そう事実。私が習った歴史の中では。

 大体、私の頭がいかれてるって?



「あんたたちなんかより、私の方がずぅぅぅぅっと賢いんだからね!」

「ほほほぉ。お前の方が賢いって? こりゃあ、面白い」



 そう言って、男たちはげたげたと笑い始めた。

 どうやって、へこましてやろうか?

 今の状況をすっかり忘れてしまうくらい、めらめらと燃え上がった怒りに身を包みこんでしまった。



「ふん。じゃあこれ分かる?」



 そこまで言ってから、どんな問題を出してやろうかと考え始めた。


 フレミングの法則。

 待って。それには電気を説明しなければ。それに磁界も。

 この時代の人間相手には、無理だ。


 三角関数。

 は! 待って、電卓かパソコンでもなければ、計算できないよ。

 何、何、何? ささっと、問題が思い浮かばないなんて、やっぱ私ってばか?

 そう思って頭を抱えて俯いた時、頭の上から声がした。



「ねね殿、どうなされました?」



 信長様だ! そう思った私は満面の笑みで目を煌めかせながら、見上げた。

 あれ? 違った?

 せっかく信長様に見せようと思って浮かべた笑顔だと言うのに、馬上の信長様は明後日の方向を見ていて、私に視線を向けているのは信長様の馬の轡をとっている小さな男だった。


 誰、こいつ?

 顔はサル!

 秀吉だ。いや、まだ藤吉郎。


 気が動転していて、思考のまな板の上に乗せるのを忘れていたけど、さっきあの家でも「ねね」と呼ばれた。

 そして、今もサルに「ねね」と呼ばれた。


 私はもしかして、このサルの妻になる「ねね」? 北政所?

 私は秀吉と家康は好きじゃない。



「あぁぁぁ」



 私の気持ちはジェットコースター。

 再び急降下。

 その威力の前に、情けない声を上げながら、私は意識を失ってしまった。

 お気に入り、入れてくださった方、ありがとうございました。

 水曜更新予定早めて、今日も更新しました。

 よろしくお願いします。

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