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ふふふん! なサル

 サルによる墨俣築城。

 その考えを私に断られたうつけの殿は佐久間信盛に命じたらしい。

 そして、歴史通り失敗し、次に命じられたのは柴田勝家。


 順調じゃん!

 その内、勝家が失敗した次はサルの番。

 そう思っていた時、私はお市さまに呼び出された。


 鮮やかな色の着物に身を包み、にこやかな笑みを私に向けるお市さま。

 いつ見ても、華麗と言う言葉が似合っていそう。

 美人だって話だったけど、歴史は嘘をついていない。

 

 

「ねね。そちに相談があるのじゃ」



 そりゃあ、そうでしょ。

 呼び出したんだから。

 そんな思いは隠して、平伏してみせる。



「はははぁ」



 ここはいつもまだ気楽。きれいな畳だし。

 そう言いながらも、墨俣の事だったら、嫌だなぁと言うのが正直な感想。

 まだ柴田勝家は行動を起こしてすらいない。

 サルになんて事になったら、困ってしまう。


「そりゃあ、無いっしょ。この人、サル嫌いだし」

「そうそう。サルに嫁いだ私を呼び出すだけでも、驚きなのにねぇぇ」


と、頭の中で色々な私が言う。

 そっかぁ。そうだよね。と、少し気分が軽くなった。



「聞いておるかも知れぬが、今当家は三河の松平元康殿との関係に揺らいでおる」


 それか! で、私に何の相談だと言うの?


「当家では、松平元康を討つべしと言う意見と、取り込むべしと言う意見に分かれておっての。兄上はまだ迷うておられるようじゃ」

「はい。で?」

「私には考えがあるのじゃが、兄上を説く前に、そなたの意見も聞いてみたいと思うてのう。

 いかがじゃ?」



 私の答えは決まっている。同盟。それが歴史の正しい姿。



「はい。三河の松平殿とは同盟すべきかと」

「なぜそう思う?」

「元康殿は幼き頃、尾張で人質状態になり、信長様とはその頃よりの仲のはず。

 一度、結びつけば、信頼できる間柄と推察いたします。

 となれば、同盟により背後を突かれる可能性は無くなり、京をめざす事も可能と思われます」



 私がそう言い終えた時、お市さまは手にしていた閉じた扇子で、ぽんと右ひざのあたりを叩いた。



「京か。

 大きくでたのう。ねね

 そこまでは考えていなかったわ。

 じゃが、思いは同じようじゃ。

 ねね。私の思いは確信に変わった。兄上に、同盟を勧めることとする。

 兄上には、ねねの考えも同じじゃと申し添えておくが、よいな?」

「もちろんでございます」



 そう言って、平伏している私をおいて、お市さまは部屋を出て行った。


 結局、歴史通り、うつけの殿は松平元康と同盟を結んだ。

 そして、柴田勝家も墨俣築城を失敗した。

 敗走してくる勝家の兵たちの姿に、清州の街が揺れた。

 その姿を目に、明日にでもうつけの殿に、サルに墨俣築城を命じるよう言わなければ。

 そう思った日の夕闇迫るサルと暮らしている薄暗い部屋。


 油で灯した明かり一つでは部屋の中は、迫りくる闇に勝てない。

 もっと、明かりをと思っても、この家の家計ではそれもままならない。

 スイッチ一つで電気の明かりがすぐ灯る生活が、どんなに便利だった事か。

 いや、照明だけじゃない。家電製品の全てが、便利。

 昭和のいつの時代だったか、家電製品が三種の神器と呼ばれた時代があったと聞くけど、まさしくそのとおり。

 電化された便利な生活。

 失って初めて分かるありがたさ。


 そんな部屋で、サルが戻って来るのを待っている。

 いえ、正直なところ、戻って来なくてもいいんだけど。


 薄暗い部屋で、何もする事無く座っていると、すーっと、意識が眠りに吸い込まれていく。



「ねね。大変じゃあ」



 睡魔の魔力で、こくり、こくりとした時、サルの声が私を現実の世界に引き戻した。



「何がぁ?」



 眠りかけていたところを起こされたと言う少しの不快感と、元々のサルに対する感情から、不機嫌そうな声を上げて、目をこすりながら、サルの方を見た。


 玄関から駆け上がって来る。

 その勢いに、家の床の板がどたどた、ぎしぎしと悲鳴にも似た音を上げた。



「殿より、墨俣築城を命じられてしもうた」



 薄暗さがサルの表情を隠しているけど、その声は震えていて、きっと真っ青になっている気がしてしまう。

 そんなサルとは逆に、私は「よっしゃあ」と、心の中でガッツポーズをした。


「ちょっと待って!」と、頭の中で冷静な私が、興奮しかけていた私に言った。

「なんで、うつけの殿はサルに命じた訳?」

 一度断ったけど、元々はサルにさせたかった訳でしょ?

「そうじゃなくて、なんで歴史通り、勝家の次なのかって事よ。

 元々はうつけの殿に、サルにやらせましょうと言いに行こうとしてた訳でしょ」

 そうよ。でないと、歴史が狂うじゃん。

「でも、そんな事しなくても、歴史通りだった」

 何が言いたいのよ!

「つまり、やっぱ歴史は私とうつけの殿の行動が絡み合ってできてるって事」

 意味分かんないですけどぉ。

 私ははっきりと言いたがらない冷静な私に不満を表した。

「はっきり言うと、私は歴史を修復に来たんじゃなくて、やっぱ歴史の一部に元々組み込まれているんじゃないかって事よ!

 私とうつけの殿の動きが絡み合って、正しい歴史になってんじゃないかなぁ?」


 私の頭の中に、この世界に来たころに見た幻のような光景がよみがえってきた。

 有栖川って子の言葉の意味を、佳織って子が島原伸君に伝えた言葉。


「有栖川さんが言おうとしているのは、これが本来の時間の流れなんじゃないかって事」


 えーーーっ!

 何それぇぇぇ。

 じゃあ、じゃあ、じゃあさ、本当に私が歴史に組み込まれているんだとしたら、もしかしたら私はこのまま帰れないって事もあるの?


「かもね」

 かもねじゃないよぅ。

 目の前にサルがいる事も忘れて、私の頭の中は論争状態。



「ねね。どうすればいいんじゃ?」


 自分の事を考える事で精いっぱいの思考回路を邪魔され、私は一瞬むっとした。


「うるさいわね! 今はそれどころじゃないのっ!」 って、言おうとしたけど、答えの出ない問いの答え探しと言う無限ループに入っても、何の益も無い。

 それより、サルの墨俣築城を成功させる事の方が大事と言う事が思い留めさせた。



「あのね。どうすればいいかと言うと」



 そこまで言った時、冷静な私が待ったをかけた。



「教えちゃったら、だめなんじゃないかなぁ?

 自分で考えさせないと」と言った、冷静な私の意見を即採用。

 一人頷くと、サルに質問した。



「どうして、失敗してるんだと思うかな?」

「美濃勢が攻めて来るからじゃろ?」

「どうして、攻めてくるのかな?」

「あんなところに出城を造られたら、困るからに決まっとろうが」

「うーん。相手に原因を求めてもさ、こっちは何もできない訳だから、こっちの原因を考えてみてよ。

 5回Whyを繰り返すのよ」

「ほわい?」

「ごめん。どうしてを繰り返してみて」

「どうして失敗するのかと言うと、造っている間に敵が攻めてくるから。

 どうして造っている間に敵が攻めてくるのかと言うと、敵が攻めて来るまでの間に出城を完成できていないからじゃ。

 どうしてそうなるかと言うと、出城を作るには時間がかかるからじゃ。

 どうして時間がかかるのかと言うと、かかるもんだからじゃ」



 サルが得意げに、そう言い終えると、私を見た。

 薄暗い部屋の中、なんだか「ふふふん!」と、威張っている風でもある。



「4回で終わっちゃってるし、かかるもんはかかるじゃ、解決になんないしぃ」


 口先を尖らせて、不機嫌さを目いっぱい現して言ってみた。

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