見た目は大人、頭脳は子供?
美濃は斎藤義龍が亡くなり、子の龍興が継いでいた。
うつけの殿はなぜだか、歴史通り美濃に執着し、ここぞとばかり侵攻を企てはしたが、見事なまでに叩きのめされ、サルもぼろぼろになって帰って来た。
話を聞けば、稲葉山城に迫ったところで、美濃勢の伏兵に襲われたらしい。
撤退。
その途中も伏兵、伏兵、伏兵。
散々な目に遭って、尾張勢は逃げ帰ってきたらしい。
これは竹中半兵衛が仕掛けた十面埋伏の陣だ。
歴史通り、竹中半兵衛は切れ者。そう感じた。
「だったら、だったらさぁ。半兵衛を家臣にしてしまえば、もう帰れるんじゃない?」と、頭の中で、一番気の早そうな私が言った。
思わず、「私もそれに一票」と、頭の中で叫ぶ。
半兵衛に、官兵衛が揃えば私なんか無用。
ほっといても、天下はサルのもの!
膨らむ期待。
でも、それはサルが墨俣に一夜城を建てた後。
まだ先。
その時をまだか、まだかと待っている。
待っていると時間はなかなか進んでくれない。
そんなある日、うつけの殿が私の所に突然やって来た。
頼りない薄い木の板でできたドアをいきなり開け、うつけの殿は言った。
「ねね、久しいのう」
慌てて玄関まで行くと、私は平伏した。
「お久しゅうございます」
うつけ相手に平伏なんて! って、私のプライドが言うけど、うつけでも殿には変わりない。
しかも、いずれは「天下布武」を唱える男。
「まじでぇ? それは信長様でしょ。これはうつけの殿だしぃ」と、頭の中で私を茶化す別の私。
天下布武やってもらわなきゃ、困るでしょ! と、頭の中の声を一蹴する。
「今日はのう、ちとそちに相談があっての」
そう言ったうつけの殿の顔は、しまりがない。
はぁぁぁ。
敦盛を舞っていた時のようなきりっとしまった、知性を感じさせる顔をまた見たいなぁ。
もちろん、見かけだけじゃなく、中身もあれば最高なんだけど。
心の中でため息をつきながら、うつけの殿に返事をする。
「何でございましょうか?」
「うむ。
美濃なんじゃが、なかなか落せやせぬ。
墨俣に城を築こうと思うてな」
待ってました!
そんな気分と、どうして、そんな発想が? と言う疑問が私の頭の中で渦巻く。
何でもいいじゃん! 歴史通りなんだから!
私の頭の中、全員の結論。
その結論に至るまでの間、呆けた表情をしてしまっていたのか、うつけの殿に言われてしまった。
「どうしたのじゃ? うつけのような顔をして」
あんたに言われたくはないよぅ!
「いえ。ところで、どうしてそのような事をお考えに?」
もしやして、お市さまが言うように、うつけじゃなく、歴史通り本当は切れ者?
私の問いかけに、自慢げな表情を見せた。
目の付け所がするどいでしょ! と、どこかの会社の名を日本語にしたようなフレーズを、うつけの殿は心の中で思っていそう。
も、も、もしや、期待できる?
少し胸をどきどきさせながら、その答えを待つ。
「何度攻めても、攻めても、美濃は落とせぬゆえ」
来たぁぁぁ!
そうよ。美濃を落すためには、墨俣に築城が必要。
そこに、うつけの殿も気付いたか!
本当はただのうつけではない?
続く言葉を待つ私。
ごくりと唾を飲み込む音がした気がしてしまう。
恥ずかしいよぅ。
そんな私の気持ちも知らず、へらへら顔になったうつけの殿が言う。
「悔しいから、国境に城でも建てて憂さを晴らしたいのじゃ」
背中の筋肉が一気に消滅したかのように力を失い、私の体は前のめりになって、倒れそうになった。
「どうしたのじゃ? あまりの優れた発想に驚きおったか?」
「は、は、はははは」
笑うしかありません。
やっぱ、うつけ? と言うか、子供?
この人、見た目は大人、頭脳は子供! ってやつ?
そんな私の気持ちとは関係なく、言葉を続けている。
「そこでじゃ。
サルにやってもらおうと思うておるのじゃが、どうじゃ?」
「はい?」
聞き違い?
だって、墨俣築城は佐久間信盛が失敗、続いて柴田勝家が失敗してから、サルじゃない。
歴史が変わっちゃうじゃない。
「どうして、藤吉郎なのでしょうか?」
「何を申しておる。
清州の城の修復、見事であったではないか。サルには才がある。
そう見込んでの事じゃ」
「人を見る目はあるかもね?」と、未だに信長様大好きな私が頭の中で言う。
「あははは。あったら、サルの知恵じゃないって事まで見抜くでしょ。
サルの才だって、思ってる時点でアウトなんじゃないの?」と、冷静な私が言った。
どっちか分かんないけど、断るしかないでしょ! と、私の言葉に、全員が頷いた。
「あー。それはご容赦くださいませ」
そう言って、平伏した。
絶対、サルにさせる訳にはいかない。
歴史が変わってしまえば、今まで我慢した事が無駄になってしまうじゃないのよ!
「なぜじゃ?」
「はい。築城のような重要な事を家中のお歴々を差し置いて、そのような真似をいたしますれば、藤吉郎が睨まれてしまいまする」
平伏したまま、そう言った。
「そのような事、わしは気にせぬが」
「いえ。殿は気にされずとも、お歴々は気にされまする」
「なるほどのう。
ねねが言う事も確かじゃな。
では無理強いするまい。
致し方あるまい。他の者に命じよう」
「ははぁ。ありがとうございますぅ」
平伏したままの私をおいて、うつけの殿は去って行った。
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