会いたい気持ち
僕がこの家に引き取られたのは、彼女が小学校6年生の時だ。
引き取られた日に彼女は、怯えてばかりだった僕の頭を撫でながら「大丈夫だよ。今日から私たちは家族になったんだよ」と優しく話しかけ、ギュッと抱きしめてくれた。
彼女の穏やかな声と甘いやさしい薫りに包まれて、僕はスグに彼女が大好きになった。
それから僕はいつも彼女といつも一緒にいた。散歩に行くのも一緒だったし遊ぶのも一緒だった。毎日同じベットで眠った。時には一緒にお風呂にも入った。
そして一緒に大きくなった。毎日が幸せだった。
そんな幸福な日々が6年ほど続いたある日―――彼女が家からいなくなった。
お母さんが「大学に入って独り暮らしを始めたのよ」と説明してくれたが、僕にはよく分からなかった。分かったのは、大好きな彼女との日々が終わったという事だけだ。
寂しくて落ち込む僕をお母さんは慰めてくれた。
ご飯は僕の好物ばかりになったし、いつも一緒にいてくれた。でも僕にはわかる、お母さんだって寂しいんだ。時々だけど、お母さんから涙の匂いがした。
それからはお母さんとの、寂しさを抱えた生活が日常になった。
今日は朝からお母さんがとても嬉しそうにしている。
ご飯の準備にもかなり力が入っているし、僕の顔を見る度に「うふふ。楽しみだわ」と含み笑いを浮かべている。僕は訳が分からなくて首を傾げるばかりだ。
夕方になり、呼出しのチャイムも鳴らずに玄関の扉が開いた。そして―――
「ただいま-」
彼女の声が響いた。
驚きのあまり僕がわたわたと戸惑っていると、お母さんは僕を見て楽しそうに笑っている。そして「おかえり」と言いながら玄関へと通じるドアを開けた。すると――
――懐かしい甘く優しい薫りがあふれてきた。
ようやく僕は理解した。彼女が帰ってきたんだ。喜びのあまり身体が勝手に動き出す。
僕は喜びの声をあげながら走り出し、そのままの勢いで彼女の胸に飛び込んだ。
「わっ!? ちょっとちょっと危ないよ!?」
彼女は僕をギュッと抱きしめてくれた。そしてそのままうずくまりポロポロと涙を流した。僕は安心させたくて彼女の顔をペロペロとなめる。
「もう、くすぐったいじゃない……」
彼女は僕をもっと強く抱きしめた。
「早かったわね」
お母さんが彼女に問いかけた。
「この子に早く会いたくて、大急ぎで帰って来ちゃった」
「そうね・・・・・・姉弟だものね。この子もこんなに喜んで。でもさっきはあなたの声を聞いた時、キョトンとした表情をしてて面白かったわ」
「お母さんの意地悪……。帰って来るってこの子にもちゃんと教えてあげてよね」
「はいはい、次からそうするわ。もうそんなに泣いて……、泣くぐらい会いたかったのなら、もっとマメに帰ってきなさい」
「うん……そうする……」
彼女は僕の身体に顔を埋めながら応えた。
僕もそうだそうだと声をあげた。
わんっ!! わんっ!!