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道化は踊る  作者: かずほ
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7

「じゃあ、お願いね」


ラビリオはこくり、と一つ頷き、母の指した方向へ目を向ける。


輪郭がぼやけているが、集団らしきそれに目を向ければ、チラチラと垣間見える陽光に煌めく金とピンクの組み合わせを目にし、多分、あれだろうな、と何となく思った。


「坊っちゃま」


歩き出そうとしたところに声をかけられ、振り返れば使用人の一人に眼鏡を掛けられ、視界が一気にクリアになった。

先ほど掃除を頼んだ使用人から聞いたのだろう。


「お気をつけて行ってらっしゃいませ」


笑顔の使用人に再びこくり、と頷き、金とピンクが垣間見える集団へと歩き出した。



✳︎




ドン!


かしゃん。


「あら、大丈……ふっ」


「ハンナ!?」


パリン


「……」


ラビリオにぶつかった貴婦人が倒れる拍子に落ちた眼鏡を踏み抜いた。

幸い倒れかけた貴婦人を同伴中の夫が支え、ことなきを得たようだ。


ラビリオには「幸い」も「ことなき」もやってこなかったが。


(今日はよく、眼鏡が割れる日だな……)


ラビリオは遠い目をしながら思った。



二度あることは三度ある。



そんな言葉がラビリオの脳裏をよぎった。

眼鏡の予備は幾つかある。しかし、今代わりを持ってきて貰っても、また割れてしまう気がして諦めた。


こちらを見下ろし、硬直した貴婦人の夫であろう人にぺこり、と頭を下げ、ラビリオは仕方なしにこのまま進む事を決めた。



✳︎


ラビリオは非常に困っていた。


あと、数歩も歩けば、母の言った集まりに辿り着く。

しかし、それはラビリオにとっては未知の領域だった。


色とりどりのドレスに包まれた、柔らかな少女達の(カベ)

その内側に母の言う少女が居るのがわかるのに、どう声をかければ良いかがラビリオにはわからなかった。



その輪を見つめ、ぼんやり思案に暮れていると、ふと、緑の瞳とぶつかった気がした。


よく目を凝らせば、母に言われた金とピンクの女の子だった。


(なまえ、なんだっけ?)


眉間にシワを寄せてさらに考え込む。と、件の女の子は突然、(多分)扇子を地面に叩きつけた。


突然の行動に驚いていると、どうやら虫に驚いたらしい。


内心でほっと胸を撫で下ろし、人の(カベ)が緩んだ今がチャンスと思い、ラビリオは勇気を出して金とピンクの女の子に声をかけた。


瞬間、少女の一人が小さく悲鳴を上げ、続いてラビリオと同じ年頃の少年が突然泣き出した。


(そんなに、こわいかお、してるのかな……)


ラビリオは改めてショックを受けた。


自分を見た時の大人の反応には馴れていたが、少年少女の反応には馴れていなかった。


✳︎


「ちちとははがよんでます」


それでも自分はお遣いに来た事を思い出し、女の子に向かって声をかけた。しかし、返事がない。


(ひょっとして、ぼくの顔、こわいのかな?)


自分の言葉の足りなさにまで考えが及ばず、ならば、と思い、ラビリオは女の子から視線を外す。

女の子からはやはり返事がなく、こちらをじっと見つめているのがわかる。

不思議に思い、ラビリオは再び女の子に視線を戻す。


薄い金色の髪が陽光に反射してきらきらしていた。

目の色は視力の弱いラビリオでも判るはっきりした緑色。

顔の造作はぼやけてはっきりしないが、多分、可愛いのだろうな、と思う。


そんな事を思っていたら、いつの間にか、先ほどの集まりに別れの挨拶をしていた。


ラビリオと同じくらいの年なのに、たくさんの年上の人達相手にきちんと挨拶をする女の子に密かに尊敬の念を抱く。


くるりと踵を返し、こちらに歩いて来るのを見て、ラビリオも元来たであろう道を歩き出した。


少なくない大人達の中、もはや父はおろか、母の姿も見えない。

視界はぼんやりしているが、父と母が視界に入れば何となくそれと判るし大丈夫だろう。


そう思い、後ろに女の子が付いてきている事を確認しながら両親の姿を探していると、


「あ!!」


後ろで突然声が上がった。


「なに?」


振り返っ瞬間、目の前に女の子の顔が迫ってきてギョッとした。


息がが顔にかかるくらいまで近づききらきらした緑の瞳が飛び込んできた。


間近で視認した女の子はラビリオの予想通り、やっぱり可愛かった。

丸い大きな瞳を縁取る長いまつげ、ふっくらした頬は赤く染まり、ピンク色の唇は小さく弧を描いている。


ふんわりと香る甘い香りにドキドキしながら、ラビリオは身を引いた。

途端に視界がぼやけてしまい、それが惜しくてラビリオは目を眇めた。

やっぱり視界はぼやけていた。


「なに?」


女の子はぱっと身を離すと、ラビリオの手をギュッと握った。突然のスキンシップに驚き、反射的に握られた手が震える。


「あなた、めがわるいんじゃなくて?」


その声には初対面特有の、恐怖も戸惑いも含まれていなかった。


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