いつ殺るか。今でしょ!
私がうつけの殿をどう思うか?
そんな事を聞く理由って、何?
も、も、もしかして、結婚相手として?
歴史通りの信長様なら、うれしいけど、あのうつけの殿じゃねぇ。
いえいえ。濃姫はどうしちゃったって言うの?
頭の中は暴走気味。
ちょっと、体温さえ上がってきた気がしちゃう。
意味わかんないよぅ。
「分かんなきゃ、聞くしかない。それが結論でしょ!」と冷静な私。
その言葉に、私は口を開いた。
「あのう。どう思うって言うのは、どう言う意味なんでしょうか?」
そこまで言った時、再び頭の中が暴走し始めて、とんでもない言葉を付け足した。
「け、け、結婚相手にですか?」
私の言葉に、お市さまの目が点になった。
「それよ、それ! その表情を目が点と言うのよ!」と、負けず嫌いな私が頭の中で言う。
「ほほほほ」
口元を押えて、優雅な笑顔で笑いはじめた。
違ったみたいだね。私の頭の中の全員の結論。
「子供はやはり純粋で面白い発想をするものじゃ」
「は、は、はははは」
笑って誤魔化すしかない。
穴があったら、入りたいよぅ。
頬が熱い。きっと、真っ赤になっているに違いない。
「私がたずねたいのは兄上を本当にうつけと思うかどうかと言う事じゃ」
「はい?」
「どう答えたらいいの?
本当の事言っていいのかな?」 私の問いかけに、頭の中の色んな私が一斉に反応した。
「どう見ても、うつけでしょ」
「でも、うつけって、答える勇気ある? 殺されるかもよ」
「その質問、あのうつけぶりを見る前に聞いてほしかったなぁ」
答えを出せない私に、お市さまは今回の信行暗殺の話を語り始めた。
「知っておろう。兄上が弟の信行を暗殺した話」
私はこくりと頷いてみせた。
うつけの殿から、その話が聞きたくて、来た訳なんだし。
そんな私にお市さまが信行暗殺の要点を語ってくれた。
うつけの殿は病で床に伏していた。
しかも、命ももう幾日ももたない病。
そのうつけの殿の見舞いに、母上を伴い見舞いに参ったのが、弟信行。
病で伏しているうつけの殿を見舞いに行けたのは信行だけであった。
そこまでは私も知っている。歴史通り。もちろん、病は仮病だけどね。
そして、信行を暗殺してしまう。
でも、それは歴史で出てくる信長様がやった事。
今回はうつけの殿。
そのうつけの殿も同じ手を使われたのか。
私は全神経をお市さまから語られる事件の真相の理解にあてた。
お市さまから語られた事件の真相。それは衝撃的だった。
高熱で床に伏しているうつけの殿。
見舞った信行がうつけの殿の床の横に座って、しばらくした時、うつけの殿は高熱にうなされ、暴れはじめたらしい。
突然の出来事に慌てて、うつけの殿を抱き起そうとした瞬間を見たうつけの殿の小姓たちが、信行がうつけの殿の首を絞めて殺そうとしていると誤解し、成敗してしまったと言うのだ。
「殿がうつけなら、小姓もうつけね」と、諦め顔の私。
そんな私をじっと見つめるお市さまの表情は真剣そのもの。
「ねね。いかがじゃ?」
「う・つ・け?」
お市さまの問いかけに、小首を傾げながら、疑問形で答えてみた。
「素直じゃなぁ」
お市様はそう言うと、また優雅な笑顔で笑いはじめた。
「ほほほほほ」
笑い終えると、また真面目な表情を私に向けた。
「じゃがな、その話が真であるかどうかは分からんのじゃ。
兄上がそう申されただけでな。
それに、そちが兄上に授けた策じゃが、果たしてうつけに演じきれるものであろうか?」
「す、す、鋭い質問かも」と、冷静な私。
「うつけだって、できるんじゃない?」と、諦め顔の私。
頭の中で交わされる意見。結果など出やしない。
小首傾げる私に、お市さまは続けた。
「その内、駿府の今川義元は京を目指して、兵を進めて来るに相違ない」
「はい!」
知っている事実だけに、力を込めて同意してしまった。
「ねねは、そのような事も知っておるのか?」
「あ、は、は、はい。甲相駿三国同盟にて、後方の憂いを絶った今川勢が、駿遠三の兵を引きつれ、京目指して、攻め上ってくるは必定」
「なるほどのう。そちは子供の発想だけでなく、知識もそれなりに持っておったか」
お市さまの視線は鋭くなっている気がする。
見た目は子供、頭脳は高校生を見抜かれた訳じゃないだろうけど、ちょっとまずった? と言う気分になってしまう。
「いやあ、そもそも高校生なんて、この時代にないから」と、一人突っ込みしてみる。
そんな私の気持ちとは関係なく、お市さまは語り続けていた。
「この尾張も固められないまま、今川義元を迎え撃つ事など叶わぬ。
それを考えれば、悲しいことですが、信行を排除するのは今だったような気もするのです」
「はい。いつ殺るか? 今でしょ!」と、お調子者の私がどこかで聞いたフレーズを頭の中で言う。
「すなわち、信長様の全ては計画の内で、熱でうなされてと言うもの、作り話と言う事でしょうか?」
お市さまが頷いてみせた。
「兄上が実の弟をその手にかけたとなれば、母上の心痛は計り知れないものになります。
ですが、兄上が話したようなものであったなら、母上の心の傷も少しはましなのではと思うのです。
もちろん、兄上が語った事を家臣たちに話す訳にも参らず、表向きは全ては兄上が仕組んだ暗殺劇としてはいるのですが」
「うーん。難しすぎます。
私には判断できません」
そう。それが本音。
どう見ても、本物のうつけだと思っていた。
でも、お市さまの考えが正しいとすれば、うつけじゃないかも。
「歴史通りの本物の信長様よ!!」と、最近姿を潜めていた信長様を信じたい私、信長様大好きな私が元気よく叫んだ。
「そうですか。ねねにも分かりませんか。
ところで、ねね。
今川義元が侵攻して来た場合、兄上は防ぐことができると思うか?」
「はい、策次第で」
そう、これは事実。
籠城なんて言う消極的な受け身でなく、打って出て奇襲すればだけど。
「相手の兵力は数万と思われるが」
私の答えが意外だったらしく、驚いた顔つきでお市さまが言った。
そりゃあ、そう。信長様が勝てるなんて、普通は思いやしない。
「それでも、必ずや」
「ねねは子供とは思えぬ気がする」
はい。それ、当たりです。
ピンポーン!と言いたいところをぐっと抑えて、神妙な顔つきのままお市さまを見つめる。
これがアニメとかなら、今、お市さまはねねの姿の向こうに半透明で本当の私の姿を見ているに違いない。
「今川に動きあった時には、よろしく頼みますよ」
そう続けたお市さまの言葉に、「はい」と答えて、再び平伏した。
何やら、お市さまにも信頼されたような。
この人はうつけの殿やサルと違い、知性を感じてしまう。
うれしいような、それでいてこの世界にとけ込みつつあるようで、悲しいような微妙な感じ。
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