5
イリーナ・ハルベルは5歳である。
もうすぐ6歳になる。
だが、まだ5歳である。
3歳の頃より降りるようになった「お告げ」の影響か、イリーナは同年代の少年少女と比べて大人びていた。
大人が言うところの「おませさん」である。
しかし、どれだけ大人びていようともイリーナはまだ5歳。
見た目は子供、そして頭脳も子供だった。
イリーナは握った少年の手をぶんぶんと振り、ぴょんぴょんと跳ね、「やっぱり!」と喜びを表した。
「お告げ」が見せた少年は、グラース夫妻の子供だと一目で判った。
おっとりした笑い方が同じだったからだ。
しかし、目の前の少年は、何がそんなに気に入らないのかと言うくらいに目つきが悪かった。
目の前の少年と、イリーナの脳裏に浮かんだ少年の違いを探せば明白だった。
イリーナの記憶にある少年は眼鏡をかけた、知的なお兄さんだった。
目の前の少年は眼鏡をかけていない。
それに気がついて、よくよく見れば、別宅で過ごすイリーナの祖父が眼鏡を探しながら新聞を読む時の目つきに何となく似ている気がしたのだ。
面食らった少年は、睨む事も忘れ、目をパチクリと瞬かせた。
その顔こそが、イリーナの脳裏にある少年の面影と重なる。
謎かけの答え合わせに今、当に正解した気持ちの良さと喜びがイリーナの中にあった、形を成そうとした「警告」を霧散させた事にイリーナは子供故に気付かなかった。
「めがねはしませんの?」
イリーナが不思議そうに首を傾げる。
「とちゅうで、おとして……われた」
ラビリオはふいっと顔を背けた。
「まあ、たいへん」
そう言った直後に我に返ったイリーナは慌てて少年から手を離し、ドレスの裾をつまんでみせた。
「わたくしはイリーナ・ハルベルですわ」
それを呆けて見ていた少年は、慌ててぎこちない仕草で礼をとった。
「ラビリオ・グラース……です」
「エスコートしてくださる?」
「むり」
即答だった。
「はじめて、だし、みえないし……」
ボソボソと続けるラビリオの腕をイリーナは取った。
突然の事にびっくりしたラビリオにイリーナはにこり、と笑う。
「じゃあ、わたくしがエスコートしてさしあげますわ」
表情もなく、まじまじと見つめるラビリオが、こくり、と頷いた。
「じゃあ、おじさまたちをさがしましょう」
イリーナはラビリオの腕をぐいっと引っ張りラビリオはよろけながらも歩き出した。