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墨俣築城

「じゃが、かかるんじゃから、仕方あるまい」



 私の不満目いっぱいの表情に、サルは気づいていないのか、平然と反論してきた。

 全く譲る気は無さ気。

 私の口調もきつくなる。


「だから、どうして時間がかかるのよっ!」

「そう簡単にできるもんじゃないんじゃ」

「だから、どうして簡単にはできないのよっ!」

「ねねは知らんのかも知れんが、やらなきゃいけない事が多すぎるんじゃ」

「ふぅぅぅぅ」



 サルの言葉に私が大きく息を吐き出した。

 そして、すぐに深く息を吸い込んで、気持ちを落ち着かせた。



「いい!」



 サルに向けて、突き出した右手の人差し指を数回、縦に振りながら言った。 



「そうよ。それが問題なんじゃない。

 でしょ?

 解決するには、やらなきゃいけない事を減らせばいいのよ」



 サルの口がぽかんと開いた。

 そして、目が大きく見開いたかと思うと、サルが左の手のひらの上を、右の拳で“ポン!”と叩いた。


「なるほどぉ」 

「分かったぁ?」



 頷いているサルに、少し安堵感と期待を抱きながら、たずねた。



「すべき事を減らす。

 つまり、手抜きと言う訳じゃな」



 がっくしな答え。

 思わず背中の筋肉が一気に消滅したかのように力を失い、私の体は前のめりになって、倒れそうになった。


 サルは所詮サル。

 さらに不機嫌そうな口調になってしまう。



「あんたねぇ。手を抜いてどうするのよ。

 そんな城、役に立たないんじゃないの?」



 今度は腕組みして、サルにきっつい視線を向けながら言った。



「じゃあ、どうしろと言うんじゃ?」

「何も、全部そこで造らなくてもいいでしょ」



 私の言葉に、サルが左の手のひらの上を右の拳でぽんと叩いた。



「別の場所で造って、運び込むのかぁ」



 やっと気づいたか! と、私がうんうんと頷く。



「じゃが、ねね。運ぶと言うのはちと大変じゃぞ」



 その答えは簡単よ。

 上流から川を使って流すのよ。

 そう言おうとした時、もっとひどい事をサルが言った。



「城を運ぶとなると、一体何人必要となるやら。

 それにじゃ、城が通れるような街道は無い。家々を潰して進まねば」

「はい?」



 目を点にして、サルを見つめる。

 サルは冗談で言っているのではなさげ。

 真剣な目で、思案顔。



「ねね、じゃと思わんか?」

「思いませんっ!

 どうして、完成させたものを運び込む必要があるんですか!

 ある程度作り上げたものを墨俣に送り込んで、そこで仕上げの組み立てをするんじゃない!!」



 私のぷんぷん気分はMAX。



「いいですかっ!

 木でできているんですから、水に浮くんです。

 稲葉山よりも上流の山で木を伐採して、そこである程度組み立てたものを、長良川に流して運ぶんですっ!

 それを墨俣で回収して、ささっと柵と櫓を組み上げるのぉ!

 城を囲む柵と櫓を完成させれば、敵も簡単には攻め寄せる事ができません」

「おおっ。流石はねねじゃ。

 それはいい考えかも知れん」

「かもじゃありません。これで成功です。

 蜂須賀殿と語らって、ぜひご成功をおおさめください」

「いつも頼りにしておるぞ、ねね」



 その言葉に、引き攣り笑いで答える私。


 そして、サルは見事にやってのけた。

 まあ、歴史通りなだけだけどね。


 柵と櫓を完成されてしまえば、美濃勢も簡単には攻めれない。

 外敵を遮断した後、内部の建物にとりかかる。

 そして、出来上がったのが世に言う墨俣の一夜城。

 おかげでサルは加増され、墨俣城の番を任され、蜂須賀小六も正式に召し抱えられた。




 そんな折、稲葉山城で異変が起きた。

 わずかな手勢を率いた竹中半兵衛に、城主 斎藤龍興は追い出され、城を乗っ取られた。


 それを知ったうつけの殿から、城との引き換えに美濃半国の誘いがあった。

 早っ! しかも、歴史通り。

 普段のうつけっぷりから考えると、その速さはちょっと信じらんなぁいと言うのが、正直なところ。


 私は半兵衛がどうするのか、それが気になって仕方なかった。

 歴史では、それを断り、龍興に城を返して、隠遁してしまう。

 もし、この世界の半兵衛が欲深だったら、この誘いにだって乗ってしまいかねない。


 でも、それは要らない心配だった。

 竹中半兵衛は私の知っている歴史通り、うつけの殿の申し出を断り、龍興に城を返してしまった。

 その話に私は胸をなでおろした。


 竹中半兵衛。

 歴史通りの人物。これなら、あとの事は任せられる。

 この人までうつけだったり、野心満々な人だったら、私の未来は真っ暗闇だった。


 いやいや、あっさりとうつけの殿の申し出を断ったのは、うつけぶりを考えたら、うつけの殿に従いたくなかっただけかも。

 なんて、湧いて出てくる不安な考えをぐっと抑え込み、半兵衛を信じる私。


 そして、サルは私の言い付け、じゃなくて進言を取り入れて、その竹中半兵衛を口説き落として、味方にした。


 サルのどこに魅力が?

 いえ、そうでなくては困るんだけど。

 サルのぼけ加減が、何か人をたらしこむ魅力なのかなぁ?

と、半兵衛がサルについたと言う話を聞きながら、私は首を傾げた。

火曜日にも予約投稿しました。

よろしくお願いします。

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